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言語心理学「あなたのために」

この言葉をよく使う人シリーズ、今回は「あなたのために」をみていきます。


■「あなたのために」を多用する人


「あなたのことを思って言っているんだよ」
「あなたのためにやってあげたのに」

「あなたのために」を理由に、
自分の行動を「正当化するいいわけ」、
つまり「自分の非は認めず、行為の被害は認める」ケースです。
または、行動前にこの言葉を使う場合は「回避のいいわけ」になります。
自分のためにやっているのではなく、あなたのためにやっているのだから
文句をつけるのは筋違いだ、という前提をあらかじめ作っていることになります。

ほとんどの場合、それを言われた側は
「余計な、お・せ・わ!」
と思います。


■「あなたのために」を多用する人の心理


「あなたのために」何かを行う、というのは
端的に言えば「押し売り」です。

自分の中の正しさを証明するために、
人に影響を与えずにはそれを証明できないという心理が働きます。
例えば宗教やネットワークビジネスを積極果敢に勧める人は好例です。

こうして積極果敢に正しさを証明しなくてはならない心理を持ちながら、
同時にその結果には責任を持ちはしません。
これは根底に「相手のことなど寸分も考えていない」という前提がありますが、その心理は「自己中心であることを隠したい」というところにあります。

つまり
自分の正しさを、人に影響を与えることで証明したい」心理と
自分中心のワガママな人間と思われたくない」心理が
両立している状態です。

もちろん文字通り「あなたのために」何か行動を起こしている(起こした)のではなく、行動基準は全て自分の正しさを証明するところにあります。

端から見てこの言葉を使いながら
その人の中にある正しさが通る、
ということはあまり考えられません。現実的ではない。
実際、この言葉を多用する人も
かなりの高確率で物事がうまく運ばないことを実感しているはずです。

それでも「あなたのために」を使い続けるのは
物事が失敗に終わったときに責任転嫁できるからです。
つまりこの言葉を使う人の心理には責任転嫁もある、ということです。

たとえば宗教やネットワークビジネスを拒否されたとき
結論として「自分ではない相手」が悪い、理解が足りない、バカだ
というところに至ります。
一度は賛成しておきながら、物事がうまく運ばないために
文句やクレームが出ると
「それはあなたの信心や努力が足りないのだ」という説明が
おもしろいほどこの世界では成り立ちます。
つまりは「自分のせいではなく、あなたのせいだ」というロジックです。


■「あなたのために」を多用する人の傾向


基本的に自分の主張を言いたく、責任は避けたい。
しかも物事がうまく行かなければ責任転嫁をする。
こういう心理を持った人の大きな特徴は、
権威や繰り返される情報に判断を委ねきってしまうということです。

極論すれば、
この言葉を多用する人は、イコール自分の頭で考えることができない人
ということになります。

しかも
自分の頭で考えず権威に頼りながら
自分の正当性を通そうとします。
責任は取ろうとしません。
むしろ責任転嫁を行います。
「虎の威を借る狐」と言えなくはないですが、
狐よりも頭は働かないというような特徴を持ちます。

こういう特徴を持った人が
人とうまくコミュニケーションが取れるはずがないのに
どうしてか一定の割合で身近に存在するのは
壊れない人間関係」に甘えることができる状態があるからです。

たとえば、
血のつながりという肉親関係や、
保障されたポジションという上下関係(の上)
などがあります。

宗教やネットワークビジネスを押し売りすると、多くの場合友達を失います。
にもかかわらず、友達を失い続ける人が後を立たないのは、
こういったものを広める以前に、「甘えが許される環境」をどこかで過ごしており、そのコミュニケーションスタイル(コミュニケーションと呼べるものではないが)がその人の中に定着しているからです。


■「あなたのために」を多用する人との付き合い方


このタイプが上司なら、職場はかなり苦労体質になります。
どんな無理難題も(無理難題だからこそ)「お前のためになる」という
免税符によってGOサインが出されます。
結果を出すことができない、うまくできない場合は
できないあなたに原因があり、ダメなのだと決められます。

また人格攻撃も許される傾向があります。
本来仕事の結果と人格はリンクしていませんが、
人となりを攻撃されても「これはお前のために言っているんだ」という
免罪符が乱発されます。
「俺が若かりし頃はもっと厳しかった」というような発言も
「あなたのために」のニュアンスを含みます。
同じように免罪符言葉です。

