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Traveler's Voice #8|舛井明奈

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただくことと、ゲストが日頃行っている活動を合わせて紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画・OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。                              


ゲスト紹介

Travelers Voice 第8回目のゲストは舛井明奈さんです。北九州で生まれ育ち結婚を機に山口に移住、今は山口市内で「à tes côtés アテコテ」という生花店を営んでいます。今回は配偶者である舛井岳二さんと共に足を運んでいただきました。エスパシオ、旅、花について横断的に話を聞いてみたいと思います。


明奈さんが泊まったお部屋紹介

明奈さんに宿泊していただいたお部屋は502号室です。エスパシオで最も大きなお部屋で、大きなソファスペースが特徴的なツインベッドルームです。


インタビュー

Araki:おはようございます。502号室がすっかり舛井家になっていますね 笑。あいにくの雨ですがライティングを暗くすることで雨の景色が幻想的で、なんだろう、何度も出入りしている部屋なのに、入ってきた瞬間ドキッとしました。今回はご夫婦で宿泊していただきありがとうございます。昨日は出迎えた時の荷物の多さに驚きました笑。岳二さんが陶芸家で明奈さんがお花屋さんということもあって、食べ物を盛るお皿とコーヒーを飲むカップに加え、花器と花束まで準備してきた方ははじめてです 笑。宿泊されていかがでしたか。

Akina:見てのとおりというか、リラックスし過ぎてもぬけの殻です 笑。家からこんなに近い場所なのにまるで旅先で迎えた朝のようで、目覚めた瞬間、あれっここどこだろうってなりました。昨日チェックインしたときはもう日が暮れていたので気が付かなかったけど、朝目覚めてベッドに寝転びながらふと前を見ると、山と空が窓に美しくトリミングされていて、そこにさらに雨が降り注ぎ、でも雨の音や車の走る音は聞こえない、それはまるで音量をオフにして美しい映像を眺めているようで、ほんとに感動しました。旅には慣れているのである程度のことは予測しているつもりが、住み慣れた場所ということもあって油断していたのかなあ、ここはもうすでに遠く離れた旅先です。

Araki:たしかに雨の日がこれほど美しいとはぼくにとっても新たな発見です。それと何より、もうすっかりお二人の部屋になっていて、まるでぼくがゲストとして招かれているようです 笑。お花も部屋に馴染んでいて素敵ですね。

Akina:お部屋に合うか不安だったけど、この馴染み具合にわたしも驚いています 笑。今思えばこの企画に招待していただいてから私の旅ははじまっていたような気がしていて、どんなホテルなんだろうと調べてみたり、部屋に合う花や花器を見繕ったり、旅にはきっと準備を楽しむ時間も含まれているんでしょうね。そのなかでも花を準備している時間が一番ワクワクできて、あらためて自分のために花を贈る喜びを確かめることができました、ありがとうございます。

Araki:楽しむために試行錯誤している時間がいちばん楽しいのかもしれませんね。明奈さんはいつも花と向き合いながら生活しているので、贈るという行為が習慣化されることが影響してか、旅の楽しみを自分自身で広げるパワーを持っているように感じました。よく旅行されるんですか。

Akina:旅行はとても好きです。とくに異文化に触れることが好きなので海外によく行きます。そのためにひとりで生花店をしているようなもので、花の枯れやすい夏は2ヶ月ほど休業して旅にでかけるようにしています。中でもアジア旅行が好きで、シンガポール、ベトナム、タイはわたしにとって大切な思い出になっています。今年はニュージーランドと韓国に行く計画を立てていて、今からワクワクしながら日々のフラワーライフを過ごしています 笑。こんな風に旅をできているのは今の生活習慣を手に入れたことが助けになっているんですけど、旅行に行くための長期休暇と言いつつも、実のところ枯れゆく花を見ることからエスケープしているのかもしれません。

Araki:なるほど、長期休暇は自分のためでもあり花への想いの表れでもあるんですね。枯れゆく花から距離をとっているのかもしれませんが、年に一度自分に大きな花を贈るような行為のようにも聞こえて、素敵な旅の動機だと思いました。

