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Ver.CNP ソラナちゃんのいちにち

「あーあ、お姉様は仕事、シークレットは、エブモスとデート、シェードは、友達と図書館にお出かけ」
「こんなにいい天気に、家にいるのは私達だけ」
「どこか、行きたいわね」

「」

「これだけの暑い日なのだから、そうね。プールなんていいわね」
「今なら、このわたくしと共に水着を着る栄誉を与えてもよろしくてよ!」

「」

「って!無視するなぁー!」

ソラナがイーサに近寄って耳もとで叫ぶ。
しかし、イーサは、顔色ひとつ変えずに視線を本に落としたまま、動かない。
ソラナが、イーサの本を取り上げようとするが、気配でそれを察し、反射でソラナの腕を捻り上げる。
イーサの読んでいた本には、『コスモス体術の歴史』と書かれていた。

「いたたたた!何するのよ!」

「ん?あぁ!すまない」
そういうと、イーサはソラナの腕から手を外した。
「つい、反射でね」
「それより、どうしたの?そんな真っ赤な顔をして」

「あなたよ!あなた!!原因よ」

「?」

「イーサ、あなたが話を聞いてないから、私は怒っているのよ」

「私に話していたの?」

「そうよ!他に誰がいると思っているの?」

「いや、大きな独り言を言っているのかと」

「なんで、私が、わざわざそんなことしなきゃいけないのよ!」

「いや、気分を変えたい時とかやるのかなぁと」
「私も、イーサリアムにいたとき1人でリソースを作成していたとき、あったもの」
「こう、独り言を言いたくなるときって」「言った後、結構考えがまとまって、いいのよねー」
「新しい理論が出来たこともあったわ」
懐かしむ様に呟くイーサ

「あぁ!もう。そういうのじゃないから!」「理系特有の考えまとめるやつじゃないんだから」
「わたくしは、あなたとコミュニケーションをとるために話しかけたのよ!」

「そうだったのね。それは、ごめんなさい」

「いいわ。その素直さに免じて許してあげる」
「その代わりに、今直ぐに私と一緒にプールに行くのよ!」
「さぁ、早く!」

「ちょっと、待って!何故、プールに行く話しになっているのか、わからないわ」

「そんなことも、わからないの?」
「私達の様な美少女がこんな日に、その肢体をひと目にさらさないなんて、そんなこと、この世界が許したりしないわ」

「言ってしまえば、持つものが与える義務」
「ノブリス・オブ・リージュよ!」

そういって、胸をどーんとはるソラナ。
身長は小さいけど、立派なものをお持ちのソラナ嬢。
大きさでは、オズモに敵わないが形は素晴らしい。

「で、結局は?」

「新しく買った水着を着たいのよ!」
「わたくしも、周りも得できる三方よしの余暇の使い方だわ!」

「それ、私は行かないって選択肢は無いかなぁ」めんどくさそうにイーサが答える。

「それは、無いわ!」
そう言って、プール施設のNFTをイーサに手渡す。
そこには、『特設コーナー:甲冑兵法の実演』と書いてあった。

「いくわよ!ソラナ!」

「そうこなくっちゃ!」
「でも、時々、あなたのやる気のスイッチのつき方が心配になるわ」
そう漏らすソラナであった。

———
———
「特設コーナーなんてなかった、、、騙したわね」

「騙したなんて人聞きが悪いわ」
「勝手にイーサが読み落としていただけなんだから!」

「行くわよ。さっきまでの勢いはどうしたの?イーサ」

特設コーナー「甲冑兵法の実践」は、翌月開催のものだった。
再度、日付を見つめ、ため息をついた後、頭を振るって勢いよく前を見るイーサ

「いいわ。あなたが楽しむ気ならば、私も楽しんでやる」
「だって、そうじゃなきゃもったいないでしょ?」

「さすが、イーサね。そうこなくっちゃ!」そう言って、イーサの手のひらをパンッと叩くソラナ

「代わりに、今度、私の用事にも付き合ってよね」

「よろしくてよ。そうでなければフェアじゃないわ。それに、イーサの趣味も私、気になるし」

「よーし、そうと決まったら、さっさと着替えましょう」

「どう?オズモお姉様にびっくりしてもらおうと選んだこの水着」

それは、上下が分かれたワンピースの様な水着だった。
全体的に白と水色で構成されたそれをフリルが波の様に彩る。
水着の間から覗く大きな胸部が決して下品になることなく、むしろ、可愛らしいものとして完成されていた。

「ソラナ、とても似合っているわよ」

「ふふん。とうぜんよ!」
「そういうイーサだって、よく似合っているんだから」

イーサは、白とピンクの花が彩るパレオをチョイスしたのだ。
細身の体でありながら、健康的に鍛え上げられた肉体は、モデルの様な均整のとれた体形であり、スレンダーの魅力を存分にアピールしていた。

見た目美少女のこの二人。
プールサイドに現れれば、着目必須と思いきやみんなの視線が注がれることはなかった。

「なぁー!何よあれ、あれじゃ痴女よ痴女!」

その視線の先には、何もしなければ凛々しい姿であろう美しい女性。
しかし、今は頬を赤らめながら涙目を浮かべて恥ずかしがる成人女性がいた。

(しかも、出るとこは出て、引き締めるところは引き締めている。やるな) 

心の中で、賞賛と対抗心を燃やすイーサ

「うん!さすが、Junoね。マイクロビキニも着こなすなんて、私の見立て通り」

「オズモ―、恥ずかしいから、そろそろ、上を着てもいいだろ?」

「だめっ!まだよ、まだ!あなたの美しさをこのプールサイドに刻むのよ!伝説になるのよ!」

そういって、自分は浮き輪に乗りながら、デジカメで撮影するオズモ

「お姉さま!お仕事ではなく、遊びならば、是非、このソラナを誘ってくださればよかったのに!」

勢いよく駆け出し、オズモに迫るソラナ

走りに合わせて、瑞々しい2つの果実が揺れる。

「あらーソラナちゃん。おつかれー」
「イーサさんも。二人とも来ていたのねー」

「来ていたのね。じゃありません。お姉さま!」

「なあに?ソラナちゃん、こわい顔しちゃって」

「なぁにでもありません!今日は、お仕事だというから、わたくし断腸の思いで引き下がりましたのに」 
「こんなのってあんまりですわ~」

しくしくと泣き始めるソラナ

「ごめんなさい!そういうつもりじゃなかったのよ」
「えっとね。仕事はあったの。ほんとうよ」「ただ、思ったより早く終わったから、こうして休みに来たってだけよ」
「結果論だけどね」
「ほら、それにソラナちゃん。家で涼んでいるかなぁって思ったから」

