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海外展開 - 米国の拠点決め編

2018年にソラコムの米国事業の立ち上げ当時いろいろな方からご相談いただいたき、皆さん共通の悩みを持っていましたので、今後米国進出するテック系のスタートアップ・企業向けにつまずきそうな点についてシェアしたいと思います。また、AWS本社でデータ事業の立ち上げを通してグローバル展開もやりましたのでそこもいろいろとシェアして行きます。ゼロからの事業立ち上げは本当にしんどく魂を込めないとなかなか立ち上がりません。試行錯誤しながらの毎日でしたので同じ悩みをお持ちの経営者の皆様にご参考になれば幸いです。

海外展開するにあたって、まずは最大のマーケットである米国について考えていきます。で、まず最初に悩むのが米国での拠点決め。私なりの見解を説明します。

ちなみに、米国の本社の登記とオペレーション本社拠点は必ずも一致しないので、あくまでオペレーション拠点についての意見です。登記についてはスタートアップの多くは税制的な観点や上場のしやすさからデラウェアを選ぶ会社が多いかと思いますが、そこについては専門家にご相談ください。

近年、リモートワークも進んでいて、オールリモートと言う考え方もあるが、やはり最初の拠点は必要と思っています。初期メンバーについては少なくとも同じ拠点で集める方が結束力も出るし、定着率も高くなります。やはり最初は孤独感も強いので一緒にやる仲間がいるのはありがたいです。

また、拠点を開設するにあたって、現地の人をメインで雇うことを前提にしていますが、最初の数名については、立ち上がるまでは日本から短期派遣したり、ある程度行き来があった方が良いと思っています。少なくともバックオフィス的な人材がいるととても楽になります。立ち上げは分からないことだらけで、ツライ作業も多いので、気持ちを共有出来る人がいると言うのは心強いです。

それでは、本題。いろいろな角度から見てみたいと思います。

タイムゾーン

やはり日本とのやりとりを考慮するなら、お互いの就業時間が重複するタイムゾーンが好ましい。そうなると、ハワイか太平洋時間帯(パシフィックタイムゾーン)の二択になるかと思います。ハワイだと人材獲得の問題も出てくるので現実的には西海岸地域の都市を選ぶのがほとんどかと思います。また、物理的な日本との距離や飛行時間を考えても西海岸は有利になります。中部標準時についてはトヨタさんが(おそらく)税制的な優遇措置により、数年前にテキサスに本社を移しました。近年、テスラもオースティンに本社を移し話題になりました。ただ、テキサスは日本の朝9時が向こうの18時(夏時間だと19時)になります。タイムゾーン的に無理ではないが、やはり夕方は家族との時間を大事にしたい米国人には嫌がられます。近年テキサスは法人、個人共に所得税がなかったり、CAと比較し生活コストも安いことから注目はされていますが、西海岸との2時間の時差は大きく、またアジア人との親和性から最初はパシフィックタイムゾーンが現実的かと思います。西海岸地域だと日本の朝9時が向こうの16時(夏時間だと17時)になりなんとかストレス無しに意思疎通できる時間関係かと思います。東海岸は正直、日本とのやりとりするにはタイムゾーン的には可哀想だなと思います。。。(ニューヨーク在住の皆さんすみませんw)。ちなみに、西海岸のカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州では通年で夏時間を適用する検討がされています。ワシントン州では真冬になると16時台から暗くなり、一時間長く夕方を楽しめるのは助かります。

都市圏の選択肢

では、パシフィックタイムゾーンを前提とするなら、都市圏の選択肢としては、ベイエリア・シリコンバレー、LA・南カリフォルニア、シアトル、ラスベガス、ポートランド、バンクーバー辺りになるかと思います。

