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映画感想文「Stand by Me」

 映画「Stand by Me」を見て最初に感じたのは日本とアメリカの文化の違いについてでした。思い出という形で綴られる主人公の幼少期は、秘密基地でタバコを吸っている友人たちとの交流から始まります。小学生くらいに見える子ども達が、タバコを吸っている。もちろん彼らも不良の子達であろうとは思うのですが日本ではなかなか見ないような光景にまず驚きました。

 彼らの少し上の世代、いわゆるギャングに居そうな少年達は車に乗って郵便受けを破壊して回っています。この行為がアメリカでどれだけメジャーなものなのかは分かりません。器物損壊なので日本におけるピンポンダッシュよりは重い行為な気がします。

 こういった少しグレーな人達の描かれ方からも、1950年代のアメリカという、それこそ現代の日本とは国も時代も違う場所で育まれた文化の違いを感じます。この描かれ方が本当に正しいのかについては、知識が少ない私には判断できない部分ではありますが、そういった場所にも連れていってくれるのが「映画」であると、改めて思いました。

 そしてある時、行方不明の男の子が列車にはねられて死んでいるという話を耳にします。死体を見つければ一躍ヒーローになれるのではないか、そんな思いから4人の子ども達は線路を歩いて冒険に出かけます。

「そんな思いから」と書きましたが、全員がそう思って出かけたわけではありませんでした。特に、主人公のゴードンは死体についてはあまり興味がないのです。何故行くことにしたのか、本当の理由について本人は口にしません。そしてそれは、簡単に言葉にできるようなものではないのだと思います。「住んでいる町から出てみたい」という言葉の中には、冒険心や協調性と一緒に暗い感情も含まれていたのではないかと感じました。

 その先で起きる出来事で彼らの内面が描かれていくのですが、一番初めは「父に向ける愛情」が描かれます。テディの父親はノルマンディーを戦った軍人で、現在はそのトラウマで精神を病みテディに虐待を行うなどしています。しかしそれでもテディは父のことを尊敬しており、侮辱された時には大声を上げて怒り、そして泣き出してしまいます。テディ本人も、父に対して良い感情ばかりを持っているわけではないでしょう。しかしそれでもテディにとって父親という存在は大きく、虐待をされていてもなお尊敬と愛を向ける存在であるのです。

 主人公のゴードンは、優秀な兄を自動車事故で亡くし、その影響で両親からも冷たく扱われてしまっていました。父親から「(死ぬのが)お前だったらよかったのに」と言われる夢を見るくらいの劣等感になっていて、そのせいで自分に自信を持てないでいます。それは、兄と比べられ「君は何をしている?」という問いに「さあ?」と答えてしまうくらいに。

 リーダーのクリスは頭のいい男の子ですが、家族に信用がなくそこから不遇な子ども時代を送っています。少し前に盗難事件を起こしてしまい、弱い子供に付け込む悪い大人がいること、悪い大人に隙を見せてしまった自分自身、そして信頼されない環境に生まれてしまったことに涙を流します。クリスが口にする「自分のことを誰も知らない土地に行きたい」という願望は、この年代の子供が抱くにしては残酷なものだなと感じます。

 ゴードンとクリスは互いの思いを話し、自らの境遇に涙を見せたりします。そこには前述の「子どもならではの悩み」が描かれています。それは彼らだけですぐに解決できるものではありません。ただ、その悩みを打ち明け、互いに思ったことを話し、励まし合って前に進む。そういう経験を子ども時代にしておくことは、貴重な財産になるんだろうなと、そういう経験のなかった私も思います。

 作品冒頭の新聞記事のシーンから分かる通り、この物語は大人になったゴーディが過去を振り返るという形で進められていました。クリスは猛勉強して弁護士になり、先日レストランで喧嘩の仲裁に入った際に弾みで死んでしまったと。私は最後のこのシーンを見て、この物語が過去の回想ではなく「創作である」という解釈をしました。ゴードンが「クリストファー・チェンバース弁護士が刺殺される」という新聞記事を見て作り上げた、架空の友達であり物語であるというものです。まぁ、そういう解釈もできるのでは、というところで。

 閑話休題。

 初めに、アメリカとの文化の違いに驚いた話をしました。私たちと、時代も場所も違う世界に生きた子ども達が抱く感情は、我々が抱くそれとどのくらい違うのか。多分、大きく違いはないんだと思います。もちろん全く同じ境遇にいたわけではないので「同じ感情を抱いたことがある」とは言えません。それでも、彼らの悩みに共感することは出来ますし、彼らの思いを尊重することもできます。どんな時代や場所であっても変わらない「人間」を描いた、良い映画だと思いました。

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