(これ、完全に浮気している彼氏のいいわけだ)

イーサが生暖かい目で、オズモを見る。

「そんな気遣い不要ですわ!」
「わたくし、お姉さまに呼ばれたのならば、例え、GOXしたCEXだろうと駆け付けますわ!」

(GOXしたCEXは、無理があるよソラナ)

———
———
「えーー、似合っていたのになぁー」

「流石にあれは、恥ずかしすぎた」

Junoが冷静に振り返る。

「それにだ。私の体が見たければ、いつでも。その。見れるだろ」

小さな声で呟くようにいう

「えっ!何々?聞こえないよー」
「もっと、大きな声で宣言してくれないかな〜」

「オズモ、勘弁してくれ」

「お姉さま方、何を夫婦漫才しているのかしら」
「仲が良すぎて、わたくし、お二人を焼いてしまいますわ」

決して、その一言が間違いではないかのように手にはっきりとわかる暴威を纏っていくソラナ。

お姉さま方に出し抜かれ、イチャつかれて、もう、完全にキレている。
手にまとったプラズマは、水球の様な形をとり、放電と吸熱を繰り返していた。
彼女の周りの水分も凍り始める。

「おぉい!ソラナ。それは、いけない」

いつもの様な威厳のある超えではなく、どこか間の抜けたJunoの声が響く。
オズモに辱めを受けた精神的なダメージがそこはかとなく効いていた。
いや、この場合は、合意は取れていたから、一種のプレイなのかもしれないが。

「いいえ、わたくしは、やめませんわ!」「お姉さまが誠心誠意謝って、『今日は、ソラナと過ごすわ』と決断しない限り、わたくしの怒りは収まりませんわ」

「ソラナちゃん、いい加減にしなさい!周りのお客さんにも迷惑でしょ!」

「迷惑?何を言っているのかしら、お姉さま。周りを見てください。冷静さを欠いているのではなくて?」

「なっ!?」
ソラナとオズモ達以外は、まるで何事も無い様に過ごしていた。
プラズマの放電に当たりそうになった他の客を放電は、すり抜けていった。

「次元をずらしたの!?」

「そうですよ。その位の配慮はしていますわ。一般のお客様に迷惑をかけるなど、するわけがないでしょう」
「そんなことより」
「今更!そんな、正論を持ち出して良く言えましたね」

ソラナが生み出したプラズマの球体は、より大きく巨大なものになっていった。

「御免」

イーサが滑走し、ソラナの鳩尾に鋭い一撃を叩きこんだ。
神速の突進と、体捌き。
あたりに溢れる放電を全て躱した上での掌底だった。

「ぐぅぅ」吹き飛ばされりソラナと、その場に取り残されたプラズマも、コントロールする主人がいなくなったことで、内部のエネルギー統率が取れなくなり、辺りに拡散を始めた。

「すぅぅぅー、はっ!」

イーサは、呼吸を整え地面を深く踏み締め、プラズマの球体に向かって両腕を突っ込んだ。
そして、プラズマをそのまま自分の体に伝え地面へと放出させた。

「イーサさん、ありがとう!」
歓声を上げながら、彼女を褒め称えるオズモをイーサは、きりっと睨む。

「オズモさん」

「はっ、はい!」

「緊急だったので、手を出させて頂きましたが、今回の件は、原因はオズモさんにあります」
「だから、ソラナにきちんと謝って下さい」

「えっ、でも、私悪くな」

ドスン!軽く震脚を放ち、威圧するイーサ

「返事は?」

「はい!」

「よろしい」

「ソラナちゃん、ごめんなさい」

素直に謝るオズモ、それは、一切言い訳のない謝罪だった。
ソラナも、それを受け止めて許すことを決意する。

「お姉さまがそんな、いえ、こちらこそ取り乱してしまい。申し訳ありません」
「お姉さまの妹として、恥ずかしいですわ」

手を取り合い、和解するソラナとオズモその姿は、どこぞの女子高の先輩と後輩を思わせる姿だった。

「イーサ、その。ありがとう」
「わたくし、つい、頭に血が昇ってしまって」
「あの様な真似をしてしまうだなんて」

「いいよ。ソラナ」
「そういうときだってあるもの」
「それに、少し、すっきりしたでしょ?」「思いをしたぶつける事が出来て」

「ええ、すっきりとしましたわ」

「よかった」

「でも、もやもやは、まだありますわよ」「ですから、勝負をする事にしました!」

「!?」

「お姉さま方、わたくし達と勝負してください」

「勝負!?」

「はい。わたくし、まだ不完全燃焼ですので」
「お付き合いしてもらいますわ」

「ちょっと、勝負って!」

「勿論、先程のような危ないものでは、ありませんわ」

「きちんとしたスポーツで決着を着けさせてもらいます」

そういうと、ソラナは、横を向き奥のスタジアムを指差した。
そこには、プールというには余りに異質なものが存在していた。

宙に浮く水の塊

近年、コスモスで登場した超流動性ステーキングを用いたプールだった。
水の中では、コントラクトにより呼吸が可能な特殊なプールだ。
主に水中競技で使われていた。

「あれを使います」

そういって、ボールをトランザクションで出現させる。

「水中バレーですわ!」

そんなスポーツ、聞いた事がなかった。

しかし、それは、即興でソラナが編み出したもの。ではなく。
彼女の元上司、FOXがアラメダリサーチ時代に考案したものだった。

いわく、
『水中で、バレーしたら面白くね!?』
『トランザクション使って、技とか作ってさ』
『360°見学出来たら、こりゃー見せ物としてもいい』とのことだった。
当の発案者は、『そんな疲れること、やりたくない』と言って一度もする事がなかったスポーツである。

早々とチームを作って、興行にした後は、お酒を片手に楽しんでいたのだとか。
そんな彼めがけて、必殺の一撃が放たれるのは珍しくなく。
彼の観戦する試合では、一試合に最低一度は、彼が吹き飛ばされるスポーツだった。
まぁ、主に仕事をサボって試合を見に行ったのを選手であるソラナに見つかった上での出来事なので自業自得といえばその通りなのだが。
ソラナは、そんなスポーツのエースをCTOと兼任してやっていた。

