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絶代双驕が良かったのでワーってするやつ

「最愛看男人相愛相殺(仲良しの男たちが殺しあうのを見るのが大好き)」がTwitterで9,000人近くの人間のRTされていたのを見て、今の需要はここか、ということでドラマ「絶代双驕」が面白かった勢いを殺さずドライブ感を重点して書いています。

絶代双驕isなに

▲これは予告編です。

絶代双驕は54年前に古龍っていう作家が書いた小説が原作。これが人気作らしく、何度も映像化されています。もともと古龍先生が武侠小説(中国の娯楽時代劇小説)の大御所って位置づけの故人なので、代表作は基本的に何度もコスられるんですよね。池波正太郎の小説みたいな感じ。わたしも古龍先生の小説好きです。

あらすじの美味しいところだけ説明すると、生まれた時に生き別れた双子の兄弟が主人公で、互いを仇と教え込まれ……しかしティーンになってからそうと知らずに出会い……友情を育み……最終的に相愛相殺なんですわ……悪知恵の回る明るく飄々とした美少年と、純粋培養された王子様系美少年の……好きな人にはとても深々と刺さる。刺さった。

で、その「絶代双驕」最新作が、今NETFLIXで配信されている。毎週8話更新。お前はビートルズの曲か。

ちなみにわたしは、原作小説は翻訳版の1巻を読んでいる程度、ドラマは3話まで見たところでこの記事を書いています。ちなみに翻訳版は完結していません(打ち切り)。

古龍先生、キャラクター小説がとても上手な人なんですけど、絶代双驕のドラマ3話まで見た感じだとそのキャラクターの出し方がとても好みだったので……主人公とその周辺について紹介させてほしい。

とびだせ悪人の谷

第2話で生き別れた双子(生き別れる事情は1話でやるんで見てもらうとして)、片方は双子の親と義兄弟だった燕南天という大剣客に背負われ、ワケあって悪人谷へ。

この悪人谷、世の中から後ろ指さされるタイプの人間が集まってできたヴィランだらけの集落。十大悪人と呼ばれる個性の強い悪者たちをはじめ、大小さまざまな悪人や、倫理感はあるけど医薬品の開発になると目の色が変わる医者などが仲良く暮らしている。

ここに踏み込んだ燕南天、赤ちゃんを人質に取られて薬草風呂ENDになってしまうんだけど、悪人谷の大悪党たちは、残された赤ん坊を前に考える。

「俺たちはそれぞれの分野(殺人、詐術、食人など)でひとかどの悪い奴だけど、そんな俺たちが英才教育を施したら、とんでもない悪人が世に生まれ出でるのでは……?」

「俺たちの網から逃げ出すような小さな魚」という意味の、小魚児(しょうぎょじ)と名付けられた赤ん坊は悪人たちの英才教育を受けてスクスクと育ち、自分らが教えた技で復讐するほど悪知恵が回る少年になりました。比較的倫理観のある医者が情操教育を行ってくれたので「悪い奴にはより悪く」というタイプの悪ガキ。この属性は希少部位です。おいしく食べましょう。

小魚児、ついに育ての悪党たちが「もう我慢できねえ。追い出そう」という結論に達して追い出されるんだけど、餞別貰うシーンで「跳べよ。まだ出るだろ」みたいな顔するのほんと……好き……送り出す側も側で食人趣味のオッサンが「俺、あいつのこと食うのめちゃくちゃ我慢したんだよ……」とか言ってる。小魚児の育ての親たち、全員クセが強いので悪党なんだけど好き。

強火のオタクに囲まれた純粋培養美少年

で、もう1人。こっちは双子の母と関わりのある移花宮(いかきゅう)っていう男子禁制流派の人から拾われて、花無缺(かむけつ)の名前を貰った美少年。こっちは礼儀作法一通り叩き込まれた王子様然とした美少年になっている。彼は3話から登場します。

古龍、美青年に白い服を着せて拗れさせるの大好きなので、その枠です。ただ、3話時点では純粋培養されたせいか「世の中は正しく美しいもの……」みたいな感じでおり、盗賊相手にド正論の説教をしたり、侍女の制止を振り切って人助けしたり、徳を積んでいる。小魚児とは大違いだ……

花無缺については、彼自身よりも彼の生育環境の方がエグい。

移花宮、実は花無缺の父親に惚れていた姉妹がいて、どっちも死んだ男の面影を花無缺に見出すもんだから、妹は花無缺に「私を抱擁しろ」とか言い出す。のに、花無缺が事情を知りたいっていうと「お前には関係ない」ってバッサリする。特に強火の姉の方に至っては、情緒が沸点か凝固点の両極しかない。惚れた男を見る顔で花無缺を見るけど、花無缺は当然惚れた男ではないので子弟としての節度を守っている。それがカンに触って態度が凝固点になる。執着が強くてこわい。

侍女たちも強火の花無缺オタクなので、花無缺様と旅に出るにあたって居心地の良い住空間を提供するため、素泊まりの宿屋に豪華な布とか持ち込んで花無缺様ごのみのルームメイクをしたり、花無缺様以外へのあたりがキツすぎるところがある。

花無缺は早いところ移花宮から自由になってほしいけど、自由になったらなったで世の中美しいばかりではないことを思い知って内心のバランスを崩すので……できるだけ幸せになってほしい……

NETFLIXで見られるよ。字幕も芝居も現代っぽくてやさしいよ

見られるんですよ。1週間に8話更新。自分のペースで美味しく食べられるごはんです。エンタメはごはん。

真面目な話、武侠小説ってジャンルものならではのお約束があって、点穴とか、内功とか、武林とか、江湖とか……IEで変換しにくい専門用語も多い。そこのとっつきにくさを翻訳が丁寧に潰しているので、用語がわからないと困る、ということが少ない。

最低限、武林は武術界隈、江湖は日本でいう渡世とか侠客社会みたいなもん、っていうのを押さえればあとはキャラクターのパワーと原作の強みであるテンポよいストーリー運び、セリフ回しを楽しむだけで乗っかっていけるので、武侠ドラマis何……? っていう人にも安心して召し上がっていただけます。

NETFLIXに入っていればタダなので、お時間あるときに見てもらえたら嬉しいです。

おまけ

ここから先は多少武侠小説を知っている人向けになるんだけど、古龍先生、この作品でだいぶ金庸先生を意識しているな……とドラマを見て改めて感じた次第です。

ダブル主人公、境遇の違う生活で各々の武功を身に着け、片方は個性的な師匠たち全員からそれぞれの技を託される。このフォーマットが、金庸先生の代表作「射雕英雄伝」とだいぶ近い。歴史の本流に色を添える英雄を描く金庸先生のスタイルとは真逆の、小悪党や落ちぶれた男、泥棒なんかのアウトローやらせたらもう本当にサイコーの古龍先生が、このフォーマットをどうやって見せるのか気になるんで、個人的には楽しみしかないです。


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