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逆噴射完と読書日記(20240208)


 2024! それは偶数でありながらなんとなくAKIRAを想起してSFチックな羅列であり攻殻機動隊だと笑い男が出現して映画だと「カナダ東部の研究所で爆発騒ぎが起きて脱走者が出たが大きな問題はなく……」みたいな年表の一番上に位置するような年ですが、今年です。本年も体鍛えたり音楽聴いたり小説読んだりと、いろいろとやっていきたいですね……!

 既に二月になりましたが、逆噴射まとめを(十二月・一月にはできませんでした……)します。ジョン久作さんの作品が大賞を受賞されました。

ジョン久作さん大賞受賞


 あらためて、逆噴射小説大賞2023の受賞おめでとうございます! 受賞当時は細かいつぶやきでしかお祝いできなかったので、こちらで改めて祝賀したいです。
 受賞の詳細は上のnoteに書かれているのでぜひ読んでほしいです。私の感想は以前のピックアップに記しましたが、一点付け加えたいところがあります(知人に感想を聞いてみたところ、新しくもたらされた知見です)。
「ストーリーテリングがうまいのは勿論であり、なにより主人公が外界からの受動的刺激ではなく、ある問題を解決するために能動的に自ら行動しているが、それによってもたらされた別な問題と遭遇している」という視点でした。新しい視点です。目から鱗です。
 他の作品では「俺の元に問題が出た! さあどうする!?」という締め方が多いのに対して、『悪魔の風~』では、「とある問題がある! ゾーイは問題解決のために森林火災へと飛び込んだ! しかし、そこにカルト教団が悪さをしてきて更にピンチになった! どうする!?」という締め方です。
 言い換えると、主人公が先んじて問題を解決しようとしており、その副産物として厄介事が押し寄せてきています。私の作品はこの辺が不足していたので、まあもうちょっとだな……というレベルでした。
 この辺の能動さ加減や主人公がリードすることで事態を動かす感覚は、逆噴射2022における最終の最終選考作である『Q eND A【キューエンドエー】』にも通じるかもしれませんね。

『悪魔の風の軌跡』ピックアップ


 二作品ともパワーがあって凄みがあるので、ぜひ皆さんもお手すきの時にご一読いただけると幸いです。
 また、ジョン久作さんの受賞noteでは、「2023で作品を投稿するために意識したこと」「ChatGPTの使い方」「投稿タイトルで気をつけること」などが丁寧に記されており、これは有料noteでも読みたくなる実用性のある内容ではないか……!? という記事でした。とても有用であり、役に立つので、ぜひオススメしたい文章です。
 そして、オッこれは……! ピカピカに光るビール!

 こいつは壮観ですね!

 私の作品の解説やライナーノーツとかまだいろいろ残ってるんですが、今回は読んできた本の感想を述べたいと思います。アイデアを得たいなら、やっぱり本だぜ……(映画は観ながらぼーっとするので内容を忘れていることがしばしばです)!

田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い11


ぶんころり『田中~年齢イコール彼女いない歴の魔法使い 11』マイクロマガジン、2020

 現代×ファンタジー小説を書いていることもあり、資料兼趣味としてファンタジー小説をよく買います。しかしこの作品は非常に面白い。

 一~九巻までのあらすじ:事故(たぶんトラック)で命を落とした田中が異世界に転生し、高いINT値からなる超ヒール能力で無双しようとするが、生来の顔の悪さと性格が災いして異性にはまったくモテず、他人からは忌み嫌われ、苦戦しつつも成り上がっていく話。
 十巻のあらすじ:在住するペニー帝国で爵位を得て、自分の街も持った田中。色々あって魔王をボコボコにして、ドラゴンやロリムチなエルフといったヒロインといい雰囲気になったのだが、急に別な大陸に召喚された。
 異世界転生モノでは最も楽しみかもしれない作品。チート級の能力を持っているので、敵をボコボコにして社会的地位がドンドン上昇していくが(言い換えるとどんな相手でも殴り合いになった時点で勝ち確)のに、「女性と付き合うなら乙女がいい」(マイルドな表現)という田中の難儀な性格と顔の悪さ――主に「醤油顔」「中年アジアン」「ブサメン」と表現――により、本来ならスルーできる無理難題が降ってきたり、仲間に裏切られたりと、ある意味で先が読めないスリリングな読書体験が味わえます。物質的にはどんどん満たされていくのに、精神的な飢えがいつまでも満たされずに右往左往します。非モテエピソードの白眉は、一巻のオークに襲われる宿屋の夜です。モテない、ハブられるってこういうことなんだなって、肌身で感じられます。
 今作からは知らない大陸に全裸で召喚された田中。「このような男が召喚獣だなんて……!」とまとめられながら、その場の状況を適切に把握しながらサバイブしようとします。全体的に田中の作品は、ちょっと紹介がはばかられる独白だったり、独特な心理描写の癖が強く、登場するキャラも頭のネジが一本抜けているようなクセモノが多いですが、今回もそれを楽しみながら読めました。面白いけどアニメ化、絶対無理だろうな……
 たびたび挟まれる社畜エピソードも面白い。交渉や難題が行き詰まった時、転生前の会社員時代が蘇ります。金額を決定する権限がないのに外資との交渉最前線に放り込まれたこと、上司にしか発言権がない打ち合わせ、バブル期の熱海……ファンタジーに転生したのに現実がつきまとう緊張感。豊富な社畜の経験値を持ちながら田中はサバイブを続けます。サラリーマン解像度が高いせいか、王宮での貴族・爵持ちの謁見や外交会議、スパイとの交渉についても「言い換えるとこういうことだな」と腹落ちも早い。最近の異世界モノではのんびりしてリラックスする風潮が流行ってますが、ブームの真逆を行く作品。あと、田中の品行がちょっと大人向けなので、青少年にはやや注意したい作品。漫画化した作品が二作出ています。

