見出し画像

あの日のベトナム~ベトナムで生き抜け!女性とミッキーに学ぶサバイバル

ベトナムの女性は、たくましい。

街を歩けばあちこちで女性が話し笑う声が聞こえ、職場でもイニシアチブをとるのは女性であることが多い。店に入っても男性のスタッフに聞くより女性スタッフのほうが早く、正確に、丁寧なサービスを提供してくれる。私が働いていた職場でも女性の幹部比率はほぼ5:5、スタッフも女性は良くも悪くも賢く、率先して現場を指揮するのも、人目を盗んでさぼさぼるのも、注意されたときに文句や言い訳を言うのがうまいのも圧倒的に女性だった。男性はといえば、常にのんびりおっとり、あまり深く考えず、仲間に右ならえで指示をこなす人が大半、それも正確に業務完了するのはまれで、何度も途中経過確認やサポートを必要とする、ちょっと”甘ちゃん”が多かった。

そんなベトナムの女性の気質は、どうやら代々受け継がれているものらしい。そんなことを思う場所がハノイにある。
ハノイの有名なホアンキエムコ湖から徒歩で約10分、ソンキエット通りにある「ベトナム女性博物館」だ。1987に設立されたこの博物館は、ベトナムの女性の生活、歴史、ファッションに焦点を当てて、テーマごとに時系列で展示、紹介する博物館的役割のほか、女性の権利、や人権に関する集会などが行える会議場的な役割も担っているらしい。建物は白壁のフランス統治時代の建物で、正面の窓には色とりどりのカラーフィルムが貼られている。入り口にカウンターがあり、スタッフお金を払ってチケットを受け取る。館内やスタッフの衣装はピンクを基調としたものが多く、明るい印象だ。展示物の説明音声もこの受付カウンターで借りることができる。確かベトナム語、日本語、英語、フランス語に対応していたはず。年中無休、毎日8時から17時までの営業で、館内はエアコンが効いている。暑くて歩き回るのが大変なベトナムにおいて、オアシス的な観光スポットだ。私が訪れたときは日本人の姿はなく、欧米から来たらしい観光客ばかりが熱心に展示物を眺めていた。

最初のフロアはベトナム女性の家庭における役割や風習、文化について学ぶことができる。婚姻や出産の風習や家事道具の展示など、日本では民族資料館に似た展示だが、特に女性の生活に根差した展示である点が非常に面白い。

次のフロアは歴史上の女性の役割について。こちらでは主に戦争で女性がどのような役割を果たしたか、女性がどのように社会に参画していたかについて知ることができる。女性の戦争、軍隊での役割が日本のそれとは大いに異なり、従軍看護婦やそれに類するものだけではなく実践に参加したり、弾薬を運んだりなどの重労働を対等にこなしていたというのだから恐れ入る。実際に武器を取り、戦場に赴いたであろう女性たちの写真や実際に使用したあれこれの展示を見ると、壮絶ながらも当時の女性たちの颯爽と戦場にむかっていくさまが脳裏に浮かぶ。またこのフロアでは当時のプロパガンダポスターなどを見ることができるのだが、女性をモチーフにしたポスターが多く、当時の政府が女性を積極的に戦力として採用していたことがうかがえる。

最後のフロアはベトナム女性のファッションについて。ベトナムは民族衣装がとにかくかわいい。女性の特性を存分に活かし、たおやかの極みであるアオザイは有名だが、このアオザイにもトレンドの変遷がある。またベトナムの山岳民族・モン族の衣装はカラフルでかわいらしく、現在でも観光客に大人気だ。そんなベトナムの民族衣装から戦時中の女性の服装、婚礼衣装などがマネキン展示され見ていて飽きない。織物のパターンも数多く、さまざまな模様には意味や背景があるものも。ファッション好き、手芸好き、アート好き、かわいいもの好き…と、多くの人の目を楽しませてくれるだろう。実際このフロアでは楽しそうにじっくり鑑賞している方が多かった。

