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アルコール77に見る、日本の規制当局の硬直性と浪花節


きっかけは4月3日に菊水酒造(高知県・無冠帝の菊水酒造ではありません)から出された以下のリリース。

高濃度のスピリッツ「アルコール77」を製造開始
https://www.value-press.com/pressrelease/239449
日本酒や焼酎、リキュール、ラム酒などを製造する菊水酒造(高知県安芸市本町4丁目6-25 社長/春田和城)は、このたびアルコール度数77度の高濃度スピリッツ「アルコール77」の製造を開始。関係省庁のご指導のもと、4月10日から出荷開始を予定しています。
■代表取締役社長 春田和城より当社は、2018年7月豪雨により甚大な被害を受けましたが、各方面から多大なご支援をいただきました。当社の有する製造設備等を活用して、皆様のお役に立てる製品を提供することで、恩返しにつながればと考えたものです。今後も各界のご指導のもと改善を尽くした製品を順次製造して参りたいと存じます。


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この製品の何がすごいというと、飲料用の酒類として販売する一方、消毒液として使えることを暗示させている点だ。それがリリースに含まれた以下の文言。

※当商品は消毒用アルコールと同等のアルコール分を含んでおりますが、消毒や除菌を目的に製造されたものではありません。

「消毒には使えないからね!」とわざわざ書き記す一方「消毒用アルコールと同等のアルコール分を含んでおります」とも書くことで「わかってるよね、みんな」と消毒用途への利用の可能性を暗示させているわけだ。ダチョウ倶楽部、上島竜兵で鍛えられた日本国民の多くはこの暗示を素直に受け止められるはず。

これは補足だが、ラベルには以下の欧文が一部の文字が隠れた状態でプリントされている。

It is a sake that can remove ●●cteria from ○ooking utensils.

隠された文字については、●●がbaで、○がcであることが推測される。
この文字を補うと、「このお酒は、調理器具からバクテリアを取り除くことができます」との意味になる。ズバリだ。

もちろん「そんなことして規制当局が黙っていないのでは?」と不思議がる声が出てくるのは当然であろう。ただしその声に対してはリリースの言葉が答えを出している。

「関係省庁のご指導のもと」

ここで言うところの「関係省庁」とは、厚労省と国税庁にあたる。

アルコール消毒液については医薬品扱いになるらしく、厚労省の管轄。
一方、飲料用の酒類を管轄するのは国税庁だ。

菊水酒造は関係省庁である厚労省と国税庁に事前折衝したのだろう。その際に、この製品の本来の目的がアルコール消毒用の消毒液であることを伝えながらも、それでは認可までに時間がかかりすぎるため、国税庁管轄のアルコール飲料として販売することを認めてもらったという事。この製品がアルコール飲料であることはリリースを見れば明らか。希望小売価格1200円の中に、酒税385円が含まれていることが明記されているからだ。

ちなみにアルコール飲料として販売されている製品での消毒については、厚労省が以下の通達を医療機関に対して発出している。いわく「手指消毒用エタノール以外の高濃度エタノール製品(70〜83%の範囲のアルコール飲料)」による消毒を臨時的、特例的にではあるとしつつも許可しているのだ。

http://www.hospital.or.jp/pdf/15_20200324_01.pdf

アルコール消毒液が市場から消え去り、その一方でネットでは高値転売されている状況がある中、菊水酒造の和田社長は自社の設備を使い、製品を世に送り出したいと考えた。その結果がこの製品だったわけだ。酒税と価格からしてほとんど利益は出ないのではないかと言われているが、それでもこの製品を作ったのは、菊水酒造が豪雨の被害からの復旧を支援してもらった過去があるから。

■代表取締役社長 春田和城より
当社は、2018年7月豪雨により甚大な被害を受けましたが、各方面から多大なご支援をいただきました。当社の有する製造設備等を活用して、皆様のお役に立てる製品を提供することで、恩返しにつながればと考えたものです。今後も各界のご指導のもと改善を尽くした製品を順次製造して参りたいと存じます。

利益がほとんど出ないと言われているこの製品のため、他の商品を製造するためのリソースも割かざるを得ない。そういう意味で経営に対する影響は少なくはなさそうだが、それでもこうしてできることをやっている姿にいたく感動してしまった。自分でも使いたいということも含め、販売していれば買い求めたいと思うのだが、メールで問い合わせたところ返事は今の所もらえていない。ただ、ウエブショップがあるようなので、そちらで注文してみようと思っているところだ。

■その後、担当者の方から返事が届き、ネット販売のためのURLを教えてもらえました。この件については各所から問い合わせが殺到しており、想定を上回る発注があるようです。ただし在庫は潤沢にあるそうなので、あせらずに一般販売の10日を待ってください、とのこと。なお消防法の関係で、運送会社の1日の最大出荷量に制限が出るとのこと。そのため、注文後、発送までに時間が掛かる可能性があるとのこと。これについてはなるべく早く発送できるよう、調整するとのことでした。

なお、このアルコール77はアルコール飲料のため、免許がない業者や個人がネットなどで転売すると違法行為になってしまう。転売行為をある程度抑止できるという意味でも良くできた仕組みだと言える。

ちなみに今現在ネット通販で価格が高騰しているパストリーゼ77もドーバー洋酒グループという酒造メーカーが製造しているもの。こちらもアルコール度数77度だから製品としては同等のものと考えて良さそう。

もしこれを買えたとして、日常的に使うためのスプレーボトルがほしいところだがこうしたアルコール消毒液については、ポリエチレン製のものがいいらしい。PEと書かれてあるボトルだ。ペットボトルとして使われているPET(ポリエステル)による製品はやめておいたほうがいいらしいので気をつけましょう。100均ではすでにスプレーボトルは在庫が払底している。

■中国の通販サイト、Aliexpressではスプレーボトル各種が売られているようです。ただし材質が不明です。基本的にプラスチック製と書かれてますが、プラスチックと言ってもいくつかの材質がありえるのが怖いところですhttps://ja.aliexpress.com/item/33005205009.html


■最後に政治家のみなさんへ

政治家のみなさんにお願いです。国会議員のみなさん連日のコロナ対策、お疲れさまです。

政府与党のみなさんは国難での舵取りお疲れさまです。色々と大変だとは思いますが、経済をいかに殺さないように。そして、早期にコロナを収束できるよう、引き続きがんばってください。

野党のみなさんには、政府の打ち出す政策に対し批判精神で臨むことも大事ですが、このアルコールの件が典型的ですが、こうした融通の効かない事例について突っ込んでほしいと思います。

厚労省の認可問題やら国税庁の酒税の問題などクリアできれば、他社からの参入が相次ぎ、一気にアルコール消毒液の品薄状態が解消される可能性があります。法治国家だからやむを得ない部分はあるにせよ、政治家とマスコミが動けば、国は動かせるので。

今のこの局面で、政局をやろうとする政治家は政治家としてセンスがなさすぎると、個人的には思っています。


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