後は、大穴で、フェニックス・アリゾナ。フェニックスについては、タイムゾーンが山岳標準時、西海岸の一時間早くなります。夏時間がないため、夏の間だけ西海岸と同じタイムゾーンになります。生活コストが西海岸地域と比べると低く、ほとんど雨も降らないため、アリゾナでリタイアする人も良く聞きます。夏場は40度を超える暑さもありますが、湿度が低いため、比較的過ごし易いとも聞きます。砂漠っぽい場所で、近くに、パワースポットで有名なセドナやグランドキャニオンがあったり、自然豊かな場所です。ただ、日本への直行便がなかったり、アジア人の少なさと言う観点では他の西海岸と比較し少し難易度が高くなるので、今回は省きます。

アジア人比率

拠点を作るにあたって、やはりアジア人に寛容な地域でないとツライです。近年アジア人ヘイトクラムなんかもあり、敏感になっている方も多いかと思います。概ね、どこもアジア人比率が高く、アジア人に寛容な地域が多いかと思います。アジア系のお店があるのは重要なポイントかと思います。特にアジア系スーパーは重要で、梅干し、納豆、海苔、調味料(マヨネーズ(キューピー)、醤油、料理酒等)、お菓子系が気軽に手に入らないのは結構ストレスになります。アジア人比率のランキングのイメージとしては以下になります。圧倒的に多いのが、LA・南カリフォルニア。シアトルぐらいまではアジア人比率も高く自分がマイノリティーと言うことを意識することなく過ごせると思います。ポートランドぐらいになるとちょっと白人多めだなと言う雰囲気。ラスベガスまで行くとアジア人はマイノリティーです。

1. LA・南カリフォルニア 
2. >= ベイエリア・シリコンバレー 
3. > バンクーバー 
4. > = シアトル 
5. > ポートランド 
6. >> ラスベガス

給料

米国は地域により給与水準が大幅に違います。Cost of Livingに連動していて、日本だと東京が給与が高く、田舎に行くほど同じ職種でも安いのと同じです。ざっくり言うと東海岸、西海岸が高く、内陸部ほど給与は安くなります。こちらのツイッターのスレッドに適正給与レンジについて書いていますのでご参考にしてください。近年の円安の影響で給与差はさらに拡大し、日本と同じ職種で給与2 - 3倍、人気の職種だとそれ以上に違います。また、重要なポストほど給与差は日本と比べて拡大します。スレッドにも書いていますが、給料2倍以上出しても日本人以下の能力の人しか雇えないのは、頭で理解していても腹落ちしにくいです。この給料差を腹落ちさせて、覚悟をもって人を雇わないと米国進出は本当に難しいです。

西海岸の各都市圏にも給与差はあり、概ね以下のイメージかと思います。ベイエリア・シリコンバレーが全米でもダントツで給与水準が高いです。ただ、以前と比べるとベイエリア・シリコンバレーと他地域の格差は縮まってきていると思います。ベイエリア・シリコンバレーのCost of Livingが高過ぎるために他州に移ったり、テック企業が他地域の採用を強化した影響なんかもあります。

1. ベイエリア・シリコンバレー
2. > LA・南カリフォルニア 
3. => シアトル 
4. > ポートランド
5. => バンクーバー
6. > ラスベガス

人材の豊富さ、離職率

これは意外に見逃しがちですが、特に地域により離職率も結構違います。当然、選択肢の多い地域の方が離職率も高くなりがちです。

ベイエリア・シリコンバレーについては、ご存知の通り全米・世界中から優秀な人材が集まります。ただ、スタートアップ界隈ではステップアップを狙って一年程度で転職するのが普通です。当然、イケている会社だったり、給料が増えたり、昇進したりすれば考えも変わるが、離職率は圧倒的に高いです。一年目のストックオプションがベストするタイミングで一気に人がいなくなります。そう言うものです。ベイエリア・シリコンバレーに拠点を構えるつもりでいる場合は、GAFAMをはじめとしたビッグテック企業、勢いのあるスタートアップとの生き馬の目を抜くような人材獲得競争を生き抜くことが前提になります。

シアトルはアマゾン、マイクロソフトのGAFAM2大企業との人材獲得競争になります。近年、この2社の事業拡大に伴い、世界中から人材が集まっています。ただ、そう言った大企業で働いている人を狙いたいかは考慮が必要かと思います。ベイエリア・シリコンバレーと比較すると離職率は肌感覚で言うと大分マシです。スタートアップ界隈でも普通に2年ぐらい働いている人も見かけるので多少は安心感はあります。近年スタートアップのエコシステムも出来上がっているため、そう言った人材も獲得しやすくなっていますが、やはりシリコンバレーと比較するとエコシステムは小さいです。

