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平日と怠惰。週末と使い物にならない思考。

朝の満員電車。
スーツを着たサラリーマンも、制服を着た学生も、そしてもちろん僕も、皆一様に眠たげな目をしている。

今日という一日が当たり前で、明日も必ず訪れる、そんな楽観的な思想に裏付けられた気だるさが、冷房の風に乗って電車の中をグルグルと回っていた。

隣のおじさんが読んでいるネットニュース、高校生の耳に嵌め込まれたイヤホンから漏れ出てくるトップチャート、平和なのかどうなのか、そんな簡単なことも区別がつかないような中途半端で雑多な空間から僕の1日は始まる。


会社のビルに着くと、毎日決まった会議室に入る。

『新入社員研修 グループA』

そう書かれた貼り紙を確認しながら扉を開けると、いつも通り僕より早く到着しているメンバー達が「相変わらずギリギリだなあ」なんて言って迎えてくれる。
まだまだ気心知れた仲とまでは言えないが、それなりに打ち解けてきた彼らと軽口を叩くのは心地良い。

朝礼前の10分間、嵐の前の静けさとまでは言わないが、どこか穏やかで弛緩したような空気が僕はとても好きだ。


研修は滞りなく進む。
グループで相談しながら一つの成果物を作っていく。

作業計画を立て、役割分担を決める。何をするかを決めてしまうと、それぞれがそれぞれの仕事を黙々とこなす。一定時間が経過すると、お互いに作業の進捗を報告し合う。遅れていれば計画を見直すし、進んでいれば少しだけいらない会話をする。

そこで作った成果物はプレゼンという形で発表されるが、これがうまくいったことは今までに一度もない。僕はどうやら、サラリーマン的思考にいささか欠けているらしい。どうしても伝わりやすさよりも情報の精密さを求めてしまう。

しかし、頭一つ抜けて優秀(サラリーマン的な意味では)な数人の同期は、情報の精密さと伝わりやすさを兼ね備えたようなプレゼンをする。

いつどこでそのようなスキルを学ぶのか、僕と彼らの教育課程が異なっていたとしか思えない。


「いつも通りあんまうまくいかなかったな〜」
会議室に戻る道のり。薄暗いビルの廊下で、僕たちはほとんど愚痴を言うようにして反省の弁を述べる。
しかし、一つ区切りがついたという小さな達成感は、それが今後も僕たちの支えになってくれるんだろうな、なんていう淡〜い希望を与えてくれたりもする。


就業時間が終わり、まだまだ仕事が残っている先輩社員の方々を横目にオフィスを後にする。

「お疲れ様〜」なんてそれっぽく言いながら、みんなと別れ、僕は一人、生ゴミの匂いに惹きつけられるコバエのように、タバコの香りがする方へとまっすぐに向かう。

会社のオフィスに喫煙所がないと知ったのは、出社をし始めてからだ。
会社が禁煙を推奨していることはわかっていたが、まさかオフィスに一つも喫煙所がないとは思っていなかった。
希望的観測は、いつだって裏切りとセットで存在しているような気がしている。

およそ8時間ぶりのニコチンに歓喜した僕の体は張りを取り戻し、脳は就業時間の5倍速で回る。


家に帰る。
最近暑すぎる。
エアコンを切って外出しているので、家の中は蒸し鍋のごとく湿気と熱気にまみれている。

荷物を置いて、電気をつける。

すると・・・

数十匹のコバエが右に左に飛び回っていた。

・・・

発生源は、洗濯機の排水口。
かなり気持ちが悪い。

僕は翌日、コバエを一斉に駆除できるスプレーを買った。

排水口にそのスプレーを吹き付けると、コバエ達はバタバタと倒れ、死体が山のように積み上がった。

コバエジェノサイド・・・

人間も、入ってはいけないところに迷い込むと、よくないことが起きる。

災害の備えと、立ち入り危険区域の見極めはしっかりしなければ、そんな見当違いなことを思った週末であった。


今日は日曜か・・・
明日からまた1週間が始まるのか・・・

やっぱり平日は嫌いだ。


ああ、やっぱり僕はどこまでも怠惰で、明日が来るのを確信してしまっている、愚かで無知な人間なんだな。

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