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サイボーグの哲学 第1回 考察の出発点

~連載をはじめるにあたって~
 
 「サイボーグの哲学」というこの連載で私が考えようと思っているのは、実はサイボーグのことではなく人間のことです。私は自身の職業のこともあって、比較的長いことデカルトの著作、なかでもおもに『情念論』という著作をたよりに、人間というのは一体どういう生き物なのか、ということを考えてきました。

 じつは今になっても考えをきちんとまとめることはできません。きっと「まとめ」が苦手な人間なのだと思います。人間とはどんな生き物か? もしそれにたいして、自分なりに「これこれこう言う生き物だ」とある程度答えられたと思っても、すぐにまた「そうとも言い切れない」という疑念が自分自身の中にわき起こってきます。そんなことなら、いっそのこと考えるのをやめてサッカーを見たり、ギターを弾いている方がよいという気持ちにもなるのですが、ふと気づいてみるとまたそんなことを考えている・・・ それが私の現実です。
 この連載記事で、私はこれまで、おもにデカルトという哲学者を頼りに自分が人間について考えてきたことを振り返りながら、なるべく客観的に自分の考えを書きあらわすよう努めようと思います。おそらく間違いもたくさんあるかと思います。おまえの考えはここが足りない、あるいは間違っていると言ってくださる方からのご助言やご意見をうかがえれば幸いです。

第1回 考察の出発点

 はじめに書きましたが、私はじぶんをふくめて「人間はどんな生き物か」に興味があります。デカルトに限らず、いわゆる哲学書や小説を読んで考える場合もあれば、映画を見て考えることもあります。また楽器を演奏したり、料理をつくったり、食べたり、あるいは夫婦げんかをしたり・・・ あらゆる機会にそんなことを考えてきました。そんな中、ことある度にこの17世紀の哲学者の言っていることを聞くにつれ、「人間はどんな生き物か?」を考える際の出発点というか土台のようなものが、なんとなく自分の中で整理されてきたように思います。

 それは二つの点に要約できます。デカルトを知っている人にとってはあまりにも当たり前のことで、なにをいまさら、なにをおおげさに、と言われそうですが、一つは、自分は「私は考える」という現実から決して逃れられないのだという自覚です。もう一つは、生きている限りは「食べて、寝て、何らかの活動をしている」という現実からも逃れられない自分がいる、という自覚です。

 この二つは、中味がどうであれ、つまり私が毎日何を考えようが、毎日何をしようが、それとは関係なく「人間」を考察する際の出発点としてはかなり重要なことだと思います。人間が「生きている」というのは、ある意味で「何かを考えている」と「何かをしている」ということにつきます。もちろん、何を考え、何をするかという点で言えば、その「何」こそが重要なのであって、それを明らかにできないのであれば、それこそ「何」を言ってもおそらく意味はないでしょう。
 

 ただ残念ながら今の私には、その「何」を「これだ」と言う力量と資格が少し足りません。この論を進めるうちに、その「何」がある程度しっかり見えてきて、それなりの資格、つまりそれを言う立場をそれなりに表明できる時がくることを期待するばかりです。

 なお今後の話の中で私は、「何かを考えている」という現実を「思考」、「何かをしている」という現実を「行動」という言葉で置き換えることがあります。

・思考:人は何かを考えているという意味で
・行動:人は何かをしているという意味で

この二つが私の考察の出発点です。

 さて、表題の「サイボーグの哲学」ですが、私がこの問題:人間はどんな生き物か? を考えるに当たってなぜ「サイボーグ」という単語をキイワードとして選んだかと言えば、たまたま「サイボーグ」のことを知る機会があって、その経験が、いまあげた「思考」と「行動」という二つの前提について考える際の大きな「手がかり」になったという経緯があったからです。

 もっとも私はサイボーグについて多くを知っているわけでもありませんし、特に情報科学には疎いので、「知る機会があった」というのは正確ではありません。具体的には漫画を読んだり、TV番組を見ていて、「ああ、こういうことかもしれない」と思ったという程度のことです。ただ、それは個人的にはかなりの衝撃でした。心身問題といったテーマについて哲学の用語や、どちらかというと抽象的な言葉で「理解」しようとしていたものを、目の前に「はい、こういうことです」と提示されて、妙に納得してしまったのを今でもよく覚えています。

参考までに、そのTV番組や漫画の一部をあげておきます。

(TV番組)
NHKスペシャル 立花隆 最前線報告 「サイボーグ技術が人類を変える」 初回放送 2005年11月5日(土)

(まんが)
・士郎政宗 甲殻機動隊(1)1991年 講談社
・士郎政宗 甲殻機動隊(2)2001年 講談社
・士郎政宗 甲殻機動隊(1.5)2008年 講談社

・荒川弘 「鋼の錬金術師」全27巻 ガンガンコミックス(『月刊少年ガンガン』2001年8月号から2010年7月号まで連載されたものの単行本)

次回から本題に入りたいと思います。(K)

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