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Monkey

新しいMonkeyが届いた。最近やたら「眉間にしわ寄せ人生本」ばかりに囲まれていたので、ホッとする。

1ページ、1ページにこれほどまで作り手の愛着を感じる雑誌はない。

編集長の柴田元幸さんは、エッヘン東大名誉教授である。英語翻訳の権威で、村上春樹さんの翻訳の師範代である。

でも、東京の下町育ち、引きこもりがちなロック好き少年の匂いが今でもする。紛れもない優等生だけど、底抜けに世界を愛している「モノホンの文学者」なので、劣等生の気持ちも死ぬほどわかる。

翻訳家は、日本の作家より日本語のことを考えている。

湿っぽい言葉で泣かせる、詩情豊かな日本語のエッセーの書き手はたくさんいる。でも、乾いた文体で、最低限の単語数で世界を凝縮出来るエッセーの書き手はそうはいない。

涙を一滴を使っていないのに胸がいつの間にか熱くなっている。

村上春樹は、「ヘミングウェイは賞味期限切れだ」とどこかで語っていたけど、柴田さんが新訳で出版されたヘミングウェイ短編集の瑞々しさには、心底、唸らせられた。

一度、メッセージを送ったら、ホントに山口の田舎の小さな図書館まで来てくれて、ささやかなイベントをしてくれた。

イベント終了後、図書館にいつも入り浸り、一日中過ごしても誰も近づかない地元の青年が、柴田さんに話しかけた。遠巻きに図書館スタッフがみつめる中、柴田さんは熱心に彼の話を最後まで聞いて、質問に一つ一つ答えていた。

「鋭い感性の持ち主だよ。」と柴田さんはクスリとも笑わずに真剣なまなざしで彼の後ろ姿を心配そうに見つめていた。

僕が、もし、無期懲役刑で独房に放り込まれたら、聖書や世界文学全集なんざ目もくれず、「Monkey」のバックナンバーを持ち込むだろう。

ここだけの話、実は、まだ読んでいないページがたくさんある。

柴田さんとその仲間たちが翻訳した「世界」と共に、ありあまる時間を優雅に過ごすつもりだ。