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マクドナルドをボイコットできるか

 マレーシア国内でマクドナルドなどをボイコットしようという動きが出ています。問題はパレスチナ問題とも絡んで複雑なのです。


■なぜパレスチナとマクドナルドなのか

 イスラエルのマクドナルドが10月中旬、パレスチナの武装組織ハマスが拠点を置くガザ地区への攻撃のため、イスラエル兵士数千人に無料で商品を提供すると発表し、実際にそうしたようです。

 日本でこのニュースを聞いてもピンと来る人はいないと思いますが、マレーシアでは敏感です。イスラーム教徒が多いマレーシアではイスラエルと国交を結んでいません。パレスチナ問題のためですが、今回は同じイスラーム教の同胞を攻撃する兵士に対して商品を無料で提供するとは何事かとのことで、マレーシア国内のマクドナルドを白い目で見る人が多くなっているのです。

 10月末にはあるマクドナルドの店舗のデジタルメニュー画面をハッキングしてイスラエルに支持する企業として抗議文を掲載する事件も起きました。その後に容疑者2人が逮捕されています。

 企業にとってイスラエルへの行動はその国だけに影響が限定されるわけではありません。特にグローバル企業は、行動如何によって関係国での経済活動にも及ぶのです。

 マクドナルド・マレーシアは10月17日に寄付金100万リンギ(約3000万円)をマレーシア政府を通じてガザ地区に人道的配慮から寄付した上、イスラエルのマクドナルドからは距離を置くとも表明して沈静化を図っています。

■マレーシア国内での動き

 ガザ地区へのイスラエルの攻撃で、マレーシア国内ではさまざまな動きが出ています。これも日本とは温度差のある動きです。

 パレスチナ問題については国内でもさまざまな意見がありますが、今回の事件でパレスチナを支持するデモが起きたり、車にパレスチナ旗を掲げて支持を表明したり、寄付を募って物品をガザ地区に送ったりという動きがみられます。

 また、教育省は各学校でパレスチナを支援する活動も始め、さらに学校内ではおもちゃの銃を使って連帯を表明するなどの行為にまで発展。さすがに、アンワル・イブラヒム首相も含む政府首脳も不快感を示し、関係者を処罰するとまで言明しました。

 マレーシアではイスラーム教つながりの出来事、特にパレスチナ問題については敏感に反応するのです。

 これは昔、インドネシアに住んでいたときのことですが、働いていた同僚がナチスのロゴの入ったTシャツを着ていたことがあります。そのときは「虐殺したナチスを支持するとはどういう人なんだ」と不快感を持った記憶があります。あとでわかったことですが、これは結局パレスチナ問題でパレスチナ人への連帯を示すと同時にユダヤ人への反発という意味が込められているのです。実は、マレーシアでもときおり、ナチスのロゴを見かけることがあります。

 ただ、この人たちはナチスが本当に何をしたのかということはわかっていないのでしょう。歴史を理解すれば、ナチス支持はできないはずなのですが、こういった人たちは人道的な観点からナチスのやった行為というのをどう考えているのか。

 さすがに政治家らはこういったことはわかっている人は多い。マハティール元首相はパレスチナ問題について西洋諸国を改めて批判。「西側政府とメディアは西側社会の恐怖を煽り、民主主義と平和を愛する人々への攻撃であると主張し、特にアメリカはパレスチナの攻撃に報復するためにイスラエルへの軍事支援を拡大することを正当化している」と痛烈に非難しており、確かにイスラエルも悪いが、その根源は西洋諸国(特にアメリカとイギリス)にあるとしています。

■マクドナルドをボイコットできるのか

 さて、ソーシャルメディア上ではイスラエルを支援する企業リストなるものが出回り、ボイコットを呼びかけるメッセージが出ています。特にターゲットはマクドナルドとバーガーキング。スターバックスでさえも米国企業ということでターゲットになっているようで、すでに売上も落ちているようです。

 ただ、ボイコットは本当にできるのでしょうか。難しいと思います。

 実は日本とは違い、マレー人にとってマクドナルドはかなり生活に浸透しています。揚げ物が大好きなマレー人にとってマクドナルドとKFCはなくてはならないもの。バーガーキングも同じで、週末の夜になると家族で食べにきて、むしゃむしゃと楽しんでいます。

 大手企業のフランチャイズのビジネスのうまいところだと思いますが、こういったフランチャイズは何十年もビジネスを展開して子どものころから身近な存在にし、なくてはならない必須の食べ物にしてしまっている。日本でいえば、ファミレスのような存在でしょうか。悪く言えば餌付けされているのです。

 この餌付けから、さて、マレー人たちは脱却できるかどうかというところがポイント。マレー人は特に肥満の人も多く、ボイコットすることでダイエット効果にもなって利点はありますが、マクドナルドに行かないということはダイエットにもつながるわけで、さて、本当にそれができるのか。つまりは、自分の生活をガラリと変えることにもつながります。

 そんなことは人間なかなかできないわけです。相当の気合がなければ、生活環境を変えることはできません。それも子どものときから通っているとなるとなおさらです。マクドナルドやKFCに行かないとなると、さて、どこで美味しい食べ物を食べるのでしょうか。特に地方なんかでは地元の小さなレストランぐらいしかなく、結局は「たまには食べたい」ということになり、ボイコットのことは忘れて、また戻るというオチになりかねない。

 そもそもこういったフランチャイズでもマレー人が多く働いています。極端な話、一斉にフランチャイズがマレーシアから撤退したら、困るのは地元の人たちなのです。ロシアで起きたように実際にローカルの従業員からも不安の声が挙がっているのも事実。ボイコットすると表明するのはいいですが、さて、こういった働いている人のことも考えているのか。

 そもそもマレーシアのマクドナルドは地元資本。一時はサウジアラビアの実業家が株をもっていたほどです。確かに米国のフランチャイズではあるものの、単純にマクドナルド=アメリカの企業ではもはやなくなっている。材料だってローカルものが多いでしょうし、フランチャイズが展開していることで恩恵を受けるイスラーム教徒も多いのです。それに、マクドナルドのイスラエルとは直接的には関係ない。ブランド名はいっしょだけで、事業主は異なります。

 まあ、単純にボイコットを考える人はそこまで考えが及ばないのでしょう。視野の狭さに驚きますが、2~3か月もしたら、そんな声さえもなくなってしまうのではないかと思います。餌付けされている限りはボイコットはできないのです。

 また、マレーシアは多民族国家であり、華人とインド人もいます。確かに彼らは人道的な点からイスラエルの行動には眉をひそめるでしょうが、ボイコットにまではいかないでしょう。マクドナルドなどにとってイスラーム教徒だけが客ではないので、売り上げは落ちるかもしれないが、他にも市場はあると企業側は思っているでしょう。

 いずれにしてもボイコットではなく、もっと別の有効な手段を考えたほうがいいのでは? ただ、相手はイスラエルなので、そう簡単には打撃は受けないことは確かです。

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