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交流分析の理論を始めて知ったの・・・

 交流分析(Transactional Analysis=TA)の理論を始めて知ったのは、30年前のとある企業に勤務していた頃のことです。

 マネジメント研修の中で、エゴグラムを体験した後に、ストロークの概念について解説を受けた日のことを今でもよく覚えています。

 この理論は、日本交流分析学会のHPに、「精神分析に基礎を置く力動的視点を持ち、観察できる行動に焦点を当て、人間学的心理学の哲学を持った統合的な心理療法」で、「1950年代に米国の精神科医であるエリック・バーン博士により創始され、人間の変化と成長のための心理学理論と技法として発展してきた」と解説されています。

 何やら難しい解説ですが、専門家にはこの理論を「精神分析の口語版」などと呼ぶ方もいるそうで、その日の研修は、当時まったく不案内だった私なんかが聴いても、心にすーっと入ってくる平易なものでした。

 ちなみに、エゴグラムとは、エリック・バーンのお弟子さんのデュセイが師匠の理論を発展させて考案した心理検査ツールで、所定の質問に回答することで「いま・ここ」にある自分の心の状態がグラフ化されて、これによって自分の行動パターンが浮かび上がってくるという代物です。ときおり、ファッション誌などに簡便なかたちで紹介されることもあるツールですから、一度くらい目にしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

 当時、父親になったばかりのわたしは、心の持ちようが幾分変化していて、そのことに自分でも薄々感じていたところ、そのことを見透かされたような感じがし、痛く感心した覚えがあります。

 さて、この理論には、いくつか興味深い概念が提唱されているのですが、その一つの概念として説明を受けたストローク(stroke)には、当時、とても感銘を受けました。

 ストロークとは存在認知の一単位である。

 イアン・スチュアート/ヴァン・ジョインズ著『TA Today: A New Introduction to Transactional Analysis(『TA TODAY―最新・交流分析入門』)』には、定義がそう解説されています。

 ストローク:strokeを辞書で引けば(・・・古い表現ですね)、「水泳で、腕で水をかくこと。また、そのひとかき」とか、「テニス・卓球・ホッケー・ゴルフなどで、球を打つこと。また、ゴルフで打数のこと」と出てきますが、交流分析(TA)では、「人とのコミュニケーションから得られる精神的・肉体的な刺激のこと」とか、「相手の存在を認める言動の全て」ほどの意味を表すようです。

「ストローク」って?

 挨拶したり、褒めたり、叱ったり、あるいは、握手したり、肩を組んだり、抱きしめたり、云々云々。これらの言動のありようがストロークです。
 
 本書には、ある調査結果を基に、ストロークというものが子供の成長にとっていかに影響を与えるかが紹介されています。この話を聴いた日、わたしは、帰宅するなり、勇んで赤ん坊を抱きしめて見たり、声をかけてあやしてみたり(バカですね・・・)したものですが、それくらいこの概念は、子育て真っ最中のわたしにはとてもしっくりくるものでした。

親からのたくさんのストロークが子供の成長には必要

 ところで、こうしたストロークの概念は、成人の成長過程にも大きな影響を及ぼすのだとバーンは云います。
 
 たとえば、セールスが仕事のあなた。
 
 会社に到着すると、顔を合わせた上司が「おはよう!今日はどこ?」と声をかけてくる。それにあなたが「おはようございます!今日は〇〇へ訪問です」と応える。
 
 あるときなどは、大きな契約が成約し、その上司と2人で互いの手のひら高く掲げてハイタッチをする。
 
 このような行為をストロークの交換と云いますが、こうしたことが正常になされなくなる(=ストロークの欠乏)と人間関係は殺伐なものとなって、ついには人は精神的な変調をきたしてしまうこともあるのだと云います。
 
 なるほど、なるほど・・・です。
 
 スタッフとの日々のやりとりは、概ねこのストロークの概念で説明が付きそうです。マネジメントスキルの一つとして学ぶ機会のあるコーチングの理論も、ストロークの概念を踏まえて見直すと腑に落ちること請け合いです。
 
 さて、そうしたストロークには、無条件なものと条件付なものがあるとバーンは云います。
 
 たとえば、ある仕事現場で上司が部下にこう伝えたとしましょう。
 
 「全面的に●●さんに任せるよ、いつもの君の仕事ぶりからして何も心配していない。何かあれば俺がサポートするからやってみろ!」
 
 こうしたポジティブストロークでの無条件な信頼と期待の表明は、きっと部下にモチベーティブな強いインパクトを与えることでしょう。

いいストロークの交換をしたいですね!

 一方で「君はいい大学を出ているから期待しているんだよ」などというのが条件付ストローク
 
 この場合、悪い気はしないかもしれませんが、もしいい大学を出ていなければ、自分は一人の人間として力量を認めてもらえていないのだとも取れるわけで、ポジティブさも半減です。
 
 このようにストローク条件を付けることで伝えようとする内容が弱まることがわかりますが、とすると条件付ストロークはネガティブストロークの交換には使い勝手がよさそうです。
 
 部下を叱るとき、訳もなく「●●、だから君はダメなんだ!」なんて云ったら人格否定となってしまうでしょう。無条件ネガティブストロークの発信は最悪な事態を招きかねないのです。
 
 ところが、もし、「●●、この部分をもっと上手くできるようにならないと、ダメだぞ」と条件を付けて叱るのであれば、●●さんも「もっと上手くできるようになれば、自分はダメなんかじゃないんだ」と素直に聴く耳を持ってくれるかもしれません。
 
 ことほど左様に、ストロークと云う概念は、コミュニケーションのあり方を見事に・わかりやすく解説しています。
 
 わたしが、進んだ大学院では交流分析の専門家が教鞭を執っておられました(交流分析を学ぶことも大学院進学の一つの理由でした)。修士課程に入学した年に真っ先に履修し、この理論を体系立てて学べたことは本当に良かったと思っています。
 
 そして、その際にサブ・テキストとして使っていたのが前述の書籍です。
 
 わたしがお引き受けするコーチング研修では、導入時にいろいろな事例を交えて必ずこの理論をお伝えすることにしていますが、今でもその前の日には同書をパラパラと読み返すようにしています。気になる方は、ストロークの箇所だけでも拾い読みしてみるのもいいかもしれません。

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