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水の生まれる夜に 108 実家の反応

九州の新の実家では父親のひろしが晩酌をしていた。
母の正子まさこと兄夫婦もいてテレビを見ている。
リビングの電話が鳴った。

「お父さん、新さんから電話です」兄嫁の真澄ますみが受話器を持ってきた。

「もしもし、どうした、珍しいな」

「どうもご無沙汰していますお父さん、変わりはありませんか?」

「ああ、何事もなくやっている、お前の方はどうだ?」

「はい、元気にやってます。実は養子の話がありまして、受けようと思っているのですが、まずはお父さんの意見を聞いてからだと思いまして」

「そうか、私はお前次第だと思うが、ちょっと待ってくれ、母さんにも聞いてみる」弘は正子や兄夫婦に聞こえるように言った。

「新に養子の話が来たようで、本人は受けたいと思ってるようだが、私は新次第だと思うが……」

「そうなの?ちょっと代わって」正子は受話器を受け取った。

「新、元気だったかい?」

「ああ、母さんご無沙汰してます、元気にやってます」

「そうかい、養子の話だって?大丈夫な相手なのかい?」

「とってもいい人達です、娘さんと付き合っているのですが、一人娘なので結婚するなら養子の方が何かと上手くいきそうなので」

「そう……新がそう言うならそれでいいよ」正子は兄夫婦も見た。

兄夫婦は何事も無かったように軽く頷いた。

「落ち着いたら彼女を連れて行くよ」そう言って新は電話を切った。

「へー……新を養子にねえ……危篤な人がいたもんだ」兄のたかしが言った。

「新さん大人しいから気に入られたんじゃない、でもさあ、大学に行かせるのにお金がかかったから少しは気をきかせてくれたらいいのに」お茶を飲んだ。

「良いじゃないか」弘は正子に酒のおかわりを要求した。

リビングはまたテレビの音だけになった。

翌日孝は釣りに行く準備をしている。

「また釣りに行くの?もっと稼ぐことやってよ」真澄は渋い顔をしている。

「今日は漁師の久隆おじさんの船に乗せてもらえるんだ、きっと大物が釣れるぞ」

「新さんは裕福な家の養子になるかもしれないわよ」

「まあ新を養子に欲しいとかいう家の娘は、余程嫁のもらい手が無い子じゃないか?」孝は笑いながら出て行った。

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