令和元年度 予備試験論文 民事訴訟法の答案(解説用)

令和元年度 予備試験 民事訴訟法の答案(解説用)

解説用の答案のため、説明的になっています。

内容は適宜アップグレードします。

設問1については複数の構成が考えられます。どの構成じゃないと合格しないとか、そういったものではありません。本答案以外の構成もあり得ますし、今後別の構成の答案もアップします。

また、短いバージョンの答案もアップする予定です。

「ELB」のnoteでは1つの問題について、複数のタイプの答案をアップします。

  8月前半に本問の解説用動画をnecfruで有料配信する予定です。

設問1


第1 当事者がAであったとする対応(表示の訂正)
1 まず、X2側としては当事者はX1ではなく、その相続人であるAであったとして、表示の訂正で対応すべきである。その理由は以下のとおりである。
2 固有必要的共同訴訟であること
 本件訴えが却下されるべきであるとするYの主張は、本件訴えが固有必要的共同訴訟であることを根拠とするものである。
固有必要的共同訴訟は、一定の利害関係人全員が当事者とならなければ当事者適格を欠き、訴えが不適法として却下されるものである。固有必要的共同訴訟にあたるか否かは、実体法上の管理処分権が誰に帰属するかという観点に加え、統一的抜本的解決を図るという訴訟政策的観点も考慮すべきである。
本件訴えの訴訟物は、売買契約に基づく所有権移転登記手続請求権であるところ、債権的な請求である点を重視すれば不可分債権(428条)として各債権者に管理処分権が帰属するともいえるが、あくまでも共有登記なのですべての共有者を訴訟の当事者としなければ抜本的統一的解決は図れないため、共同で買い受けた者を原告とする固有必要的共同訴訟と解する。
 よって、すべての共有者が訴訟の当事者となっていなければYが主張するように訴えは却下される。
3 訴訟継続
 そして、訴訟は原告と被告が対立的に関与できる時点から係属すると考えるべきなので、被告に訴状が送達された時点(138条1項)で係属すると考える。
 本件では、本件訴状がYに送達される前に、訴状に当事者として記載されていたX1が亡くなっているので、X1については本件訴訟は係属していない。
 そのため、固有必要的共同訴訟の当事者となるべき者が当事者になっていないとして、本件訴えは却下されるといのがYの主張の法律構成である。
4 当事者の確定
 しかし、X2側としては、本件訴状には原告としてX1が表示されているものの、訴状の請求の原因などもあわせて解釈すると当事者はAであったと解釈でき、すべての共同買受人が訴訟の原告当事者になって訴訟が係属しているので、本件訴えは却下されないと主張する。
 訴訟の当事者は訴えの当初から明確である必要があるので訴状に当事者として表示された者が当事者であると解すべきであるが、単純に表示を誤った場合にまで訴訟係属しないと考えるのは訴訟の一回的紛争解決機能を弱めてしまう。そこで、訴状の当事者欄の表示だけでなく、請求の趣旨や原因の記載も含めて実質的に当事者を解釈すべきである。
 本件訴えの訴状には、原告としてX1が表示されているが、請求の趣旨や原因を併せて考えると、訴訟物である売買契約に基づく所有権移転登記手続請求権が帰属する主体が原告になっていると解釈できる。そして、X1が死亡したことによって、この訴訟物である権利は唯一の相続人であるAに包括承継されて(896条)、Aに帰属しているので、本件訴えの当事者はAであると解釈できる。
5 とるべき対応
 このように考えた場合、訴状の当事者欄の表示を訂正しなければ、当事者ではない者を名宛人とする判決がなされてしまって判決の効力に争いが生じる可能性がある。また、X2側が行う判決による登記も亡くなったX1名義のものとなってしまい実体に合わないため、X2側は訴状の原告当事者の表示をAに訂正すべきである。
 また、訴状の請求の原因に相続の事実が記載されていないため、訴状の記載事項である請求原因事実(133条、規則53条1項)についても補正する必要がある。具体的には、X1が死亡した事実とAがX1の唯一の子である事実を記載した書面を、Yに送達する副本も含めて裁判所に提出する必要がある。
 それだけでなく、訴え提起から争点整理手続終了近くまでに訴訟代理人弁護士Lの行った訴訟行為について、Aからの訴訟代理権(55条)の授与がなかったことになるので、このままでは無権代理行為として本人Aに訴訟行為の効果が帰属しないことになる。そのためX2側は、Lが行ったこれまでの訴訟代理人としての訴訟行為について、Aから追認を受ける必要がある(34条2項、59条)。具体的には、X2側はAがLに訴訟代理権を授与したことを証明する訴訟委任状(規則23条1項)とともに、AがこれまでのLの訴訟代理人としての訴訟行為を追認する旨を記載した書面を裁判所に提出する必要がある。

