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「君は天然色」 ~歌がもたらすもの~

こんにちは、えすた・けいです。記事を書くのは久しぶりです。
春ですね。

ある歌との再会

春4月にはテレビは新番組が始まります。特にアニメは毎クール沢山の数の作品が放映されます。
その中でもで楽しみにしていた作品に、久米田康治原作の『かくしごと』があります。

漫画家の父親が小学生の一人娘に自分の仕事を隠しながら過ごす日常を描いたファミリーコメディーです。
「描く仕事」を「隠し事」にしてるわけですね。

『かくしごと』は期待を裏切らない作品でした。
本編が終わってエンディングが始まり、私は思いがけない音楽を耳にします。

大滝詠一の『君は天然色』
令和の御代に、エンディングとはいえ40年近く前の昭和の名曲をもってくるとは!
コメディーアニメのエンディングという全く油断した状態での名曲との再会です。

私はこの『君は天然色』を聞くと激しく心が揺さぶられるのです。

名曲の条件

名曲と言われる歌が人の心を揺り動かすのには大きく二つの理由があると思います。
まず、歌そのもののすばらしさ

『君は天然色』は、1981年(昭和56年)にアルバム『A LONG VACATION』と同時発売された故・大滝詠一の7枚目のシングルです。

大滝詠一のオリジナルはあまりいい音源が無かったので、そっくりだと評価の高いSammy Koiwaさんのカバーを紹介させていただきます。

先に紹介した『かくしごと』のエンディングは実は歌詞がかなり端折られています。ここは尺の問題とはいえちょっと不満。

『君は天然色』の魅力を簡潔にまとめますと
・大滝詠一の透明感のある歌声
・華やかでカラフルなメロディライン
・FMラジオが最先端の音楽情報源であった世代の心を鷲掴みにする間奏
 
(昔のDJはここでトークを入れていた)
・少女との美しい思い出を語る歌詞
と言ってよいかと思います。

歌詞に歌われている少女は、昔恋した少女の面影のようですね。
私はずっとそう思っていました

歌とともにある日々

名曲が人の心を揺り動かすもう一つの理由。
それは、歌とともにあった自分の「時」を思い起こさせるから

『君は天然色』が発売された時、私は中学生でした。
大滝詠一の曲は当時の音楽番組で紹介されるような曲ではないので、小耳にはさむことはあっても特段意識することはありませんでした。
しかし、大学生・社会人になって高野寛やムーンライダーズを聴くようになると自然と大滝詠一にたどり着くようになります。
また、当時夢中になって読んでいたさくらももこのエッセイのひとつ、『さるのこしかけ』に「さくらももこのお姉ちゃんがタイトルもアーティスト名も分からずに『カナリア諸島にて』を探す話」も後押しになって『A LONG VACATION』を入手します。

手に入れた『A LONG VACATION』は発売から10年以上たっていたこともあって『CD選書』という廉価版でした。
『君は天然色』キャッチ―なこともあって時折思い出したようにCMタイアップなどで使われます。

そういった思い出が、曲が流れると同時に溢れ出てくるのです。
私は大滝詠一の熱心なファンだったわけではありません。
しかし、好きになったアーティストの音楽世界には大滝詠一がいて、人生の折々に『君は天然色』が現れます。
私の人生にさりげなく寄り添ってくれている歌です。

もう一つの物語

さて、ここまでなら
「人生とともにあった素晴らしい曲はいつでも人の心を揺さぶるものだ」
で終わってしまいます。
ところが、今から1年半ほど前の2018年12月29日に放映された「世界一受けたい授業」で、私は『君は天然色』に隠されたもう一つの物語を知ることになります。

「君は天然色」に登場する少女は
作詞者・松本隆の、
若くして亡くなった妹がモデルである

先に書いた「昔恋した少女の美しい思い出の歌」とはまるで違う物語です。

『君は天然色』の誕生秘話は以下の記事に詳しく語られています。

『A LONG VACATION』は大滝詠一のミュージシャンとしてのキャリアの上で一大プロジェクトでした。そのために大滝は松本隆に作詞を依頼します。
アルバム制作は順調に進み、歌を作る段階になって、松本の病弱だった妹は心臓発作を起こして倒れてしましまいます。
松本は大滝の依頼を断ろうとしますが、大滝は「気長に待つから看病に専念して欲しい」と松本に告げます。
彼女は数日後にこの世を去り、松本はその死から立ち直るのに長い時間を費やすこととなります。

このことを踏まえたうえで歌詞を読み返してみると、「昔恋した少女の美しい思い出の歌」「亡き妹をしのぶ歌」に変貌します。

歌がもたらすもの

大滝詠一の非凡なところは、この歌をバラードやマイナー調の曲にせず華やかできらびやかなメロディーに仕上げたことです。
松本隆の「モノクロームの想い出」に見事に「色を点けて」しまうのです。夭逝した妹は「はなやいだうるわしのColor Girl」へと昇華していきます。

私が松本隆だったら、大滝詠一に感謝してもしたりないでしょう。
「妹の死」を悲しみとは違う次元に連れて行ってくれたのですから。
『君は天然色』がある限り、妹は微笑み続けるのです。

音楽は、いえ、創作物は受け手である人に生きる勇気や力を与えます。
それは作り手に対しても言えることです。
「作る」という行為が生き甲斐ともいえる力を与えることもありますし、自分が生み出した「作品自体」が力を与えることもあります。

「君は天然色」を聞いて激しく私の心が揺さぶられるのは、「私」の人生だけでなく、作り手である松本隆と大滝詠一の物語も心に直接流れ込んでくるからなのかもしれません。

※文中基本的に敬称は省略しました




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