「さぁ、お姉さま。覚悟してください」
「敗者は、勝者の言う事を何でも1つ聞く、という約束をかけてもらいます」

「いいわ。その勝負。受けて立つわ」「Juno、やれるわよね」
「もちろん、全力で私がサポートするわ」

「ああ、オズモ。任せた」

「イーサ、勝ちに行きますわよ」

「任せて」

「ふむふむ。ならば、盛り上げ役は、必要だよなぁ」

「ポルカドット!」

「っと、呼び捨てなのな。ソラナちゃん」

「さてと、だ。プールの貸し切りは完了している。遠慮なく試合ってもらおうか」

「なんて手際の良さなの!?」
「その手際の良さ、他にももっと活かしたら?」

「痛い事言ってくれるなぁ!オズモさんは」「と、アス太、カメラは?」

「全て、セッティングオッケー!」

「よし!」

「じゃあ、はじめますか」

「ちょっと、待って」
「なぜ、撮られなければいけないんだ」
「プライベートな試合だぞ」

「そんなの決まっている」
「被写体が良いからだ」
「そして、だ」
「これは、俺の感なんだが。面白いことになりそうな予感がする」
「だから、カメラをまわすことにしたんだ」「勿論、コスモス中に配信するコントラクトも整えた」
「既に、コスモスさんには許可を頂いている」

「ちょっと、ちょっと!なんてことしてくれるんだ」

「動揺したJunoさんも、素晴らしい!」

(そういえば、ポルカドットくんもJunoファンクラブだったわね)

「さぁー、選手諸君。準備を始めてもらおうか」

「ポルカドットに仕切られるのは癪だけど、さっさと準備を始めてしまいましょ!」

「そこ!せめて『さん』をつけなさい!」

「殿方が、そんな小さなことに拘らないの」「器が知れるわよ」

「ソラナちゃん、いいこといった!」
「そうだぞ、ポル兄ぃ」

「君にポル兄ぃ言われる筋合いはないぞ!アス太くん!」

「まぁまぁ」

そういって、ドリンクを差し入れ間に入るイーサ。
ドリンクをポルカドットとアス太に渡して、ポルカドットの頭を撫でる。

「くっ、そうされたら何も言えないじゃねぇか」
「しかも、なんだ。この圧倒的なバブみは!」

しっかりと、フォローもするナイスなイーサだった。

——-
——-
「さぁ!お姉さまを叩きのめすわよ」
「そして、一日デートを勝ち取るのよ!」

「ソラナ、何でもいうことを聞く権利じゃなかったの?」

「そうよ!だから、それを使って一日デートをするのよ!」

(そんなこと、ソラナがオズモさんに頼めば普通にやってくれるんじゃ)

「あっ!今、それ意味ないんじゃない。なんて考えてなかった?」

「何でバレているのよ」

「イーサソムリエの資格を持つわたくしは、そのくらい当然に気付けるのよ」

(イーサソムリエって、何?)

「いつも、お姉さまから施されるだけだったわたくしにとって、『勝ち取るデート』は意味があるものなのよ」

「それって、ソラナの心の問題じゃ」

「そうよ。だから、これは、わたくしにとって、とても意味がある行いなのよ」
「イーサにも付き合ってもらうわ、いいかしら」

(有無を言わせない勢いね)

「ただ、イーサにも、お得な事がなくちゃいけないわ」
「そこで」

「えっ、別にいらないけど?」

「?」
「どうして?」

「だって、強者との戦いでしょ。むしろ、腕がなるわ」
「コスモスの英雄、Junoさんと戦えるのよ。これ自体、もう、ご褒美よ」

(戦闘狂ですわね)

「でも、イーサにも、報いるものを渡せないとわたくしの気持ちが治りませんわ!」
「だから、後日、あなたとも出かける事にします」

「それ、別にご褒美でもなんでもないんじゃ」

「これを見ても、まだ、同じ事が言ってられるかしら?」

ちらっと、水着の胸元を開き亜空間の収納口を展開し、中からチケットを取り出して、イーサに見せるソラナ。

そこには、コスモスの外宇宙であった出来事を映像化した映画のチケットがあった。

カーアクション主体なのだが、人物によるアクションも素晴らしいんだとか。
普段は、技による戦いを主戦場とするイーサにとって、ゴリゴリマッチョな主人公やヒロインの繰り広げるアクションは、スカッとしてたまらないんだとか。
シリーズものの第六作までみたイーサが絶賛していた。

「ワイルドで、素晴らしい」と。

「それ!見たかったやつ!」
その第七作目の映画のチケットがソラナの手の中にあったのだ。
人気絶賛、なかなか席の取れない最新作をベストポジションで鑑賞出来るチケットが。

「ふふん、どうかしら?」

「ソラナちゃん!」

「何よ。きゅうに『ちゃん』って気色悪いわよ。あなた」 
「でも、気に入ってくれて、よかったわ」「さぁ、この戦い、絶対に勝ちにいきますわよ」

互いの拳と拳を叩き合い、試合会場のゲートへと向かう二人。

一方。

「やるしかないわね」

「そうだな」

「Junoが強いのは、わかるけど」
「ただ、今回は、相手が悪すぎるわ」

「そうだな」
「技に優れたイーサさん。ちからだけら、比類ないものがあるソラナ」 
「タッグで相手にするには、危険すぎる組み合わせだな」

「って、そういいながら、なんか楽しそうなのよねー。あなた」

「当然よ。強い相手と戦えるんだ」 
「憎しみでも、利害でもない。ただ純粋に技を競い合うフィールドで」 
「これが、楽しくないわけがない」

「ちょっと、負けたら言うこと何でも聞くって約束忘れてるでしょ?」

「あぁ、そうだな。忘れてしまうくらいワクワクしているよ」
「それに、別に買ってしまえばいい話しだろ?」

「そうね」
「流石、Junoね」 
「頼りにしているわ」

「サポートは、任せたわ」

「任されなさいな」
「きっちり、やり切るんだから!」

「普段研究ばかりで鈍ってないか?」

「心配無用よ」
「私、フィールドワークも得意なんだから」

そういって、抱き合い、互いの背中を叩き健闘を祈った。

(水中でも、息ができる!)
「すごいね。ソラナ」

「当然よ。これが、アラメダリサーチの技術力よ」

(それ、すっごい突っ込みづらいふりだよね)
「で、ルールを教えてもらえる?」

「ふふん。イーサ、知らないのね。いいわ。教えてあげる」
「まず、このボールをプール内の中央に置くわ」
「選手は、一定の距離に身を置き、ブザーがなったらダッシュしてボールを取るの」
「ボールは、トランザクションを使って、体から離した状態で持って、移動するわ」 「このときに、ボールを手で持てるのは3回まで」
「3回以上持ったら、相手側のボールになるの」
「で、ここからが大切なんだけど。ボールにはトランザクションを作用させることが可能なのよ」