https://gcnovels.jp/book/641


千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話

済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』左右社、2023

 タイトルだけ見たらものすごく異世界転生の感じがしますが、ノンフィクション・随筆であり、本の中身がタイトルを地で行っています。
 内容としては、日本人なのにルーマニア語で小説を書き、ルーマニアの文芸誌に小説が載るようになった作者の半生が、エッセイとして記されています。
 陰鬱な大学時代、就活の失敗(「就活、失敗しました~」という軽薄な口調でかえって心に突き刺さる)、引きこもり、それから映画を観まくって映画エッセイを書いていくうちにルーマニアにハマり、小説を書くようになり、やがてFacebookを通してルーマニア語を習いながら、ルーマニア語でも小説を書いていく……という人生。現実を写した内容なのにドラマチックであり、圧倒されてしまいました。
 著者の半生を記したエッセイであります。本の終盤、著者はここまで読み終えた読者たちを励ますように、自分と同じ立場の人たち、経済的に、あるいは実存的に苦しい立場に追い込まれた人たちに向かって優しく語りかけています。「良かれ悪かれ 今お前がそこにそうしているのが最大の強み」という座右の銘を送っています(BUCK-TICKの歌詞だそうです)。自分の生き方に悩んでいる人にとって突き刺さる文章です。
 語りが「俺」で一貫しており、タイトルの軽妙さも相まって、小説の主人公がひとり語りを続けている印象があります。最近だと乙一の異世界転生小説を思い出しますね。


 著者がルーマニア文学や東欧文学が好きでとにかく読みまくっているので、文章中でも東欧の小説やエッセイ、ノンフィクションなど、さまざまなジャンルの外国書籍が紹介されています。
 著者はFacebookを通してルーマニア人にフレンド申請をしまくることで、千葉県の実家に住みながら自分なりのメタバースを構築しています。いまのTwitter(現X)でこれが応用できないか? と思いましたが、どれがbotアカウントでそうでないか、どれがインプレゾンビなのか、判別が難しいので、苦しいかもしれない……
 繰り返しになりますが、「重要なのはどこにいるかじゃない。俺たちが今そこにいること、これ以上に価値のあることはない。だから俺にとっては、他でもない今にそこに立ってるアンタこそが未来だ。やってやれよ、おい!」という締めの文章が、改めて力づけられる感じがあり、良いエッセイでした。ちなみに著者はnoteを運営しており、短編を無料公開しています。

左右社サイト
https://sayusha.com/books/-/isbn9784865283501

済東鉄腸note
https://note.com/gregariousgogo/


私はあなたの瞳の林檎


舞城王太郎『私はあなたの瞳の林檎』講談社文庫、2021

 短編集です。収録作は『ほにゃららサラダ』『私はあなたの瞳の林檎』『僕が乗るべき遠くの列車』。ジャンルは恋愛小説です。
 私は恋愛小説が苦手で、「どうせくっつくかくっつかないかのパターンだろう」と斜に構えたスタイルですが、そんな私でも芸大や芸術をテーマにしたり、恋愛に発展しそうで発展しない感覚を主題にしたりと、手を変え品を変え別な風味を出そうとしており、楽しんで読めました。
『僕が乗るべき遠くの列車』ではのっけから「親がノストラダムスの大予言を信じていて……」となり、そうか、ノストラダムスってそんな前なのか……! とビビります。チェンソーマンでは現在進行系でノストラダムスの予言と戦っていますが、この小説では完全に過去として書いており面白かったです。
『僕が乗るべき~』においては毛色がちょっと純文学的で、最初にクライマックスと呼べる大変なシーンをぶっ込んできて、その後は少年少女が絆を深める日常シーンが続く……というエンタメ小説とは異なる構造になっていて、普段読む小説とは違っていて新鮮味がありました。
 というものの、メインの事件は少年少女のすれ違いなのですが、すれ違いをどう解釈したらいいのかわからない部分が多く、こんがらがることがありました。
 おすすめは『ほにゃららサラダ』です。芸大に入った女性の主人公が、まさしく天才で作品を制作しまくっている男性と出会っていい感じになるものの、女性は芸術家としてのエゴやプライドがあるため、簡単に心を許していく関係性を作れずに……という話。プライドなんて捨てちまえよ! と外野は見ていて思うんですが、人間、そう簡単には思っていることを変えられないのがミソですね! 十代、二十代の失敗して失敗してとにかく失敗する恋愛模様(というか人間関係)が記されていて面白かったです。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000355481


 今回は以上です。一月中にもう少し投稿したかったのですが、思ったより時間が空いてしまいました。今年の目標は、もうちょっとマメにnoteも更新していくことですね!
《終わり》





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