【楽曲レビュー】ハイドン交響曲第100番「軍隊」

クラシックの系譜において「古典派」は、主にハイドンからモーツァルト、ベートーヴェンに至るまでの流れを指す。古典派とは、ソナタ形式や(特にベートーヴェンによる)機能和声を発展させ、その後のロマン派時代への重要な先駆けとなった。

古典派の代表としてハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人を挙げたとき、スコアを実際に読んでみると、和声分析ひとつをとっても非常に簡単であることがわかる。特にモーツァルトのスコアは読んでいて解釈に迷う箇所がない(少なくとも自分は遭遇していない、気がする)。古典派よろしく、形式と和声のルールに従って分析すれば、まず誤読する余地がないのだ。

一方で、上に挙げた古典派の3人にも個性はある。というより、完成した旋律や曲のたたずまいに、3人それぞれの人柄が表されているように思えるのだ。中でもハイドンの音楽は、優雅でいて、一方でジョークが効いているような、「遊び心のあるおじさん」といったイメージだ。自由自在なアルペジオ、印象的なスフォルツァンドなど、遊びの道具立てはいくつか彼の曲の中に挙げることができるが、それよりも根本的なところで他の作曲家にはないワクワクとした高揚感、「この音符を使って遊んでいいですよ」と言われているような開放感がある。ただ、一方で古典派の形式や和声にならった書法は貫いており、音楽全体に締まりがあるのがまた素晴らしい。

今回取り上げる交響曲第100番「軍隊」も、ハイドンの遊び心と厳粛さが融合した傑作である。「軍隊」という名称は、二楽章に現れる打楽器群、軍隊ラッパにちなんだ呼称である。

聴きどころと言えば「軍隊」を想起させる二楽章…と言いたいところだが、この交響曲で最も完成度が高く、美しく響くのは一楽章だろう。第一主題(レーミソレーミレドシラーシレラーシレドードレシーシドラララシドレミレドシラ…全く美しさが伝わらない)がフルートとオーボエによって印象的に提示された後、楽章全体で徹底的に展開され、整然とした統一感を生み出している。このように徹底して主題を展開していく作曲技法はハイドン以降の特にベートーヴェンによくみられる手法であるが、彼よりも数十年先駆けてこれを完成したハイドンの手腕は非常に優れていると言えよう。その一方で、既に書いたようなハイドンならではの音楽の高揚感がある。主題の展開とハイドンの個性を両立しており、この交響曲は傑作として現代でもなお深く親しまれているのである。

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趣味で多くのクラシック作品のスコアを読んでいる。ポケットスコアになるくらいの有名な作品には、やはりそれぞれに傑作と呼ばれる理由があり、勉強して始めてわかる良さがある。5分に満たない音楽が多く消費されている現代において、たいてい長時間にわたるクラシック音楽を聴く機会が失われている昨今ではあるが、それこそハイドンに見られるような主題の展開、形式の美しさなど、時間をかけなければ表現できない音楽の素晴らしさがクラシック音楽にはあると思っている。何かの媒体でクラシック(に限らないが)音楽の良さ、違った見方を紹介できないかと思って、noteで楽曲レビューをやってみた。

しかし難しい… こんなに難しいのかと頭を抱えている。音楽を文章でレビューすることの難しさを肌身で実感した。例えば曲中のモチーフをいくつか画像にして挿入すれば、ドレミーのように間抜けな書き方をしなくて済むが、それ以前に耳で感じたすばらしさを言語化するのが、根本的に難しい。これからどうしようかと悶々としながら、取りあえず疲れたので駄文を閉じる。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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