「トランザクションをかけれるの!?」

「ええ、そうよ」
「トランザクションを作用させることによって、ボールに変化を加え相手を出し抜くことも出来るの」
「これが、選手によって全然違くてね。試合のエンターテイメント性を増している側面があるわ」

「うんうん。なるほど」

そして、イーサは、ボールを見る。 
よく見るとそれは、材質は不明だが頑丈な素材で作られているように見えた。

「ボールも、技に耐えられるように工夫されているの」
「だから、手加減しなくても大丈夫よ」
「それと、直接攻撃は禁じられているけど、ボールを介してなら攻撃を成立させることは出来るわ」

「攻撃しても、いいの?」

「ええ、問題ないわ。むしろ、攻撃を躱したりガードすることで、ボールを奪う機会を得ることができるわ」 
「見た目を派手にする競技考案者の工夫ね」

「へーーー」

「後、細かいことはこちらに記載してあるわ」 
「読み込んどいてね」

イーサなら、3分あれば出来ますわよね?と付け足し、ルールブックを手渡すソラナ

「ふむふむ、なるほど、わかったわ」

そう言って、パラパラと読み終えるとソラナにルールブックを返した。

「ほんとう?」 
「ずいぶん早かったようだけど、読めたのかしら?」

「要は、直接殴るのは禁止、ボール越しならオッケーってことよね!」

「あなたのその脳筋体質、ときどき羨ましくなるわ」

「まぁ、やっているうちにわかるようになるから!今は、基本だけ押さえたわ」
「ところで、Junoさんやオズモさんは、ルール知っているの?」

「それなら、問題ないわ」
「Junoさんに確認したところ、彼女は、経験者みたいだったから」 

「流石、コスモスの英雄ね。期待しちゃうわ」

そして、イーサは、ソラナと共に試合会場のセンターラインに向かった。そこには、既にJunoとオズモが到着していた。

中央にボールが置かれ、Junoとイーサが一定の距離をとる。

Junoとイーサがオフェンスで、ソラナとオズモがディフェンスだ。
ディフェンスは、トランザクションを駆使して、オフェンスをサポートする。
オフェンスはフィジカルとトランザクションを駆使して、相手側のゴールにボールをたたき込む。
本来は、もっと大人数で行うスポーツなのだが今回は、少人数での対戦用にカスタマイズしてある。
いわゆる、バスケットボールでいうワンオーワンの様なものだった。

選手の声やブザー音は、プールに張り巡らせたコントラクトで拾えるようになっていた。

《ソラナ陣営》 
オフェンス:イーサ 
ディフェンス・アシスト:ソラナ

《オズモ陣営》 
オフェンス:Juno 
ディフェンス・アシスト:オズモ

「Junoさん、競い合いましょう!」  

「ああ!いいとも」

互いに握手を交わし、検討を誓う。

「お姉さま、約束の件、しっかり聞いてもらいますわよ」

「ソラナちゃん、すっかり勝つつもりでいるのね。可愛いわ」

ブザーが鳴る。
イーサとJunoがボールに向かって泳ぐ。
まるでイルカの様に周囲の水の流れを味方につけて、流れる様に進むイーサ。

ボールまで、あと少しと距離を詰めた。

(いける)

取れる確信があった。
しかし、シャチを思わせる鋭利な体捌きで突進してきたJunoにキャプチャーしたボールを取られてしまった。

(なんて鋭さ!)

その勢いを殺さずにソラナ陣営のゴールへと突進する。
しかし、それを許すイーサではない。
すぐさま引き返し、Junoの前方に回り込む。

(なるほど、素早いな)

(ゴールまで一気に行かせてはくれないか)

Junoがそう考えた刹那、イーサの拳がJunoのキャプチャーしたボールを捉える。
ボールに充分な運動エネルギーを拳を通し伝え、回転が加わったボールがキャプチャーから外れJunoの目前へと迫る。

(なんだ、と!)

至近距離から迫るボールをJunoはその動体視力を持って躱す。
躱したボールを回収する為にJunoは高速で旋回し、ボールへと向かおうとするが。

(旋回している!ブーメランの様に戻し、私を倒すつもりか)

Junoが躱したボールは、再度、Junoへと向かって回転を強め向かって来た。
それも彼女が振り向いたタイミングで目前に迫る勢いで。

(ならば、迎撃するだけだ)

Junoは、上半身のバネを使いストレートを繰り出す。

Junoの攻撃は、ボールの中心を捉え遥か彼方へと吹き飛ばす。 

(思ったよりいい一撃が入ってしまった)

弾き飛ばされたボールを追うJunoとイーサだが、ボールは水流を巧みにコントロールし自らのもとに引き寄せたオズモに回収された。

「ナイスだ!オズモ」
 
Junoが叫ぶ
綺麗にスフィア上のシールドで捉えられたボール
それを狙いイーサが距離を詰める。
Junoは、イーサの前に回り込み進路を妨害する。
タックルになるかならないかのギリギリの攻防
攻撃はしてはいけないが、体が触れてはいけないルールはないのだ。
 
(くっ、なかなか進ませてくれないわね)
(さすが、Junoさん)
(ならば)

そう考え、イーサがトランザクションを放とうとしたところをボールが高速で横切っていく。

余りの速さに反応すら出来ず、棒立ちするイーサ
ボールは、更に加速すると、ソラナ陣営のゴールへと突き刺さった。
その瞬間すら意識することが出来ない程のスピードだった。 

「ちょっと!お姉さま。何をされたのですか!」

「そんなこと教えるわけないじゃない。ソラナちゃーん」

朗らかに笑いソラナの非難をかわすオズモ

「これは、どういうことなのでしょうか?ポルカドット解説員?」

「乗り気だねー、アス太くん」 

「そうそう、それだよそれ。そのフリ。大切だな。こーいうときの為に、俺たちがいるわけよ」

「観客のみなさんも、何しているのかわからないと楽しくないからな」

会場を見渡すようにジェスチャーしながら、ポルカドットは話しはじめた。

「で、どういうことなんです?ポルカドット解説員」

「ふふん。教えてやるよ」
「まずな、オズモ選手はだ。トランザクションを使ったんだわ」
「で、ボールを加速させてそのままシュート!ってな。かんたんだろ?」
「ぜんっぜんわからないですよそれ。クソ解説ですね。ポル兄ぃパイセン」