ポートランドはポートランド愛強めの人が多い地域です。ナイキの本社があったり、インテルやアマゾンの研究開発拠点があったりして、人材もそれなりにいます。ただ、やはりベイエリア・シリコンバレー、シアトルと比較すると人材は少なめです。スタートアップエコシストムはシアトルをさらにひとまわり小さくしたイメージです。離職率については概ねシアトルぐらいのイメージです。

LA・南カリフォルニアは他地域では期待できないバイリンガル人材の獲得が可能になります。圧倒的に人口が多い関係で、人材もそれなりに見つかり易いです。ただ、テック系に特化した人材を見つける場合はやはりベイエリア・シリコンバレー、シアトルと比較すると弱くなると言う印象です。離職率についてはあまりデータがありません。

バンクーバー、ラスベガスは十分な肌感覚がないため、今回は詳しくは書きません。バンクーバーについては当然国が違うので、日本から人を派遣する場合のビザ要件等々は検討必要です。またバンクーバーはアジア人の中でも中国人が多いイメージです。詳しい方いれば教えてください!

税金

法人税については、連邦と州双方に所得税がかかります。州の所得税については、ネバダ州(ラスベガス)やワシントン州(シアトル)については無税になります。ただし、ワシントン州は、所得税の代わりに総収入税(Gross receipts tax)がありますので注意が必要です。税金については、設立企業タイプ(C Corp, S Corp, LLC, Partnership)によっても税金が変わってくるため、会計士等の専門家にご相談ください。

個人にかかる所得税についても、連邦と州双方にかかります。同じく、州の所得税については、ネバダ州(ラスベガス)やワシントン州(シアトル)については無税になります。一方で、カリフォルニア州(ベイエリア・シリコンバレー、LA・南カリフォルニア)は全米でももっとも所得税の高い州として知られています。個人レベルで見た場合は、ネバダ州やワシントン州がとてもお得です。

オレゴン州(ポートランド)については、消費税が無料になります。

個人にかかる税制の違いについて、詳しくはこちらの過去記事をご覧ください。

住みやすさ

バイアスの入った個人的な感想ですw 
(*)米国は犯罪発生率、教育水準は住むエリアに強く依存するので入れていません。

ベイエリア・シリコンバレー

都会度:サンフランシスコ以外は田舎、でも(お金さえあれば)住みやすいし、バランスが取れている。
都市圏のサイズ:大(サンフランシスコ、ペニンシュラ、サウスベイ、イーストベイ)
気候:晴れていて暖かい、湿度低め。ただ、冬の雨季は思っている以上に雨も降るし、それなりに寒い。マイクロクライメイトと呼ばれるぐらい地域によって気温も違う。
自然の豊かさ:中〜高。夏は乾燥。冬は緑も増える。
交通の便:サンフランシスコ以外は車社会。渋滞はひどい。BARTはある程度使えるので、場所によっては車なしでも生きていける。
生活コスト:超高
州所得税・消費税:超高
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):4

LA・南カリフォルニア

都会度:もっとも都会。ただ、現実的にLAのダウンタウン近辺に住む人は少ないのでは。周辺都市に大体住んでいる。
都市圏のサイズ:超大(ロスアンジェルス、オレンジカウンティー、サンディエゴまでの巨大な都市圏)。都市圏が大き過ぎるので、端から端まで通勤できる距離ではないため、さらに場所の絞り込みが必要。
気候:基本的に晴れていて暖かい、湿度低め。夏は暑いぐらい。
自然の豊かさ:中〜高。砂漠。
交通の便:完全車社会。車ないと生きていけない。渋滞は超ひどい。
生活コスト:高〜超高(住む場所による)
州所得税・消費税:超高
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):4 