第2 選定当事者
1 仮に訴状からAが実質的に当事者であると解釈できないとしても、X1はX2を本件訴えの選定当事者(30条1項)として選定していたため、X1について訴訟が係属していなかったとしても訴えは却下されないとX2側は主張するべきである。
 本件の訴訟物は売買契約に基づく所有権移転登記手続請求権であり、共有不動産についての登記なのでX1とX2は「共同の利益」を有していた。そして、X1は体調が優れなかったためX2に訴訟への対応を任せる意思を表示しており、かかる共同の利益を有する「全員のために原告」「となるべき一人」としてX2を選定したと言える。
 よってX2は選定当事者にあたり、X1が当事者になっていなくても訴えは却下されない。
2 この場合も訴状には、当事者原告ではないX1が訴訟の当事者として記載されているので、この表示を訂正して当事者X1の記載を抹消する必要がある。
 また、選定行為は書面によって証明しなければならないと規定されているが(規則15条)、これは規則の規定であって書面がなければ選定行為としての法的効力が否定されるというものではない。しかし、選定の事実を証明しなければ選定行為は認められないので、X2側はX1の選定行為を証明できるX2やAの陳述書を作成し、これを裁判所に提出する必要がある。

設問2
1 X1らとしては、Zが115条1項4号の(当事者のために)「目的物を所持する者」に該当するとして、前訴判決の既判力が及び、訴訟物についての判断と矛盾する主張ができないと主張する。この主張の理論構成をこれから説明する。
2 115条1項4号が、当事者等のために目的物を所持する者に既判力が及ぶと規定した趣旨は、このような者には訴訟を争う固有の利益がないため手続保障を与える必要がないことにある。このような趣旨からすると、4号にいう「所持」とは必ずしも現実の所持に限られず、法律上の支配力が及ぶ場合も含まれ、登記名義を有している場合も含まれると解すべきである。
 Zは、前訴の当事者であるYから本件土地の贈与を原因とする所有権移転登記手続がなされているが、この贈与は通謀虚偽表示によるものなので無効であるため(民法94条1項)、贈与を原因とする所有権移転登記の登記名義人であることについて、Zには固有の利益はない。したがって、Zは、登記名義人となっていることで前訴の当事者であるYのために請求の目的物を所持している者と言えるので4号に該当する。
よって、Zには前訴判決の既判力が及ぶ。
3 そして、既判力は訴訟物についての判断に生じ(114条1項、なお理由中の判断に生じないことは2項参照)、既判力が及ぶ者はその判断に矛盾する主張ができなくなる(既判力の消極的作用)。
 判決は口頭弁論終結時までの当事者の主張立証を基になされるため、口頭弁論終結後の事情であれば訴訟物についての判断と矛盾する主張も可能であるが、口頭弁論終結前の事情については前訴で手続保障が及んでいるので、紛争の蒸し返しを防ぐために、これを主張することはできない。
 Zが主張する「X1らとYとの間に売買契約は成立していない」という主張は、前訴の口頭弁論終結前の事情であり、X1らにはYに対して売買契約に基づく所有権移転登記手続請求権が存在するとの前訴判決の訴訟物についての判断に、「売買契約の成否」という点で矛盾する。
 よって、既判力の消極的作用によって、Zのかかる主張は排斥される。 
                                                                                                                       

                                                                                                                      以    上


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