Akina:ああ、そう言われると、その通りだと思います。私にとっての旅は”花を贈る”ことと同じことで、生活の中に潤いや華やかさを取り入れるためのひとつの方法だから積極的に取り入れるようにしています。アテコテに来てくれるお客様もわたしと同じような価値観で花を買う人が多いと感じていて、そのお手伝いをできることがとても楽しくて、今の仕事にたどり着けたことに感謝しています。

Araki:お花屋さんになったきっかけはなんですか

Akina:わたしは北九州出身で、岳二さんと出会うまで山口にはとくに縁はありませんでした。大学卒業後は実家のお肉屋さんで3年ほど働きながら将来を模索していたのですが、とある結婚式で偶然出会った花束にものすごく感動してしまって、気がついたらその帰り道に目にした花屋さんの求人広告片手に電話していました 笑。そこからしばらく北九州の生花店で働き、その後ワーキングホリデイを利用して1年間フランスの生花店で修行してきました。他国で花を学べたことはとても貴重な時間だったけど、今思えばもっと観光しておけばよかったと後悔もしています 笑。その後、結婚を機に山口に移住し生花店を開業することになりました。それがアテコテです。開業して1年半が経って、ようやくここでの生活に慣れてきたり、友達も増えたことで理想の暮らしができるようになってきました。

Araki:お肉屋さんからお花屋さん 笑。なんだかすごいジャンプですね。

Akina:いえいえ、そんなこともなくて 笑。肉も花も自然から命を切り離したあとの鮮度と向き合う商売なので、肉屋で働いているときと、いま花屋で働いている感覚はとても似ています。フードロスが問題になっているように、無駄に枯れゆく花を見るのはとても辛いことなので、仕入れた花はすべて誰かの手に渡すことを日々のミッションにして、今日もちゃんとぜんぶお渡しすることができるかなと心配しながら店に立っています。

Araki:なるほど、字面やビジュアルで比較すると大きく違って見えるけど、そう言われると肉と花は似ていますね 笑。となると、肉と花の違いについも聞いてみたいです 笑。

Akina:肉と花の違いは明確です。肉と違って花は、自然から命を切り離したあとも成長し続けています。環境を整え水や肥料を与えることで自然の中に放置するより長く生きるケースもあるくらいで、生花店という営みは自然に代わって人が命を預かる行為だと思っています。もちろんそこには人の都合で命を自然から切り離すことへの責任もあるから、その想いが合わさることでより一層、命を尊ぶことにつながっているし、美しく感じることの背景にはそういう心の動きも関係しているような気がしています。

Araki:なるほど、命を預かりそれを誰かの手に渡すことに喜びを感じているんですね。アテコテではドライフラワーも扱っていますか。

Akina:アテコテは生花に拘っているのでドライフラワーは扱っていません。といってもドライフラワーが嫌いなわけではなく、私は花から生命力を受け取りたいタイプなのでそうなっています。でもドライフラワーを扱う人にもそれ相応の死生感があると思うのでいちど話を聞いてみたいなと思っています。私はまだドライフラワーの価値を言葉にできないけど、あえてお肉に例えると熟成肉のようなものかもしれませんね 笑。違ったらごめんなさい。

Araki:どうなんでしょうね 笑、ぼくもドライフラワーを扱う人の話を聞いてみたくなりました。では、明奈さんはフランスの生花店で働いた経験もあるので聞いてみたいのですが、フランスと日本で花に対する価値観の違いはありますか。

Akina:国の違いと出店先のコミュニティの違いどちらが影響しているのかは分かりませんが、フランスで勤めていた生花店ではワイン片手に満開の花束を求める人が多かったです。それに比べると、アテコテではつぼみの状態を求める人も多くて、花を部屋に飾ったあとに開花してその後数日かけて花びらが落ちていくまでの長い時間を楽しむ方が多いと思っています。満開の状態とつぼみの状態どちらに心が動くのか、そこに国の違いがあるような気もするけど、国とは関係なく人それぞれである気もするし、実のところその違いはよく分かっていません。けれど、わたしはつぼみの状態に強く生命力を感じているのは確かなので、お客さまには育てることそのものを楽しんでもらえるように、売って終わりじゃなくて、ちゃんと世話の方法も伝えるようにしています。