「あおっているのか?アス太」

「ええ、ポル兄ぃパイセンが解説の仕事をきっちりしないから、僕と会場の皆さんは激おこです」
「僕は、彼らの分まで代弁しました」
「それに、そんないい加減な姿、アバランチさんが見たら呆れてしまいますね」

「アバランチさんは、かんけーねーだろ!」「ったく、言うんじゃないぞ」

「しっかり、解説して頂ければ」

「わかったわかった」
「細かく説明すりゃ―、あれはな、レールガンだ」

「レールガン?」

「そうだレールガン」

「そんなものどこにもないですけど?」

「目に見えるものだけ見ようとするんじゃねえ」

「スピリチュアルですか?」
 
「ちげーよ」

「ったく、おい。オズモ選手の周りを観測装置で測定してみろ」

「?」
何を言っているいるのかわからないが、こういうときのポルカドットのいう事は大抵、本質に迫っている。
だから、疑問には思ったものの観測をしてみるアス太
僅かな素粒子の乱れから、いくつもの次元構造が浮かび上がってきた。

「ちょっと、これ!なんですか。この空間の歪みは」

「それだよそれ」

「しかも、ただのレールガンじゃない」
「亜空間から、現実世界に干渉できる特別仕様の逸品」
「それをトランザクション一つで仕上げたのさ」
「正確には試合開始前からずっと練り上げたものを展開しただけなんだが」

「いや、それでも十分すぎるほど凄いじゃないですか!」
「なんですか!そんな戦略級の兵器を導入しているとか」
「正気ですか!?」

「正気だよ。あれがオズモ選手」
「勝つためには全力を尽くす」

「いや、全力とかそういう問題じゃないでしょ?」

「まぁ、天才科学者なんだ。そのくらいの奇行は想定無いだろ?」

「何、自分慣れてます!みたいな感じで納得しちゃっているんですか」

「俺だって、納得できないところはあるが、ツッコんだら負けだと思っている」
「でだ。これこそがオズモ選手の特徴なわけさ」

「何がなんですか」

「どんなに難しいトランザクションでも、高速で実現させる演算能力だ」
「フィジカルで、他の三人にどうしても劣る分、彼女が持っている技。それがこういう事なのさ」
「っと、この分析結果をそれぞれの選手に転送してだな」

「何故、転送するんですか?」

「あぁ、必殺の一撃で試合がワンサイドゲームで終わったらつまんねぇだろ?」
「だったら、一度さらした手の内は丁寧に説明して使えなくしてやった方が、盛り上がるってもんだ」

「いじわるの極みですね」

「いじわるじゃねぇよ!」
「そうした方が、盛り上がるだろ」
「だいたい、解説されて対応されるなら、それはそこまでだったってことだ」
 
「これ、対策できるものなんですか?」

「さぁ?」
「ただ、出来なければ負けるだけだな」

「無責任な」

「解説だからな」
「どちらかに肩入れする義理はねぇ」

「うん?何か情報が頭に流れてって」
「これは、そういうことだったのですね」「お姉さま、やりますわね!」

「あーあ、ばれちゃったみたいね」

「でも、ばれたからって対策できるものじゃないでしょ?」

「ガンガン、これで攻めていくわよ」

そういって、余裕の笑みを崩さないオズモ

「いえ、二度と使わせないわ」

センターラインでのボール奪取を終え、ボールをキャプチャーしたイーサが言う。
奪取したボールを即座にソラナに渡す。
パスをカットするべく、ボールの軌道上に体を滑り込ませようとして、Junoが弾かれる。

「何をした!」

「ちょっとトンネルをつくらせてもらったわ」

ボールは、ソラナへと渡ると太陽の様に輝き始める。
青白い炎がソラナから発せられると、そのすべてがボールへと集約させられていく。
集約したエネルギーが臨界点を超えたのか、ボールは黒く硬質なものへと変質した。

「いきますわよ!これで、吹き飛びなさいな!」

そういって、ソラナのキックをスターターとしてスピードを得たボールは、オズモ陣営のゴールめがけて飛んでいく。

余りの力場にイーサもJunoも近づけないでいた。

「ソラナちゃん、本気出しすぎ!」

「勝負ですからね。お姉さま」

「それに、最初に本気を出されたのはお姉さまの方じゃなくて?」

「だったら、それに応えるというのが良い妹だと思いますわ」

(妹って、そんな物騒な概念だったのか?)

Junoの頭をまっとうな意見がよぎる。
そうしている間にもボールは、ゴールへと進み、オズモが亜空間に設置したレールガンを破壊しつくした。
いたる所で、水の流れが急激に変わり、同時に光が生じる。
それは、まるで星々が水面に映ったときに放つ光の様に幻想的なものだった。

「私のレールガン!」
「ソラナちゃん、よくも破壊してくれたわね!」

「えぇ、やらせて頂きました」

水の流れを味方につけて加速したボールは、ゴールへと吸い込まれていった。

「これは、どういうことなんですかね。ポル兄ぃパイセン?」

「おめー、その呼び方改めないのな」

「ええ、Junoさんのお尻ばかり別カメで撮影するパイセンには、これで十分かと」   

「なおしてもいいですよ?でも、Junoさんとアバランチさんにいいますけど」

「わーったよ。パイセンでええわ」 

「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて。ポル兄ぃパイセン、これはどういうことですか?」
 
「それはだ。重力球だ」
「ソラナちゃんが持つ莫大なエネルギーを一気にボールに吸収させて一点に集約」
「それ自体が破壊を引き起こす質量兵器にしちまったんだわ」

「でも、その割には、他の選手が無事だったような」
「それにソラナちゃんって、あんた、ロリコンだったんですか?」
 
「14才は、ロリコンじゃないからね。アス太くん!」

「他の選手が無事だったのは、彼女の兵器が亜空間にトランザクションで建造したレールガンのみを破壊するよう攻撃の方向性を持たせたものだったからな」
「簡単にいうなら、レールガンがある亜空間にブラックホールを送り込んだみたいなもんさ」
「で、その余波が水面の光や水の流れの変化として観測されたわけ」

