見出し画像

隠れ家の不良美少女 220 幼馴染

「優斗!」私は声をかけた。
優斗は寂しそうにこっちへトボトボと歩いて来る。

「行ってしまうんだな…………」
「また戻って来るよ」
「うん………でもやっぱり遠くに行っちゃうよ…………俺があんな事をしなければ………」
「そうだね……あのメールが無かったらどうなってたんだろう?」
「どうなってたのかなあ?」

「私はあのメールで優斗に告白されるかと思って行ったんだよ」
「えっ!マジ!」
「うん、付き合ってもいいよって言いに行ったんだよ」

「え〜………………」優斗はガックリと項垂れた。

「あの事件が無かったら優斗と付き合って、将来結婚したかもね」
「嘘だろう、今更そんなこと言うなよ、ショックで死んじゃうよ」
「でも、キナコにはきっとなれなかったと思うわ」
「そうだね…………でもやっぱりキナコになって良かったと思うよ、だって輝いてるし才能が花開いた感じだよ」
「そう思う?」
「うん……」
「じゃあキナコになれたのは優斗のお陰だね」

「うっ………それ、なんか嬉しくない………でも…………やっぱりキナコになって良かったんだよ」
「そう………」

「俺は希和が幸せになってくれたらそれでいいんだ」少しだけ微笑んだ。

やがて優斗は寂しそうに下を向いた。

「ドキュメンタリーが放送されたら、キナコが希和だと分かってしまうと思うんだ、そしたら優斗が嘘をついて隠してた事がバレちゃうけど、学校でいじめられたりしないかなあ?」
「大丈夫だよ、それにいざとなったら明くんが助けてくれるし」
「そうだね、不良だった明くんが今じゃあすっかり詩織さんに頭が上がらないからね」少し笑った。
優斗も少しだけ笑った。
「でも友希さん凄いよね、希和を守ってくれたし、明くんも真面目に変えたし」
「そうだね、希和をキナコにしてくれたし」
「やっぱりこれで良かったんだよ」
優斗はまた少しだけ微笑んだ。

「希和!そろそろ出発するわよ!」
母さんが呼んでいる、近所の人達もいなくなった。
私とお母さんは友希さんの運転するキナコ号に乗り込む。

「やあ優斗くん、お見送りありがとうね」友希さんが窓を開けて声をかけた。

優斗は精一杯の笑顔を作り友希さんに「希和をよろしくお願いします」そう言った。
友希さんはニッコリ微笑んでゆっくり頷いた。

優斗は目に一杯溜めた涙を隠すようにお辞儀する。

友希さんは微笑みながら車を発車させた。

「いい子だなあ」友希さんがポツリと呟いた。

後ろを見ると優斗がだんだん小さくなっていく。
見えなくなるまで優斗はずっと手を振ってくれた。

私は『優斗も幸せになりますように』心の中で祈った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?