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篠田桃紅さんの「一〇三歳、ひとりで生きる作法」と言う本を読んだ。
一〇七歳で逝去された孤高の美術家は、日々どんなことを考えて生きていたのか。先日その存在を知ったばかりで、作品もご本人も拝見したことはなかったが、文面からは飄々とした人柄が伝わってきた。

作法とか方法とかやり方とか、そういった内容の記事や本を敬遠していたが、何かを教えようとか伝えようとかそういう意図はなく、ご本人の思うままにその心情が綴られた文章は、表現豊かでとても魅力的だった。

40代で単身アメリカに渡り、2年間滞在しながら、シアトルやニューヨーク、サンフランシスコに招待されて個展巡回をしていたとのこと。当時としては非常に珍しい挑戦だったと思う。

親しくしていた私の前々々職の同僚が、5年前くらいに現地の方と結婚して現在シアトルで暮らしていることや、行ったこともないのに夢に出てきたり、理由なくいつか個展をやってみたい場所の1つになっているサンフランシスコ、そして1度だけ行ったことのあるニューヨークの地名が挙がっていて、より鮮明に桃紅さんの当時の様子を想像してしまった。

特に現地の画廊で、搬入された美術品の梱包を荷ほどきした時のことについて書かれていたシーンは、その時の香りが漂ってくるような気がした。

桃紅さんは、美術品を傷めないよう、その道(美術梱包)の名人に梱包を依頼していたのだが、現地に到着した荷物の外箱を開けたらなんとも言えない良い香りがして驚いたそうだ。作品1点1点の間になんと無垢の杉板が当てられていて、それがまた木の色も柾目も美しい秋田杉だったとのこと。
画廊の人が板を持って帰って毎日嗅ぎたいと言ったくらい、その香りはよかったようで、そんな香りが私の方まで匂い立ってくるような気がした。

本の中で桃紅さんがこれまで見た水墨画の中で、最も心動かされたのは、長谷川等伯の松林図(国宝)だと言っていて、すぐに見たくなった。調べたらなんと1月2日(火)~14日(日)上野の東京国立博物館で期間限定で展示されているそうだ。なんという偶然。今日は11日。ギリギリセーフ。飛んでいかなくてはw

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