【サッカー新時代の教養】サッカーアナリストのすゝめ

この記事で書きたいことはこんな感じです。
・この本はアナリストを目指す人だけでなくサッカー好きに広く楽しめる本
・アナリストはサッカーを見る力だけでなく伝える力が重要
データはただの素材でどこまで上手に扱えるかもやっぱり重要
それではよろしくお願いします。

はじめに

昨今のサッカー本ブームにより現場で働いている方の本と大きく言ってもその視点は監督、コーチ、元選手、さらにはアマチュアカテゴリーの指導者など多様となっています。
本書は恐らく初めて(?)となるアナリストがテーマにした本です。
構成としては、そもそもアナリストってどんな人という説明から始まり、アナリスト視点での試合の見方、実際に試合へ向けた準備、監督・選手との関わり方など現場で働かれた杉崎さんのリアルの声として書かれています。
なので本書の対象は「アナリストだったり現場で働きたい人」以上!はもちろんなんですが、これがそうでもないんですよ。
もちろん現場に興味がある人が読んで楽しいはそうなんですが、実際の現場を経験した人のリアルな声が多く含まれている本書は「こんなことやってるんだ~」という新しい発見や「うちのチームもこんなことやってるのかな?」などの見方もできます。
なので本書の対象者はと聞かれたときに「サッカー好き全てです!」と言っても大げさではないと思います。

アナリストいずなに

国内ではまだ珍しいサッカーチームのアナリストという存在にクエスチョンマークを浮かべる人も多いでしょう。「そもそもアナリストってコーチとは違うんかい!」とか。
本書では初めに杉崎さんの経験からアナリストとはどういう立場でどんなことをする人なのかについてきちんと書かれています。
その中で面白いと思ったのが、アナリストの位置づけを監督と選手の間に立つ中間管理職という表現をされている点です。
最初に書きましたが、監督や選手との普段の接し方や両者の求めている部分の違いについてもリアルに書かれているためこの表現がより腑に落ちる印象を受けました。
個人的に選手がテクニカルな意見を聞く相手はコーチ一択なのかと思っていましたが、そこはデータも示しながら根拠出せるアナリストは強いよなあとハッとさせられました。

では試合の準備を行うアナリストに必要な要素は何かという質問に対してどんなことを思い浮かべるでしょう。
私はデータを使ってピッチ上の出来事を解釈するというイメージを何となく持っていました。監督やコーチの試合のイメージに対して数字を使いながら補足をしたり、はたまたこういう見方もありますよと進言したり。
このイメージに関して本書ではアナリストの仕事について、準備する対戦相手の試合のレポートにどんなことを書くか、実際に90分をどういう風に見るのかについての定性分析の方法も書かれていますが、アナリストとしてデータを扱う定量分析についても丁寧に書かれています。
最近ではサポーターでも試合中にシュート数、パス数、個々のトラッキングデータなどが一般的にも集めることができますし、試合後になればもっと細かい部分まで集められます。
本書ではデータのレベルを階層的に分類していますが、一般で集められるレベルだとこのレベルのうち半分程度かなというのが個人的な印象です。(実際には上のレベルでもこの項目なら探せるというものもありますが)
一方で簡単なデータを扱う上でも、データありきの分析に意味はなく、それと同時にデータそれだけで何か有益な情報が得られることもないという点もきちんと頭に入れて扱う必要があると思います。
この辺りの内容がアナリストとして重視されていることはイメージできると思いますが、本書ではアナリストに必要な要素として伝え方の部分も書かれています。
これについては書かれると当然なことだと思うのですが、重要な要素を答えてくださいと聞いて答えられる人は意外と少ないのではと思いました。
私自身これについて、そこまで重要視できていなかったことから実際に読みハッとさせられる部分でした。

タグ付けについて

そして国内ではこれから進化していきそうなビデオ分析についての部分も興味深かったです。俗にいうタグ付けについても使用しているツールから活用法まで書かれています。
フットボリスタでも取り上げられているリアルタイム分析の有用性はもちろん、ビデオにタグといわれる付箋のようなものをつける作業で後の分析の効率化を図れるという話は特に面白かったです。
これについてはそれぞれのツールで異なる部分もあるでしょうが、タグを自身で設定できることからチーム独自のデータを自分たちで集められることはツール使用の大きな意味なのではないでしょうか。
またタグ付けの特性上、タグ付けを行いながら試合を見ることで90分の印象がイメージできたり、それを裏付けるためのデータとして何を使えばよいのか見えたりするのではと思いました。
タグ付けの作業こそ、定性分析、定量分析どちらもできてこそ単純作業としてではなくアナリストの一つの見せどころとして面白そうだと思いました。

最後に

フットボリスタをはじめ分析について書かれる時に一緒に語られることの多いデータ分析、アナリストはまだまだ発展段階であり今後成長していく分野だと思います。
一方で本書の中でも書かれていますが、国内でアナリストという役割の普及率はトップレベルと比較したら少ないのが現実でしょう。また、実際に登用するための諸々のハードルの高さだったり発展段階の分野が故に人材不足といった現実もあるのでしょう。
今後のデータ分析の領域の発展に一石を投じることに成り得る本としてマニアックな視点からだけでなく、多くのサッカーファンがアナリストという新たな役割について知ることもできることから楽しめる本でした。

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