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【小説】[9]性格(『僕のファーストテイク』)
ーー崩れ落ちたその日から間もなく2週間というところ……。月末を迎えようとした時、僕は仕事への復帰を諦めた。
毎日、休みの連絡を入れるのが苦痛でたまらなかった。解放されてホッとしたところもあったが、未来に希望があるわけではなかった。
休み始めて3日目のこと。職場から病院に行ったかを尋ねられ、僕は精神科にかかることにした。
とはいえ、かかりつけの病院なんてものはなく、どこに行けばいいのか困った。もち
【小説】[8]AI的感覚(『僕のファーストテイク』)
"超人"への憧れは、アニメ漫画の主要テーマでもあるように、特におかしな思考ではない。僕の場合、キョンシーやロボットが憧れの対象だったというだけ。"それ"として生きれば、苦痛を感じないだろうという……。
また、おそらく"この感覚"は、共感性の高いものではないかと認識している。僕の佇まいが、飄々としている印象を与えていたのかは分からない。だが、よく相談を受けることはあったため、おそらく他者は、僕の佇
【小説】[7]訓練(『僕のファーストテイク』)
僕がまだ子供の頃、"超能力"や"超人"みたいなのが流行っていた。"フツーの人"ではない人達がテレビ出演し、その特技を披露する。
その後、コンプライアンス的な影響もあり、昔ほどの内容をテレビで流れることはなくなったように思う。
今でこそ規制が厳しくなったが、テレビを代替する形で、ネット動画でそのような内容の映像が流れるようになった。今もたまにあるようだが、危険な行為が事故に発展してしまうケースもあ
【小説】[6]弊害(バグ)(『僕のファーストテイク』)
高校時代のこと。この頃はまだ、原因が"感情スイッチ"にあることは気づいていなかった。
何の原因かと言えば、それは"国語"の成績が伸び悩んでいたこと……。
国語の成績の悪さは、小学生の頃からの悩みでもあった。平均点を下回る程ではないが、小説や要約などが苦手で、全国テストのような"教科書暗記"系ではないテストで、唯一満点を取ったことがない科目だった。
解説を読んでも、先生の解説を聞いても、個別で質
【小説】[5]感情スイッチ(『僕のファーストテイク』)
僕の"感情スイッチ"が故障してからだ。僕の体調の波が不安定になり出したのは。
それまでは、安定していて、不調を来すことは滅多になかった。たまに体調を崩しても、"オーバーヒート"しているだけで、適切な処置(一時的な休息)を行えばすぐに回復した。
……だけど、今考えれば、"オーバーヒート"を感知する機能がうまく働いていなかったのかもしれないとも思う。それこそ"感情スイッチ"の設置が原因だったのかもし
【小説】[4]"コイツ"昔の僕(『僕のファーストテイク』)
"フツーの人"なら、ただ体調悪くて休んだだけかもしれない。でも、"今"の僕は違う。明日以降に光を感じられなかった。以前のように働いている自分が想像できなかった。
(『落ち込んだところで何も解決しないよね。"体調悪い"のは"気のせい"。
"体調悪くない"って思ってみな?元気になるから』)
"コイツ"は昔の自分だ。僕はツラい時、そうやって"感情"を消して生きてきた。自分はロボットだと言い聞かせてき
【小説】[3]電話(『僕のファーストテイク』)
スッと体が動き、スマホに手が伸びた。間もなく職場に電話が繋がる時間だ。スヌーズにしていたアラームが何度も鳴り響く中でも動かなかった体。脚気検査や熱いものに反応する"反射"のような動きだった。
自分の意思とは違う動きに、また気持ち悪さを覚えた。
(誰だよ……この体を動かしてるの)
起きないと、とは思ってたが……。この状況の対処法を知らない僕は困惑していた。
動いたのはその一瞬。スマホを手に持ち
【小説】[2]流れ込む映像(『僕のファーストテイク』)
遅刻が確定して、仕事のことは、もうどうでもよくなった。「職場も僕を"切る"ための良いきっかけだろう。」僕の中の誰か("僕")がそう呟いた。
(……んなわけあるかい)
僕はそう言い返した。すると、急に静かになり、僕の体は部屋の中を観察し始めた。天井や窓などを目が感知する。電化製品のノイズと外から聞こえてくる環境音。
動かそうとしても動かない体。自分の体なのに重い。
(息は……している……)
【小説】[1]きっかけ(『僕のファーストテイク』)
暗闇……。元気なはずなのに、その先には希望を感じられない。
視点を変えれば、大したことではないことに気づく。だが、「この"僕"を救う方法は何があるだろうか?」と考えた時、僕にもわからなかった。
ーーピロリロリン♪(ポッポー)ピロピロ…♫
アラームが鳴る。
諦めてはいるが、念のためスヌーズにして止めた。
仕事に行ったとしても遅刻は確定。仕事に行く理由は、"生きるための苦痛"の軽減でしかない。