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Dear slave 親愛なる奴隷様 Loveですぅ!第3話 僕のベッドで〜!

「ずっとバイクで走ってきたからお腹すいたなあ………」

「はあ………」僕の思考能力は現在ほぼ停止状態だ。

「そうだ!ピザを頼んだらいいんじゃない?星七はピザは嫌い?」

「いえ、普通に好きですけど」

「じゃあ頼んでよ」

「あっ、はい………」僕は冷蔵庫の横に置いてある宅配ピザのチラシを持ってきてそっと差し出す。

 彼女はチラシを見ている。綺麗な人はチラシを見ているだけで絵になってしまうのかと感心する。

「えっと、私これがいい」彼女が指差したピザと飲み物などを電話で注文する。

 アイランドキッチンの前にあるテーブルにピザや飲み物などを準備する。二人向き合って座ると、これはやはり現実なんだと改めて認識した。

「さあ、私の歓迎会を始めて!」お姉さんは口角を上げて僕をみる。

「琴音さん、ようこそ東京へ」コップを持ち震えながら必死に言葉を吐き出す。

「ありがとう星七、これからよろしくね」そう言って僕のコップへ軽く当てた。

 僕はこれが現実なんだと無理矢理心に認識させた。ピザはいつものように美味しい、しかし僕の目はお姉さんのピザを持つ指先や食べる口元を見てしまう。綺麗な人なんだと改めて思う。これからここで暮らすのだと考えると胸が少し痛くなってきた。この状況は天国なんだろうか?それとも地獄?心の中に素朴な疑問が広がる。なんかピザが思うように喉を通過して行かない。

「ねえ、星七って少し呼びにくいなあ、二つの文字ってちょっと呼びにくくない?」可愛く首を傾げる。

「そうですか?」

「う〜ん、セナちん………いや違うセナぴょん………それもなんか違うなあ………セナっち」

「え………………」僕は対応できずただ瞬きする。

 同じ言葉を話しているはずなのに、意味や感覚が微妙にズレている感じがした。

「セナどん」琴音さんはニヤニヤしている。

「それは絶対に嫌です」僕は必死に抗議する。

「じゃあ、なんて呼んだらいいの?」眉を寄せこちらを見ている。

 星七ではダメなんだろうか?僕は思案に暮れる。いや途方に暮れた。

「ねえ、ニックネームとか無いの?友達から何って呼ばれてるの?」

「えっ………」それはとても話したく無い事だ。思わず眉を寄せ口をすぼめた。

「なんて呼ばれてたの?」薄笑いを浮かべて魔女のように見てきた。

「う………」どうしよう………隠してバレると酷い目にあいそうな気がする。考えた末白状してしまう事に決定した。

「ヤホー………です………」諦めてうなずく。

「ん………?」

 どうも飲み込めていないようだ。

「苗字がコダマなのでヤホーです」俯いたまま答える。

「そっか、ヤホーね」お姉さんはニッコリと微笑み何度も頷いた。

「ヤホー!」お姉さんは正面から見つめて言葉を放ってくる。

 僕は思わず条件反射で答えてしまう。

「検索しないよ」思わず友達の間でお決まりになっていた返事を返してしまう。

「何それ?」お姉さんはツボに入ったらしく笑い転げた。

 僕は絶句して固まる。中学時代の思い出したくない傷口が突然リビングへさらけ出されてしまったのだ。

「そうなんだ、楽しい中学生だったのね」納得している。

 違う!そんな楽しい感じじゃなくて、みんなにいじられてるだけだったんだ。でもその事は黙っておこうと心に誓う。

「琴音さんは、何と呼んだらいいんですか?」僕は話題を変えようと試みる。

「そうね、お姉ちゃんでいいわよ」優しそうに微笑む。

「いきなりお姉ちゃんはちょっと恥ずかしいです」唇に力が入る。

「そう、じゃあ慣れるまで『コトネさん』でいいわよ」

「はあ………じゃあ、しばらくはそのように呼ばせていただきます」

「さて、今夜は疲れたからもう寝ようかな」

「はい、おやすみなさい」

「ところで、私の部屋はどこ?」

「リビングの奥の部屋は二つとも開けてあるので好きなように使ってください」僕はドアを開けて案内した。両方の部屋には当然何もない、ガラーンとしている。

「そうだよね、まだ荷物は届いてないしね………」何度も頷いている。

 琴音さんは唇に力が入り、何か考えているようだ。僕は危険を感じて後退りする。

「ねえ、星七の部屋を見せてよ」

 出た〜、小悪魔フェイス!

「えっ、僕の部屋ですか?」やっぱりとんでも無い事を言ってきた〜!

「うん、高校生になる男の子の部屋って、どんな感じかなあって思って」薄笑いを浮かべて擦り寄ってくる。

「いや、それは恥ずかしいです、片付いてないし、掃除もしてないので………」僕は必死に抵抗する。しかし、琴音さんはそれを許さなかった。

「星七ちんは私の下着姿を見たでしょう?だから私に部屋を見せるべきよ」口角を上げて迫ってくる。

 自分の都合で見せた下着姿だろう?一体どんな理屈だ、訳がわからない。

「見せないとずっとヤホーって呼ぶぞ!」何と不気味な脅迫をしてきた。

「う………」なんだこの人は、ただただ呆れ返る。

 抵抗も虚しく、僕の部屋のドアは開けられた。

「なあんだ、綺麗にしてるじゃん、へ〜本がいっぱいあるんだねえ」舐めるように室内を見渡している。

「はい、僕は本が好きなので………」

 僕の部屋には本棚が三つある、そして机とベッドがあるだけだ。ポスターなどは何も無い、極めてシンプルなのだ。

 琴音さんは突然ベッドにダイブした。どうやらベットの硬さを確かめているようだ。

「えっ、もしかして………」僕は恐怖という言葉をごくりと飲み込む。

「なかなか寝心地が良さそうね」小悪魔フェイスが満開に咲き誇っている。

そうか、そういう事か、僕は納得した、いや観念した。

「わかりました、僕はリビングのソファーで寝ます」そう言って項垂れる。

「そうなの?一緒に寝てもいいんだよ、イトコだし」不思議そうに僕を見ている。

 一体どういう理屈なんだ、イトコなら若い男女が一緒に寝てもいいのか?そんな訳ないだろう。それにこの狭いシングルベッドで密着して寝たら眠ることは不可能だ。体が少し触れただけでも緊張して寝られる訳がないのだ。

 結局僕はタオルケットを押入れから引っ張り出し、リビングへと行くことになった。

「おやすみ星七」僕の部屋から声が飛んでくる。僕はその言葉を思い切り叩き落とし踏みつけた。踏みつけられた言葉はムギュッと言った気がした。ざまあみろ!!!。

 僕はソファーの上で横になる。しかし今日一日の膨大な予想外の出来事に体が緊張していてとても眠れそうにない。

 深夜になり少しうつらうつらしてくると、琴音さんの下着姿の画像がまぶたの裏に焼き付いていて、その美しい画像が鮮やかによみがえってくる。

「う〜………」僕は目を見開いて天井を見つめる。目を閉じるとまた美しい画像が思い出される。

「ムムム………やっぱり地獄だ………」本でも読めたら少しは気が紛れるかもしれないが、本を撮りに行く事すらできない状況だ。

 結局一睡もできないまま小鳥のさえずりを聞く羽目になってしまった。僕は強烈な疲労感にさいなまれながらソファーの上でゾンビ化した。

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