やきいも文庫/エッセイ

歴史には残らない普通の人の普通の人生の話。 伝えられなかった誰かへの手紙。 本屋のよう…

やきいも文庫/エッセイ

歴史には残らない普通の人の普通の人生の話。 伝えられなかった誰かへの手紙。 本屋のような名前ですが本は売っておりません。

最近の記事

007 不適切にも程がある

偶然観たテレビドラマが面白く 一気に観てしまった。 ミュージカル的な演出があるのも 斬新で楽しかった。 過去の日本の姿はその時を知らない人には 完全なフィクションに映るかもしれない。 しかし、あんな時代があったのだ。 さすがにバスの中で誰かが タバコを吸っていた記憶はないが 確かにバスの座席にはひとつずつ 灰皿がついていた。 就職して一番に覚えさせられたことは どのコップが誰のものかだったし お茶なのかコーヒーなのか ブラックなのかお砂糖は何杯か 最重要事項のようにメモ

    • 006 機嫌という名の凶器

      出勤してくる足音だけで 機嫌のわかる上司がいた。 猫撫で声で上機嫌だと思ったら 次の日には誰も近づけない 不機嫌のオーラを放つ人がいた。 ある日当然挨拶も返してくれなくなって かと思ったら楽しそうに話しかけてくる そんな先輩もいた。 そして決まって私はそんな人たちの 機嫌レーダーをいち早くキャッチし 怯えていた。 小心者の私なら あんな態度をしてしまったら 次の日恥ずかしくて仕事にいけないだろうと 思って理解できなかった。 そんな彼女たちの共通点は どうやら自覚症状

      • 005 つまらない女です

        中学3年の頃だった。 休み時間の度にクラスに来る野球部の男子がいた。 どうやら私のことを好きだという。 もちろん悪い気はしなかった。 ある日の昼休み、呼び出されて告白された。 ちょうど大好きだった一つ上の先輩が卒業し 特別好きな人のいなかった私は 「わたしでよければ」とOKした。 その日から一緒に下校をすることになったけど 初めてのお付き合い いままで接点のなかった男の子 何を話していいかわからなくて。 でもこんなもんかなと思っていた。 何回一緒に帰っただろう。 野

        • 004 褒め言葉の覚え書き

          しっかりしてるわねぇ 足が速いね 意外と面白いとこあるんだね 若くていいなぁ 綺麗だと思ってた 助けられたよ 優しいよね ふとした瞬間に受け取る褒め言葉 若い頃は条件反射のように その人が言い終わるかどうかの速さで 「そんなことない」って否定してた。 その言葉の意味も理解しないまま 褒められたことが恥ずかしくて 謙遜するのが正解だと思ってた。 歳を重ねて 褒められることなんてめったになくて この歳になれば なんでもできて当たり前 少し抜けてるところは 「かわいい」で

        007 不適切にも程がある

          003 こんにちは老化さん

          老化というのはもっと ずっと後にくるものだと思っていた。 そんな予想とは裏腹に 人生の折り返し地点を過ぎたあたりから 体に変化が現れた。 冷たさが染みてアイスを食べるのが怖い 夕方ポストから取り出した手紙の宛名が読めない 細身だったはずのスタイルが丸みを帯びてきた 下の毛に白いものが混ざってきた……。 不調で病院に行くと決まって 老化……ですね。 年齢なんて単なる数字という人もいるけれど その単なる数字が増えるほどに 体は着々と老いに向かってる。 まだ若いつもりで

          003 こんにちは老化さん

          002 平凡な名前で生きてきて

          私の名前は平凡だった。 当時流行っていた名前だったのは間違いない。 幼稚園の同じクラスには3人も 同じ漢字の同じ名前の子がいた。 そのくせ、同じ漢字で違う読み方をする 同級生もいたりしてちょっと面倒な名前。 自己紹介で「なんて呼んでほしい?」と 言われてもそのまま呼んでもらうしかない アレンジのきかないとこが残念だった。 「美」という文字が入っているから 電話で自分の名前の漢字を説明する時 「美しいの美です」と言うのは おこがましい気がしたけど かといって、「美術

          002 平凡な名前で生きてきて

          001 エッセイを書くことに決めた

          ひさしぶりに外に出た。 特段引きこもっていたわけではないけれど 春が来てから朝の時間帯に外に出たのはひさしぶりだ。 いつものこの時間はYouTubeで鳥のさえずりや 川のせせらぎの音を聞きながら読書をして 精いっぱい余裕のある朝を演出しているか。 各種締め切りに追われて すでにパソコンに向かって 余裕とは正反対の朝を始めているか。 近所を一周して気づいた。 わざわざYouTubeなんか流さなくても 外に出ればたくさんの鳥の声がした。 まだ色の淡い新緑がところどころ

          001 エッセイを書くことに決めた