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逆噴射ピックアップその四(20231207)

 冬! 今年も終わろうとしている最中、筆者はインフルエンザにかかりました! 生涯初インフルなので、「まさか俺がかかるなんて……!」とビビっています。熱が早めに落ち着いて良かった。
 逆噴射のほうは、審査がこれから始まるということで、じっくりピックアップを進めていこうと思います。合間合間に読書感想文の記事も入れていきたいですね!
 今回も、ダイハードテイルズ様主催の『逆噴射小説大賞2023応募マガジン』より記事をいくつかピックアップしました。

 ピックアップ第一段

 ピックアップ第二段

ピックアップ第三段



ヒュドラを運ぶ

 主人公である「私」は母親です。母親が、家族四人を連れて礼成江を渡ろうとする話。三十八度線を渡ろうとするところから、日本敗戦後から、朝鮮戦争の手前ぐらいの時代背景を予測しました。満州とか、悲惨だったもんね……
 川を渡るだけなのに緊張感が高く、サバイバルをしているのがよくわかります。特に「他の家族達は、跡取りの長男だけを連れて行くことにしたようだった。」という文章もあるように、カメラに写っていないだけで複数人が取り残されていることが明白です。
 映画の『1917』はイギリス兵がドイツ軍の陣地を横切って味方たちに司令部の命令を伝達しにいく映画ですが、基本的にフィールドを渡ることが多く、接敵することはそんなにありません。しかし、戦場特有のピリつく緊張感やいまにもドイツ兵が襲ってきそうな恐怖がそこかしこに溢れています。この作品からはそうした緊張感と切迫感を感じました。
 しかし、タイトルに出てくるヒュドラが何を指しているか、答えを出すのが難しいです。生成AIに聞いてみたところ、
「ヒュドラ(Hydra)は、ギリシャ神話に登場する怪物です。九つの頭を持つ水蛇で、アルゴス地方のレルネの沼に住んでいました。ヘラクレスによって退治されました。
ヒュドラは、テュフォンとエキドナの子とされています。ヘラ女神によって育てられ、ヘラクレスを苦しめる目的で育てられました」
 とあり、やはりシンプルに「味方」や「かわいいこども」を指す言葉ではなさそうな気がします。
 敬子、あるいは弘子がどういうキーワードを握っているのか? 何かしら「ヒュドラ」になりうる何かを有しているのか? 今後、こどもたちがみんな「ヒュドラ」として動き出すのか?
 緊張感が高く、読者にピリリとした読書体験を与える作品だと思いました。


誰も賽を裏切れない

 賽子確率論! 量子確率論とギャンブルを組み合わせた作品のように思えます。
 作品のほとんどを老人の会話が占めている(というよりほとんど独り言)なのに、スラスラと読みやすい。「僕」の独白を先導していくような物言いが気持ちよく、操られている感覚を覚えます。というより実際に半分ぐらい操られており、「僕」が振り向かない未来が消滅しています。老人がちょっとビッグ・ブラザーみたい。
 自分が半分以上有利となる前提を作った上で、それ以上の結果はバクチに任せる。
 ギャンブル漫画ではクライマックスシーンでたまに見る光景ですが、この作品では初手から上澄みをすくい取っているのが面白い。
 老人が近づいてくる様も映像的で、何か幻想的な雰囲気も感じる作品づくりを思いました。
 老人は量子のように伸び縮みしながら、少年にサイコロを託す。その老人の正体はどうだったのか、それでいて、少年はこれからどうしていくのか……期待が持てる作品だと思いました。
 まさにSFのクォンタムスリラーな作品。ここからどう転がるのか?


真夜中の檻

 非常にスリラー的な作品で、東京創元社から同じタイトルの本が出てしまっている点を除けば、素晴らしい作品です。
 文章の切り方が映像的です。文章をややぶっきらぼうに切ることで行間を意識させて、演出に凄みを持たせています。文章のつなぎ方もうまく、映像を喚起する役に立っている。
 行が終わるとたまに空白が生じているのですが、空白が生じる度に新しい情報が追加されていくので、読者は「何が起きるのか?」と期待しながら続きを読むことができます。
 更に面白くなるのは後半からです。急に空白が消えたかと思うと、映画のワンカット撮影のようにどんどん情報が増加しつつある中で、登場人物が増えていくし、主人公の目的も分かるようになってくる。徐々に情報が開示される手法に作者の力量・文章力を感じました。
 単話ドラマの脚本としても実在していそうな、登場人物三人のバックグラウンドが引き立った良い作品だと思いました。三人が三人ともカオスを抱えているようで、このカオスをどのように混ぜ込んでいくか、ごちゃごちゃにしてどのように爆発させるか、期待したいと思います。
 

アイ・オブ・ザ・タイガー

 野生! 自然美! 死! そういう現代日本人に欠けている荒々しい獰猛な性質(最近はクマが洒落にならない範囲で怖いですね)を補完してくれる作品。動物小屋ブンブンってネーミングもちょっと好き。
 文明社会の人間が生贄になり、キラー的な存在が名士たちを付け狙う……! トーテムポールとかハントレスとか、レイスとか、デッドバイデイライト的な拡張もできそうな小説だと思いました!
 文章は三人の男を主人公にした三すくみであり、同じセンテンスを三度続けることでテンポの良い作品として仕上げることに成功しています。
 男たちの秘密も気になります。アメリカのウォール街における富豪、イギリス公爵家の大物、オーストラリア出身の国際弁護士……彼らの共通点は何か? イカゲームに観客として参加したのか?
 メインを張りそうなのは虎のようですが、テスカトリポカとか東南アジアの神々を観たいと思いました。ここにおいて神々は人間を無慈悲に蹂躙する存在であり、ひたすら駆逐していく代物……