モン族の衣装。めちゃくちゃかわいい


この博物館では、文化や歴史を扱う中で、ベトナムが抱える問題についても取り上げている。現在進行中の人身売買問題、結婚・移住問題、独身女性の増加や男児女児出生比率の問題など、過去から現在にいたる様々な社会問題についても問題提起がある。私はこの博物館でいくつt化の深刻な社会問題の存在を知った。その後サパで山岳民族と話すことでさらに社会問題について考える機会があったのだが、それはまた別の機会に話そうと思う。

博物館では展示以外にもアクティビティを不定期で開催していたり、特別展示を行っていたりと訪れる時期によってみられるものがかわる。また動画で当時の様子を知ることができるなど、入場料の安さからは想像できない充実の展示内容だった。博物館の中のらせん階段に飾られた色とりどりのノンラー(ベトナム笠)のオブジェも必見だ。

古い建物だがこの階段はカラフルで明るい

さて、午後を有意義に過ごし博物館を出たところでちょっとした事件があった。
現在はだいぶ変わってしまっていると思うが、当時は入口に大きな木があり、そこから蔓や蔦が垂れ下がって木陰を作っていた。入り口にオープンカフェがあり、観光客やビジネス中と思われる人々が思い思いに時を過ごしていた。店の半分は道路に面しており、もう半分は敷地の奥に向かってL字のように連なっていた。のどが渇いていた私はちょっと飲み物でも…と思い、奥にあるカウンターに声をかけた。
カウンターでお金を払い、缶のコーラとストローをもらって席につこうとした。道路沿いが混んでいたので奥まったソファ席に座ろうと思ったが、ベトナムでオープンカフェだ、布製のソファはホコリまみれで座るのはためらわれた。博物館の入口の石段に腰を下ろす人々もいたが、なんとなくそれもためらわれてその布ソファの手すりに軽く腰を掛けて休憩することにした。

ソファからカウンターまではおよそ2mほど。こちらのカウンターはあまり使っていないらしく、従業員はたまにしか来ず、表通りに近い場所で賑やかにおしゃべりしている。コーラの缶にストローを指し、チューチューと吸いながらぼんやりしていると、目の隅で何かが動いた。

(ん…?)

なんだろう、と首をカウンターに向けると、なんとカウンターの奥にあるキッチンテーブルの上をミッキーさん(自粛してかわいく書きます)ファミリーがトトトトッと走った。

「ぎ、ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

思わず飛び上がって博物館の石段まで全速力でダッシュした。
私の悲鳴にカフェでまったりしていた数名がこちらを見る。カフェのスタッフも怪訝そうにこちらを見ていた。私は身振り手振りで”ミッキー!ミッキーだってば!!”と遠くからカウンターを指さしたが、スタッフはさもつまらなそうに”あっそ”とばかり、すぐにそっぽを向いてしまった。

えええええええ⁈!

私は震えが収まらずその場でしばらくわなわな震えながらカウンターの動向を見守った。その後もう一回ミッキーさんがアンコール登場し、ステージもといカウンターの上を行ったり来たりしていたが、そこにスタッフが登場、ミッキーは驚いて退場。そして次の事件(?)は起きた。
スタッフはその場に積んであったグラスの山を何もなかったかのように正面のカウンターに持って行ったのだ。
いや、そのグラスのまわりでたった今までミッキーさん駆け回ってたじゃん…マジか!

私は潔癖症ではないし、実際のところ、ミッキーにいちいち驚いていたらベトナムでは暮らせない。ほかにもいろいろこんにちはしてくる国なのだ、ベトナム。職場でも自分のデスクの向かい側をミッキーが駆け抜けたことがあり、ビビッて椅子から転がり落ちた。その時も現地スタッフに”いやお前のほうが怖いから!”と大笑いされた。
あれから数年、ベトナムの衛生環境は大きく進化したことだろう(と願う)。実際日本だって新宿や渋谷を歩けば巨大なミッキー組織に出くわすのが当たりまえになったし、どこもそんなもんだと思う。しかしこの一件以来、ズボラな私も食器やカトラリーは必ず拭ってから使用するようになったし、海外ではできるだけグラスではなく缶で提供される飲み物を買うことにしている。
これもベトナム、海外の面白さである。体調には気を付けて、経験から学び(笑)、楽しいトラベルライフを満喫していただきたい…トホホ。


この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?