「すっすごい!」
「だな。力技もあそこまで行けば立派な技だわな」
 
「でも、なんで、ポル兄ぃパイセンはわかるのですか?」

「ポルカドットスキャンがあるから、わかるに決まっているだろ?」
「って、なんでそんなことも忘れているの?アス太くん」

「急にまじめになった!」

「俺はいつでもまじめだぞ」

「そういいながら、ソラナちゃんの胸を拡大して撮影するのやめてもらえますか?」

「ばれたか」

「ポルカドット!何をわたくしの胸をジロジロ見ているのですか!」
「見たいのならば、堂々と言ったらどうなんですの?」

「ちょっとちょっと、アス太くん!なんでばれているのよ?」
 
「そりゃー、情報渡すときに僕が今のやり取りを付与したので」 

「なんてことしちゃっているのかな!アス太くん!」

「いやーさすがに、ソラナちゃんは保護対象枠なので無断撮影NGかなーっておもって」

「おもって?」

「通報しました」

「誰に?」

「Junoさんに」

「おいーーー!」

「ポルカドット、貴様、後で話がある 」

「Junoさん、キレてますね」

「ますね!じゃねーよ。お前がキレさせたんだろ」
 
「さて、ポルカドットには後で制裁を加えるとして」

「今は、試合だ」

ソラナペアも、オズモペアも一点ずつとり、その後も激しい攻防が繰り広げられた。

しかし、どちらも高火力アタッカー、互いに優れたディフェンダーもいるペアの為、決めようとすると防がれる。
その繰り返しだった。

(残り時間も僅か。でも、決めてに欠ける。使った技は悉く暴かれ、使えなくなってしまった。なら、最後は一番信頼できるものに戻るまで)

センターラインのボールを奪いに行く合図のブザーが鳴る。
Junoは、高速でボールを奪いに泳ぐがイーサはそのまま動かない。
その腕には、いくつもの光の文字が浮かび上がっていた。
Junoは、イーサを警戒し遠巻きにゴールを目指したが、水の流れにあおられ、軌道が強制的に変更される。
まるで吸い寄せられるようにイーサの方へと向かっていく。

(まずい)

だが、オズモにパスを出し、イーサにパスカットをされるわけにもいかない。
アイコンタクトで、イーサのトランザクションを妨害するようにオズモに指示を促す。
オズモからは、もうやっているとの返答が返ってきた。

(だったら、このちからはなんだというのだ)

吸い寄せられたJunoがイーサの前へと押し出される。
しかし、イーサはJunoのボールを奪おうと攻撃しようともしない。
ただ、構えをとっているだけだった。
左手を天高く掲げ、右手を下に構え、重心を体の中心に置いた構えだった。

(何をするつもりだ?)

暫く、様子を見るも動きが無いどちらかが仕掛けなければ、はじまらない。
そんな沈黙を破る為、オズモはトランザクションを発動させる。
Junoの身体能力が強化される。
スピードやパワーといった身体能力が飛躍的に引き延ばされる。

(イーサ、何を考えているかわからないが。抜かせてもらうぞ!)

Junoは、イーサの横を大きく抜けようとして彼女が降り下ろした手により引き起こされた衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
瞬間、ボールに全力を乗せたストレートを当て、イーサを狙い撃ち攻勢に出る。
イーサに一度ぶつけ、跳ね返ったボールを回収しようと放ったそれは、イーサの右手が横に薙ぎ払われることで宙へと投げ出された。 

直進するエネルギーを全て失い真上に向かうボールは、丁度、イーサが次の動作へと移った右手と重なる。
イーサは、腕に纏ったトランザクションを全開放し、右手でスパイクを放った。
それは、ボールへとあたり、全ての運動エネルギーを注ぎ込んだ。
得たエネルギーにより、ボールは細く引き伸ばされたいびつな形になり加速を得る。
異常な加速を得たボールは、水流を変化させる。
それらは、まるで渦潮の様にあたりの水を巻き込んでいった。
巻き込まれた水は、ボールに更なる加速を与える。
Junoがボールへと迫るも、水流により弾かれる。
まるで、巨大な怪獣に尾びれであしらわれるかのように。
水流は、ところどころボールから発せられる光を乱反射し光り輝く。
その様子はまるで。

(リヴァイアサンじゅあないか!)

彼女の一撃は、リヴァイアサンを生み出したのだ。
その顎がゴールをかみ砕き、向こう側の壁を破り、球状のプールを突破した。
大きな風が会場を揺らし、ボールは天へと昇って行った。

「ちょっと、あんな隠し玉あるなんてきいてないわ! 」

「いや、隠し玉でもなんでもないわ。あれは、私の技よ」

「そういう問題ではな!」

「はーい。二人ともそこまで」

イーサとソラナの間に入って仲裁するオズモ

「お姉さま!でも、イーサが」

「いい、あなたは勝ったのよ。まず、そのことを喜ばないなんて、私達に失礼じゃないかしら?」

「私達の負けが意味の無いものになってしまうわ」

たしなめる様に、オズモが言う。

「はい、お姉さま」

しゅんと、さっきまでの勢いはどこえやら。反省の色を強くしたソラナ

「それと、試合を終えたらやることがあるんじゃないかしら」

「やること?」

「そう。試合は、ひとりじゃできないわ」「だから、終えたら挨拶でしょ?」

「!」

「イーサ、Junoさん、お姉さま」

「良い試合を有難うございました!」

「こちらこそ。楽しい戦いだったわ」
「Junoも満足でしょ?」

「ああ、戦闘以外でここまで体を動かしたのは久しぶりだ」
「イーサとの攻防、とてもよかった」
「イーサ、今度、私の訓練に付き合ってくれないか?」

「もちろん!いいですよ!」

練習の申し入れをするJunoに快諾するイーサ

「それと、ソラナ」

「はい!」

「よく戦った。オズモのレールガンを壊したのはなかなか豪快だったぞ」

笑いながら、ソラナの頭を撫でるJuno

「あ、ありがとうございます」

頬を赤らめ、目を伏せ照れるソラナ

「さーてさてさて。勝敗はついたか」
「ならば、賞品の受け渡しタイムといきますか」

「ポルカドット!」

「おいおい、まだ呼び捨てなのかよ」
「まぁ、いいけどさぁ」

「ソラナちゃんとイーサさんには、こちらをプレゼントだ」

「アス太、よろしく!」

「はいはーい!」

アス太は、ソラナとイーサにNFTチケットを渡す。
そこには、ペアと書かれた海洋温泉のチケットがあった。

「これって!」

「副賞だよ」

「メインは、ほら、ソラナちゃんとオズモさんで交わした約束があるじゃないか」
「使っちゃいなよ」

「ポルカドット」
「ん?あぁ、いいってことよ」
「どうせ必要になるもんだろ。だったら、あらかじめ用意しておく。その方が盛り上がるからな」
「それに、俺もすごく楽しませてもらった」