シアトル

都会度:シアトル市内はそれほど大きくないがこじんまりした日本の地方都市でも満足な人には向いているかも。ちょっと郊外行くと田舎。日本人に必要なものは最低限のものは揃っている。近年ベルビューのあるイーストサイドも開発が進んでいる。
都市圏のサイズ:中(シアトルサイドかイーストサイド)
気候:6−9月は晴れ、湿度低め。10月ー5月は曇りか雨、湿度高め。雪は年に一回程度。冬の気温は東京と同程度。
自然の豊かさ:高(レイニア山、オリンピック半島等々)。緑豊か。
交通の便:車社会。渋滞はそれなりにあるが都市圏が狭いので何処行くのも30分程度。近年電車の路線も増えつつある。場所によっては車なしでも生きていける。
生活コスト:
州所得税・消費税:所得税無、消費税高
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):3.5

ポートランド

都会度:シアトルよりちょい田舎。少しヒッピー的なカルチャーがあったり、食べ物が美味しいことで知られている。
都市圏のサイズ:中〜小
気候:シアトルとほぼ同じ。
自然の豊かさ:高(クレーターレイク、レイニア山等々)。緑豊か。
交通の便:基本車。路面電車が結構便利で市内の住む場所によっては自転車との併用で生きていける。
生活コスト:
州所得税・消費税:所得税超高、消費税無
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):3

バンクーバー

都会度:唯一のカナダの都市。シアトルよりちょい都会。市内はタワマンがニョキニョキ立っている。
都市圏のサイズ:
気候:シアトルとほぼ同じ。
自然の豊かさ:高(ウィスラーまで1.5時間)。緑豊か。
交通の便:基本車。渋滞はそれなりにあり。市内は歩きやすく、公共交通機関も発達していて車なしでも過ごせる。
生活コスト:
州所得税・消費税:<詳しくないので割愛>
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):3.5

ラスベガス

都会度:ストリップ周辺以外は田舎と言う印象。ギャンブルとエンターテイメント、カンファレンスの街。基本観光客向けの都会。
都市圏のサイズ:中〜小
気候:砂漠気候。夏は40度近くになる。冬はそこまで寒くならないが、朝夕は冷える。水不足が気になるところ。
自然の豊かさ:高(グランドサークルの出発地)。砂漠。
交通の便:完全車社会。車がないと生きていけない。渋滞はそれなりにあり。
生活コスト:
州所得税・消費税:所得税無、消費税高
日本の直行便:
総合評価(5段階評価):2.5

結論

個人的な感想で言うと、最後に挙げた、住みやすさが一番のポイントになるかと思います。結局、住んでいてそれなりに満足感がないと長続きしません。人を惹きつけるためにも土地の魅力がないと難しいかと。日本人にとっては日本へのアクセス、日本食材の豊富さ、お子様がいる方は日本語教育の有無。それを考慮すると、ベイエリア・シリコンバレー、LA・南カリフォルニア、シアトル、バンクバー辺りが現実的な選択肢になるかと思います。ポートランドはポートランド大好きで、カルチャーにどっぷりハマった人向けです。ベイエリア・シリコンバレー、LA・南カリフォルニアは気候的に問題ないが、生活コスト的な考慮が常につきまといます。シアトル、バンクバーは冬の日照時間の少なさ、曇り・雨にどこまで耐えれるかと言ったところです。そこから、どこまで給料が出せるのか、どこまで専門的な人材が必要か、ギラギラとした人材獲得競争に参戦するのか等々で絞っていくことになるかと思います。バイアス込みで言うと、もう一度米展開するなら、やはりシアトルを選ぶかなと思っています。総合評価でもっともバランスが取れていると思います。少しシニア向けの米展開に向いていると思います。仮にテックと言う領域にこだわる必要がないなら、LA・南カリフォルニアもありかと思います。資金豊富で思いっきりJカーブを掘りながら、若いハイグローススタートアップ目線で行くならやはりベイエリア・シリコンバレーバンクバーはシアトルに似ているが、給料がもう少し安め、カナダと言うことでビザがとりやすい等のメリットがあります。

そんな訳で、以上になります!