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ツキノワグマ

近年、ツキノワグマが街中に出没する理由


〈目次〉
1.ツキノワグマの出産
2.ツキノワグマが人と遭遇しやすい時期
3.ツキノワグマが秋に人里に降りてくる理由
4.ミズナラやブナによる捕食者飽和仮説
5.ツキノワグマが近年街中に出没し、人に危害を加える理由


1.ツキノワグマの出産

ツキノワグマは、4月頃に冬眠から目覚めますが、この頃はあまり活発には活動しません。6-7月頃に交尾をし、10-11月頃は冬眠のために普段より多くの餌を食べ、12月に冬眠します。

6-7月に交尾をしたメスは、冬眠中に受精卵を着床させ妊娠、2月頃に出産して授乳を開始し、他のクマより1ヶ月ほど遅れて地上に出てきます。

2.ツキノワグマが人と遭遇しやすい時期
クマが人と遭遇する頻度が高くなる時期は、二度あります。 

一度目は、交尾をする6-7月です。オスのクマが交尾相手を探して行動範囲を広げるため、人と遭遇することが多くなります。 

二度目は秋です。秋は、クマの餌が1年のうちでも豊富にある時期ですが、5-6ヶ月冬眠をするために必要なエネルギーを蓄えるため、できる限り多く餌を得る必要がある時期でもあります。

特にメスのクマは、冬眠中に着床、出産、授乳をするため、秋のうちに体にどれくらい栄養を溜め込めるかが、子供が作れるかどうか、また、子供を春まで育てられるかどうかに大きく影響すると考えらます。

加えて、秋はクマと人が好んで利用する植物が同じであることもあり、他の時期に比べて更に遭遇しやすいです。栗拾いにでかけた人とクマが同じクリの木をめざして移動している最中に出会ってしまうこともあります。

3.ツキノワグマが秋に人里に降りてくる理由
クマは、秋に盛んに餌を探し回りますが、毎秋、同じ量の餌が山にあるわけではありません。というのは、クマが主な餌資源としているミズナラやブナは、年によって豊凶の振れ幅が大きいからです。

ミズナラやブナが凶作の年は、クマは餌の探索範囲を広げ、危険を犯してでも人里に降りてくるのです。

4.ミズナラやブナによるか捕食者飽和仮説
よく今年は冷夏のため野菜が不作だというニュースを聞いたりしますが、ミズナラやブナの豊凶は、野菜の収量の増減とはメカニズムが異なります。

実は、ミズナラやブナは、積極的に凶作になる年を作っていると考えられています。凶作の年を作ることが植物の繁殖に重要であるという仮説があります。それが捕食者飽和仮説です。

毎年同じ量のドングリを生産し続けると、ドングリを食べる動物たちに毎年たくさん食べられてしまいます。一方、凶作の年を作ると、その年はドングリに頼る動物たちの個体数が減ります。

その結果、翌年に多くのドングリを実らせたとしても、食べ尽くされること無く、多くのドングリが発芽の機会を得ることができると考えられます。つまり、ミズナラやブナによる凶作は果実の捕食者を減らすための植物の戦略といえます

5.ツキノワグマが近年街中に出没し、人に危害を加える理由
ツキノワグマが生きている哺乳動物を狩ることはほとんどありません。これまでもツキノワグマが人を食べたという報告は無いわけではありませんが、非常に少ないです。 

クマの被害を回避するために熊鈴を持つのも、クマが鈴の音が嫌いなのではなく、人の存在に気づきさえすればクマの方が逃げてくれるという前提があるからです。

クマは人とばったり会って驚き、自分もしくは子を守るために攻撃行動を取ることが大半と言われています。

しかし、初めは人を恐れていたクマも、人の生活圏と隣接したところで生活し、頻繁に人の姿を見ている間に人が滅多に危害を加えてこないということを学習してしまうことがあり得ます。

あまり人を恐れない母グマのもとで育った子グマもまた、人を恐れないようになることも大いにあり得ます。

特に、食べ物を必死に探している秋は、そんなクマの中から、人が近くにいることを知っていながら街中に出てくるクマが出てくると考えられます。

人をそれほど恐れず、街中に食べ物があることを学んでしまったクマは、頻繁に街の中に出没し、人にとって危険な存在となります。

森林で猟をする人が減り、街に出てきてしまう前に、森林内で人が怖いという経験をする機会が減ったことが、近年ツキノワグマが街中に頻繁に出るようになった一因かもしれません。


以上

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