「ありがとう!」

そういって、ソラナはポルカドットに抱き着いた。

「!!!!」

「えっ!?すごく嬉しいときはこうやって全身で感情を表現するのがコスモスの習慣とお聞きしたのですが、何を驚いているのですか?」

不思議そうに首をかしげるソラナ

「それ、誰に聞いたの?」

「エブモスだけど。オズモお姉さま」

「あーーー」
「それは、そうね。あの子ならそういうわね」
「とりあえず、そのフリーズしているポルカくんから離れてあげたら?」
「表情がすごいことになっているわよ」

「で、でかいメロンが2つ。弾力がすごい」「いい香り」
「太陽の香り」

「ポル兄ぃパイセン、いつまでトンでいるんですか」
「まったく」

そういうと、アス太は、謎の袋をだらしない表情をしたポルカドットの顔の前まで持っていき開封する。

「ぐぁーーーーーー!くっさ!!!!」

イーサが作成しているリソース袋だった。
相変わらず臭いがきついらしく、主原料の一部にブロックタイムの粉末を加える様になってから更に臭くなったらしい。
もっとも、リソース回復の即効性や効能は飛躍的に向上したらしいが、弊害が大きかったようだ。
嗅がなければ、無い弊害だが。
その臭気を活かし、こうやって気付け薬として使われることもあったりする。

「ちょっと!待ちたまえ、アス太くん。俺が感じた太陽の様な香りのメロンを返したまえ」

「そんなものは幻想ですよ。パイセン」

「ならば、ソラナちゃん。カムバーック」

「ほう、まだまだ元気なようだなポルカドット」
「なら、貴様には、特訓に付き合ってもらおうか」
「先ほどのイーサの技を見て閃いたんだ。お前には相手をしてもらおうか」

「Junoさん、それは勘弁してもらえますかね」

「お前に拒否権があるとでも?」
「それに、私の尻を撮影した撮影料を払ってもらうとしようか」
「その体で!」

そういって、ポルカドットは、Junoに引きずられて、プールへと連行されていった。

「いってらっしゃい。二人とも」

にこやかに笑って送り出すオズモ

「Junoさんと二人きりは嬉しいけど、痛いのは、いやだー!」

「ふっ、恥ずかしがらずともいい。存分に技を叩き込んでくれる」

そういって、二人はゲートへと消えていった。

「さーて、終わったわね」

「まだですわ!お姉さま」

「ん?ソラナちゃん」

オズモにチケットを差し出すソラナ

「わたくしと、行って頂けませんか?」

「ええ、いいわよ」

「私からも、要求させてもらうわ。オズモさん」

「イーサさん?」

「ソラナ、いいでしょ?」

「もちろんよ」

「Junoさんと私、オズモさんとソラナでいきましょう」

そういって、イーサはチケットを渡した。

「また、Junoさんと試合がしたいわ」
「もっと、知りたいな」

「ふふふ、みんないい子ね」

そういって、二人を抱き寄せるオズモ

「うーん、両手に華ね」
「とても、いいわ」

試合は、大盛況のうちに終わった。
いつの間にか、プール周りには観客たちが沢山いて、彼女達の活躍を見守っていたのだった。

「さぁさぁ!限定品だからね。さっきの試合のNFT、今買わなきゃもうないんだからね」

ペンギンの様なパーカーを着たアス太が観客たちに商品を売りさばいていた。

「アス太くん、あなた」

「あぁ!いいところに、イーサさん。こっちこっち」

「えっ、ちょっとまって!」

「はい!皆さん注目!今回の大金星、イーサさんだよ!」

「商品を購入してくれた人には、今なら、握手とサインつけちゃう!」

なに!それは本当か!?
ぜひ!そうじゃなくても、このソラナちゃんがドアップで映ったもの、拙者、欲しいでござる!
観客たちは思い思いのことを言って、アス太から商品を購入している。
イーサも巻き込まれる形で対応する羽目になった。

「ふぅ!さばききった」

「イーサさん、ありがとう!おかげでお客様は大満足だよ!」

「これで第二弾もいけそうだよ」

「アス太くん、お金に困っているの?」

「えっ、違うよ。これは僕の趣味兼、実益かな」

「みんなが喜んでくれるものを提供するって楽しいじゃないか」
「それに儲けたお金で楽しいことをしたらもっと楽しいんだ」
「だから、やっているんだよ」

「そうか」

「じゃあ、私も、アス太くんの楽しみに協力出来た感じなのかな」

「あぁ、もちろん!イーサさんがいたおかげで盛り上がったよ」

ばっちり!と合図して、お礼をいうアス太

「っと、イーサさん、これ、忘れているよ」

そういって、イーサにお金を手渡した。

「でも、これ、アス太くんの収益じゃ」

「これは、イーサさんの分だよ。僕だけじゃこれだけの売上にならなかったしさ」
「だから、正当な分け前だよ」
「それで、みんなで楽しんだらいいさ」
「ほら、試合の後は、ゆっくりカフェかレストランにでもいってさ」

「うん。ありがとう!アス太くん」

「どういたしまして。こちらこそ、ありがとう」

「そうだ。これも記念に渡しておくね」

そういって、アス太は数枚の媒体を渡した。

「イーサさん達の活躍が入った映像。後でみんなで見て盛り上がってね」

そういって、アス太は、会場を後にしたのだった。
残されたイーサも、ソラナ達が待つ外へと向かった。

「イーサ、遅いですわ」

「ごめん。ソラナ」

「どうせ、アス太くんに捕まって手伝っていたのでしょう?」
「いいですわよ」

「わたくしは、わたくしで。お姉さまとゆっくり話す時間が持てたのですから」

「そういえば、オズモさんは?」

「お姉さまなら、一足先に帰りましたわ」

「なんでも、シークレットにエブモスとの初デートのお祝いの品を作りたいんですって」
「そういうところは、保護者気質といいますか」
「でも、流石、お姉さまですわ」
「わたくし達もそろそろ、帰りましょう」