悪魔の風の軌跡

 ズバ抜けて面白く、「これが今作のトップを飾るのではないか?」と内心で考えている作品です。
 山火事が発生して消防士たちが鎮火活動に当たっているのですが、火災は止む気配がなく、それどころか勢いを増しています。なお悪いことに、火災には人の手が加わっている気配もあります。
 絶妙にジョン久作さんの作品は、これまで見たことがなかった種類の話を出してくれるんですよね。『ダンジョンバァバ』然り、『銀の網』然り。今回も、鳥人間やエルフや少女が出てくる話はよく見たのですが、消防士が主役のドラマは初めて見ました。

 一行一行に文章の無駄がなく、とにかく情報の制御がうまい作品だと思います。うまくいかない作業、悪化する災害、HELL……山火事は人智を超えた出来事であると錯覚させ、延々と苦行を繰り返す受刑者消防隊……文章にシャープさがあり、読むのが楽しくなってくる作品。
 更に面白いのが、単なるディザスター物としてではなく、内部の人間模様も丁寧に描かれていることです。ゾーイ……受刑者消防隊……フレイム・ウィル……ロブ……複数の人間関係を、絶妙に800文字のテンプレに落とし込みながら組み合わせていくのは作者の力量が現れています。あと、刑務所からも人を出さないといけない状況って相当マズくないか……?
 脇道ですが、ヘッダーの画像は作品とマッチしていて、「そうか、これは大火事だな。主人公は消防隊員だな」というのがよく伝わってきます。私はこれを読んでオーストラリアの長期間にわたった森林火災を思い出したのですが、何かモデルとなった事件とかあるのでしょうか。
 人間VS自然と思いきや、そこにカルト教団も加わって三竦みの様相を呈してきます。カルト教団の内部でも悶着がありそう。三竦みは無限に物語を面白くすると古事記にも書いてある(たぶん)ので、ここから素晴らしい物語が展開されると思います。期待しています。

【空港税関-怪物図鑑】


 チュパカブラ……UMA! 凶悪生物!
 他の作品だと映画監督の前に立ちふさがったりしているんですが、ここではUMAが空港に出現しました。
 どちらかというとコメディ寄りにも見えるのですが、度外れに生物たちが多いので、怪物動物園として面白そうな雰囲気が出てきています。
 日本の河童とか天狗も、あわよくば出現するんでないかい……? という期待感もあり、ワクワクさせられる一品です。
 まさに人類対殺人生物らの幕が上がるということで、つまり異種格闘技戦にも繋がります。
 殺人ビーバーとかどうやって人間を殺人するんだろう……足のスネをひたすらかじるのかしら。鼠! たまにネズミの集合体とかがホラー映画でおぞましい感じで人を食べてるんですが、ああいう感じじゃないのを望みます!
「俺」もさりげなく強いです。有段者? ってくらい強いし、動物相手にも引けを取りません。もうあいつ一人でいいんじゃないかな……ってぐらい強い。もう一人バディがいるとより映えるんですが、この主人公を補填できる存在としては、どんな人がいるのだろう……
よく『TOUGH』ネタでコモドドラゴンが話題に上がりますし、ヒグマVS人間のコピペが話題になりますが、この話ではどのように先を作るのか気になりますね。恐竜とか出るかも。

鼎蒼の加護

 初見で「タイトルが読めないぜ……!」と唸ってしまったのでグーグルで調べました。たぶん「ていそうのかご」だと思います。
 おそらく初文の「世界の端から~」のところで、ハテナマークが浮かんだ読者も少なくないのではと思います。何を描写しているのかが不明瞭なので、頭に入ってくるまで、ハテナマークを浮かべながら読むしかありません。美文でありつつも、スッと頭に入りにくいのが難点。
 古典のようなもので、一度腹落ちするとスラスラと読めるようになるのですが、そこまでが難しい。いかに読者をその段階に引き上げられるかがポイントになると思いました。
 読み取れる限りだと、ストーリーは、「男」が上から落ちていき、その過程で「彼女」と出会った過程を思い出す。そして「彼女」を思い出した「男」は、行動を決意する――という内容です。本当はもう少しあるのですが、こちらは読んでからのお楽しみです。けっこう、キャラ付けにビックリします。世界観がハッキリしてそうですが、思ったより抽象的で、掘り下げが可能な作品です。つまり、ここから如何様にも拡張されうるということで、読者は心の準備をしておいたほうが良さそうです!
 

おまけ

 今回の大賞に投稿した自作品です。お時間ありましたらどうぞ!

 現代日本の男性が、日本に出現したファンタジー世界に潜るらしいですよ。

 脳をメディアに渡して世界を天国にした男が、天国から来た少女(脳内設定)に連れられて、別な少女を探しに行く話。


 今回は以上です。
 また次回もピックアップをしたいですね……! よく考えたらライナーノーツも書いていませんでした。

《終わり》

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