このタイプが部下なら、職場の空気を乱す恐れがあります。
「みんなのために」やっているから良いことであるとか、
「お客さんが喜ぶから良いこと」であるという、自分の基準で仕事を行い、
会社が求める結果や成果を向いて仕事をしなくなるからです。

仕事上で成果を出す他の人はそれを見て疑問に思います。
上司がそれを褒めたりなどすると、
他のスタッフは一気にモチベーションを落とします。

悪くすると、上司の言っている間違ったことに
この言葉を使う人がまじめにそれを受け止め、広めようとすると
良識のある人ややる気のある人、結果を出せる人は
会社を去るということにも十分なり得ます。

このタイプが恋人なら、
その程度にもよりますが、別れた方が無難です。
コミュニケーションスキルやテクニックで解消はできません。

なぜなら、
コミュニケーションの成立には必ず相手が必要であり、
相手に
「あなたを理解する気がない」
「自分の考えを押し付けたい」
「うまくできなければ責める」
「自分が悪いのではない」
という前提ではそもそも成り立たないからです。

そして根底に、甘えが許されてきた(省みる機会がなかった)状況が
ある場合が多いので、そういった過去からの習慣を変えることは容易ではありません。
かといって我慢に我慢を重ねて付き合い続けても
いつかは破綻するだけです。

もし「あなたのために」と言うケースに傾向があるのなら、
その傾向には触れずにうまくやっていくというのもひとつの方法です。
可能なら試してみてもいいでしょう。

またはそんなふうに言われても「気にならない」という人もいると思います。
あなたが気にならないのなら、それはそれで構いません。
しかし今後生まれてくる子供や、家族、周囲の人に対しては
ここまでに書いたような弊害が生まれるということも知っておいたほうがいいでしょう。


■「あなたのために」の多用を変える


この言葉を使う人は根が深いので、変えることはとても困難です。
しかし長い時間をかけて、根気強く行えば不可能ではありません。

まず、自分が人間関係に依存し、甘えている状況がどんなときか記録します。

そしてまずはその関係を断ち切ることです。
いつまでも親に甘え切っているのなら
自立して一人暮らしをはじめ、仕送りを断ることです。
といって、これまでの習慣で培われたものなので
これはなかなか困難でもあります。

次に可能性を高める方法は、
「お、これは!」「素晴らしい!!」と思ったときは必ず
一度それを心にしまいこんで人に言いふらさないことです。
夜に書いたラブレターは、翌朝見ると恥ずかしくて出せないといいます。
だから一晩~三日置いて、冷静になって読み返した方がいいという話を
聞いたことがあるかもしれません。
このラブレターと同じことを、自分が「素晴らしい」と思ったことに適用します。

「お、これは!」「素晴らしい!!」と感じる感情が、
「あなたのために」「人のために」「貢献するんだ」という大義名分の
引き金になるからです。
引き金が何かをよく知り、その引き金となる物事が来たときは流されないよう注意します。

しかし、これも容易にできることではありません。

少し遠回りですが
本当に「自分のために」なることは何なのか、
自分の「価値観」は一体何なのか、
という自分基軸をしっかり見直して発見することは
「あなたのために」状態を脱するひとつのきっかけになります。

同じく
人によってどのような違いがあり(例えば性差、年齢差など明らかなものから)、なぜ違いがあるのか(脳構造や文化、環境適応)ということを
勉強して知識を増やすこともきっかけのひとつになります。
「違う」存在を許容することができるようになるからです。

「こうでなくてはならない」という考えは、違いを許容できないことから引き起こされます。
知識を増やせばある程度軽減されます。

代えた方がいい言葉は残念ながらありません。
この言葉の場合はもう、「使わないようにする」のが最も効果的です。
言葉を使わないからといって、行動が強制されるわけではありませんが
言葉を封じることから逆順で道をたどって、徐々に行動を強制していくのはひとつの方法です。

もし周囲にあなたのことをよく考えてくれる人がいるのなら、
あなたがこの言葉を多用するときが(つまりストレスを多大に感じるとき)
どんなときかをよく見てもらい、そのようなストレスを感じなくてもいい状態をえるにはどのようにすればいいか話し合って手に入れることができるように協力してもらってください。

確実にこれという方法を示すことはできませんが、
ここに書いたことを併用すれば徐々に改善されていくはずです。



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