「そうね」
「そうだ、これ、アス太くんからもらったんだ」
「せっかくだから、一緒に何か食べて帰りません?」

「いいわね。いきましょう」
「場所は、わたくしに任せてもらえないかしら、いい場所を知っていますの」

「じゃあ、そこにしよっ!」

「ソラナ、任せたわ」

「任されましたわ」
——-
——-
そこは、閑静な住宅地の中ポツンとある隠れ家的な場所だった。
夕闇が世界を覆い尽くすまでの時間、マジックアワーを堪能出来るテラス席があるお店

そこにイーサとソラナは座っていた。

「ソラナ、すごいね。ここ」

「ふふん。どう?敬ってもよくってよ」

「うん。敬いはしないけど、素直に素敵だわ」
「だって、これだけ見事な夕日を見るのは久しぶりだから」
そういって、イーサの目はどこか遠くを見つめた。

イーサリアムの大地で、ノノと過ごしたゼロとしての記憶。
農作業をして帰ったあの帰り道をふと思い出していた。

遠い日の大切な人との記憶

「イーサ」

「ん?どうしたの、ソラナ」

「今日は、ごめんなさい。わたくしの我儘に突き合わせてしまって」

「我儘って、どのこと?」
「最初にプールに行こうって言った事かしら?」
「それとも、収まりがつかなくなって、水中バレーでオズモさんと戦ったこと?」
いくつもあって、どの事を言っているのかしら?と答えるイーサ

「うーーー、それは、本当に悪かったですわ」

「ちょっとからかいすぎたかな。ごめん、ごめん」
「私も、楽しかったからいいのよ」
「Junoさんと手合わせも出来たし」
「スポーツで己の力量を測ることも出来たわ」
「それに、あなたとの連携、楽しかったし」「大収穫」
「だからね」

そういうと、一呼吸おいて、彼女はソラナに言葉を言わせないためか、その唇に人差し指を当てていうのだった。

「ごめんなさい。は、違うわね」
「こういうときは、ありがとう。でいいのよ」
そういって、ソラナの唇へと当てた人差し指を離し、ほほ笑むイーサ

「ひ、ひっ、ひっ」

「ふぅー?」

「違いますわ!腹式呼吸ではありませんわよ!」

「卑怯、ひきょうですわ!!」

ソラナの絶叫がテラスに響く幸い、他に客は居なかった為、それを聞いたのはイーサだけだった。

「そんな爽やかな表情で、言われましたら、わたくし、どうにかなってしまいそうですわ!」

自分がイーサを引っ張り回した自覚があるだけ、それがこう返されるなんて思わなかったソラナは、感情の行き場を無くしあたふたしていた。

「何をそんなにあたふたしているの?それに、頬が真っ赤」

「まっ、真っ赤なのは、夕陽が差しているからですわ!」

「夕陽、そうよね。すごく綺麗だものね。ソラナ、夕陽は好き?」

「何を唐突に、でも、わたくし、夕陽、好きですわ」
「わたくしの名前は、『木漏れ日』という意味がありますの。だから、夕陽も、わたくしの一部。だとしたら、好きにならないはずがありません」
「イーサは、その、夕陽好き?」

少しもじもじしながら、イーサへと尋ねるソラナ真っ直ぐに好意を向けてくれる相手に素直になるのが不器用なのだ。少し伏せ目がちで、尋ねる。

「私も、好きよ」
「でも、少し悲しくなるかな」

「それは」

『なぜ』という言葉を発する事が出来なかった。それは、イーサの顔が昔を懐かしむようなもので、その思い出が踏み込んではいけないものの様に感じれたから。

「ということなの」「だから、私の中には、ノノとゼロがいるの。彼女たちの思い出が私に夕焼けを懐かしいものと認識させているの」

「それ、話していいことだったの?」

「うん。ソラナが話してほしいって顔をしていたから話したのよ」
「それに誰にでも話す話しじゃないわ」

「なんで、わたくしに話してくれたの?」

「それは、ソラナが友達だからだよ」

「友達?わたくしを友達と認めてくれるの?」

「認めるも何も」
「ソラナとは、今日一日思いっきり遊んだでしょ」
「それに、いつも、私の鍛錬に付き合ってくれる」
「ちょっと変わっているけれど、あなたと過ごす時間は退屈しないわ」
「そういう関係って、友達っていうんじゃないかしら?」

「あなたに変わっているなんて、言われたくないわね」
「でも、特別感があって、いいわね」

ふん、と胸を張って強がるソラナそれをほほ笑んで見守るイーサ

「あのー、お客様、料理を出してもよろしいですか?」

「「あっ!」」「料理、食べてなかったわ」

「道理で、お腹が空いているはずね」

二人の雰囲気に圧倒されて、席に料理を運ぶのを躊躇っていたウェイトレスに代わりマスターが声をかけたのだった。

運ばれてきた料理を食べ終えた後、最後にアップパイが出された」しかし、よく見ると形は、りんごのそれではなかった。そして、香りもベリーの様な香りが混じる不思議なものだった。

「これは?わたくし、頼んでませんわよ」

「これは、私が頼んだの」
「ほら、お店の入り口に持ち込み素材の特別オーダー承りますって書いてあったじゃない」

「そういえば、そんな言葉が書いてありましたわね」

「そう、それでね。私の故郷、イーサリアム名産のフルーツを使って、デザートを作ってもらったのよ」
「食べてみてくれるかな」

「イーサの故郷の味でしょ?興味ありますわ。ぜひ、一緒に食べましょう」

「ええ」

切り分けたパイを口に運ぶ甘酸っぱさと、濃厚なはちみつの様な甘さが口の中に一瞬で広がっていく。

「んん!」
「美味しーい!」

「でしょ?」

「それに何か疲れが吹き飛ぶ様な、そんな感覚がありましたわ」

「うん。そうなの。これは、リソースも補給出来ちゃう優れもののフルーツなの」
「ブロックタイムっていうのよ」

「ブロックタイム?」

「ねぇ、その話もしてくださらない?」

「いいわよ」

そうして、イーサは、ブロックタイムと自身の歩んできた道を話した。
ソラナは、それを真剣に時に涙しながら聞いていた。
一見、まったく異なる二人。
でも、その芯にある意志の強さは似ているのかもしれなかった。
互いに語り合い、帰宅したときには、0時を回っていた。

それぞれの部屋に分かれて、眠りにつこうとしたとき

「ソラナ」

「何?イーサ」

「これからも、よろしくね」

「もちろん」そして、二人はそれぞれの部屋へと入り眠りに着いたのだった。


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