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禍話「北九州暴力女子」

※青空怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」から一部を編集して書き起こしたものです。

破れスペシャル 2019年5月28日(106)  放送

(0:21:20ごろから)


何か事件が起こると、どこどこの地域が危ないって言われたりしますよね。
北九州も危ないわけですよ。
 
―――――――
大学の同級生にものすごくチャラいやつがいた。
女の子とやることばっかり考えていて、財布の中にはコンドームだらけ。最低だな、と思っていた。
 
でもあるときを境に、急に人が変わったようにチャラさがなくなって、食事の時も女性に気を配って椅子を引いてあげたり、レディーファーストを徹底する紳士のようになり、髪の毛も大人しくした。
なんかよかったね、と心の中で思っていた。
授業も真面目に出席するようになったし。
 
大学三年の時に、「お前、二年のときから急に真面目になったよな」と、そいつに言う機会があった。
 
「いやあ、夏休みにさ」
 
―――――――
大学生の夏休みは長い。
その日は飲み会で女の子をゲットできず、一人で飲み直して、それでもまだ飲み足りないのでコンビニに酒を買いに寄った。帰り道、酔ったせいもあって普段は通らない道を通った。同じコンビニにいたような気がするのだが、その時間には似つかわしくない真面目そうな女子学生二人組が前を自分と同じ方向へ歩いていた。飲み会帰りかな。あれはあれで初々しくて可愛いな、などと考えていると、前方からホームレスの男性が歩いてきた。遠目にも分かるが、しばらく風呂に入っていないのだろう、という風貌だ。その女子学生たちもさすがに距離を取る。距離は取っているのだが、女子学生たちの位置からでは臭いがきつかったのだろう。ホームレスとすれ違うときに、ホームレスに近い側を歩いていた女子学生が、思わず顔を背けてしまった。
 
「おい、なんじゃ!ガキが。おい」
 
ホームレスのスイッチが入ってしまったらしい。
 
「何じゃ、おい。お前、俺が臭いっちゅうんか!」
 
まずい、真面目そうな学生が絡まれている。助けに入った方がいいな。
と、止めに入ろうと二歩ほど進んだ時だった。
 
もう一人の女子学生(さっきの子より真面目そうな、先ほど顔を背けなかった方)が、自分の荷物をぽん、と地面に落とした。


あれ、荷物落とした?
 
次の瞬間、女子学生にホームレスが詰め寄っていくと、荷物を地面に落とした女子学生がホームレスのすねを思いきりガン!!と蹴りつけた。あ、これは喧嘩慣れした人がやるやつだ。ホームレスは地面にうずくまり、声にならない悲鳴をあげている。下手したら骨にヒビ入ってるんじゃないか。
 
「臭いもんを臭い言うて何が悪いんじゃ!!!」
 

と叫びながら、女子学生が今度はホームレスの後頭部目掛けて思いきり拳を振り下ろした。その後も続けてボコボコに殴り続けている。絡まれた方の女子学生が止めているのも聞こえないようだ。ホームレスは体を小さく丸めることしかできない。あ、なんか殴っちゃいけないような所も殴られてる。これはこれで止めないと。
 


そこへ、手押し車を押したおばあさんが通りかかった。
そこそこ凄惨な暴行が行われているのに気付かないのかと思うほど普通に、現場に近づいていった。そして場違いなほど穏やかに、殴っている女子学生に声を掛けた。
 
「それ以上殴ったら犯罪やからやめてあげて~」
 
おばあちゃん、これもう十分犯罪や。過剰防衛だよ…。
 
カラカラカラ…と手押し車を押しておばあさんは行ってしまった。
女子学生を見ると、おばあさんに言われたとおり、殴るのをやめていた。
 

そこでやめるんかい。
 
その女子学生はボロボロになったホームレスを見下ろし、自分の拳をハンカチでぬぐいながらゆっくりと捨て台詞を吐いた。
 
「あたしがおばあちゃん子でよかったな…!」
 
女子学生二人はさっさとその場を立ち去ってしまい、ホームレスと自分だけが残った。


 
それ以来、彼は女性が怖くなり、優しくしようと思ったそうだ。
ああいう真面目そうな女性でも、いざというときは恐ろしい。修羅の国で生きていくために俺は紳士になる、と心に決めたそうだ。


おわり