Araki:花は贈り物にすることが多いから、ちゃんと育て方を含めて伝えることができているのか、たしかに命を受け渡す立場からすると不安になる要素ですね。明奈さんと話すことで、花が生き物であることを再確認することができました。では少しだけ命から話を変えて、花を扱うビジネスについても教えてください。ホテルもそうなんですが、最近どんなビジネスシーンでも高級化や個人のクリエイティビティに注目が集まっています。花の業界でもそのような流れはありますか。

Akina:そうですね、美容やファッションに例えると分かりやすいと思うのですが、生花店にもフローリスト個人のセンスにお客様がつくという時代になっています。消費者からすると同じ花でも”あの人”に生けてほしいという希望があって、花そのものの価値からアレンジメントする個人へ価値が移り変わっていると思います。有名なフローリストになれば店舗を持たずに、まるでスタイリストのように世界中を飛び回る方もいます。もちろん有名になることでクリエイティビティに対する報酬も上がります。それはそれで良いことだと思っていますが、アテコテは私の分身のようなものでもあるので、そういう派手な方法ではなく、もっと生活に密着した花の楽しみ方を伝えるための生花店でありたいと考えています。なので、次から次へと出てくるめずらしい新種や流行の花を取り揃えるのではなく、昔から流通してきたどこにでもある花にもスポットライトを当てて”日常にささやかな喜びを与える”ことができればいいなと思っています。どんな花でも命の重さは同じだから、自己表現のための道具にならないようにしています。

Araki:自己表現といえばまさにアートですが、華道は「型」の文化なのでアートとして認められない状況があって、花を用いてアーティストを目指す人が華道から距離を置くという話を聞いたことがあります。たしかに、華道、生花店、アーティスト、同じ花を扱っていても、その背景は大きく異なりますよね。では次の質問ですが、花は視覚で楽しむ要素が強いですが、年々加速するインターネットによって何か変化はありましたか。

Akina:もちろんあります。ネットによって世界中の花を見れるようになったことで、消費者の目が肥えて現実との齟齬が生まれていると思います。この花ありますかと、スマホ片手に来店される方も多く、写真を拝見するとなかなか手に入らないものだったり、すごく高価なものだったりすることがあります。世界のどこにいても情報を等しく受け取れることは、良い側面もあればそうでないこともあるんだなと日々感じています。それに、やっぱり花は生きているしとても繊細で匂いもあれば手触りもあります。わたしはその感覚を含めて花を美しいと感じているので、ネットの花に心が動かされることはありません 笑。

Araki:ぼくも同感です。情報化社会と言っても視覚情報に偏りすぎていることがいろんな問題をつくっているような気がしています。貧しい国の人がNYの華やかな暮らしをSNSで見てどう感じるんだろうとか、、、情報が等しく開示されることで、格差もビジュアル化され、そのことで起きる弊害があります。情報化された花と、今この手の中で生きている花はまったく違うものなので、その当たり前のことを忘れないようにしたいですね。では最後の質問です。北九州から山口に来て花との向き合い方に変化はありましたか。

Akina:わたしはもともと西洋的なインテリアや雑貨が好きだったんですけど、山口に来て日本的なプロダクトにも興味を持つようになりました。もちろんそれは岳二さんとの出会いも大きく影響していると思います。今では日本家屋に住みたいという思いもあるくらいで、北九州時代と比べるとものすごく大きな変化を感じています。それが回り回って花の好みにも影響を与えていて、花から世界を広げるのではなく、私の周りに広がる世界が好みを作り上げているような実感があります。といってもまだまだ新参者なので、これからどんな風に変わっていくのか私自身楽しみしています。

Araki:ぼくも新参者なのでともに頑張りましょう 笑。今日はいろいろ花のことや旅のことについて教えていただきありがとうございま・・・・

Akina:あっ、まってまって、実は岳二さんと相談していて、このまま夜が来るまでここで滞在しようとおもっていて、、、えっとー、つまり、あれです、延長してもいいですか 笑。この心地よさにもう少し触れていたいです。

Araki:わわ、ありがとうございます。はじめて延長いただきました 笑。たしかにこの旅は帰りのフライト時間を気にする必要がないので、もう好きなだけ寛いでください 笑。ではでは、インタビュー受けていただきありがとうございました。いつも散歩がてらアテコテに寄るだけだったけど、今度は自分のために花を買いにいきますね。それでは引き続きごゆっくりお寛ぎください。おじゃましました 笑。


day of stay:April 2, 2024

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