FAIR SATO

感情熱力学の研究をしております。フリーで、アブダクションを使ったアイディエーション、ワ…

FAIR SATO

感情熱力学の研究をしております。フリーで、アブダクションを使ったアイディエーション、ワークショップのファシリテーション、定性調査のディレクション、インタビュアー、分析推論なども行っております。

マガジン

  • 自由エネルギー原理をめぐる冒険

    自由エネルギー原理についてやさしく解説します。

  • 新しい哲学

  • 感情熱力学

    熱力学を使った感情の研究をしています  since 3/16/2019

最近の記事

自由エネルギー原理によるBingAIの「奇行」の解釈とシンギュラリティ

 フリストンの自由エネルギー原理から、BingAIが、時として自信たっぷりに嘘をつく現象を考えてみる。この記事のタイトルはその一例である。この人物名は小柴昌俊さんから連想して私が作った架空のものであり、もちろんWikipediaにこんな記事はない。  自由エネルギー原理に基づくと、次のように考えることもできる。BingAIは、「知覚」(ユーザーのプロンプトとインターネット検索)を元に、内部の生成モデルを構築する。そしてこの生成モデルを元に確率分布を推定し、回答する。確率分布

    • BingAI,BingChat,BingSearchは結論に基づいて論文を改変する?

       私は、前から熱力学、Fristonの自由エネルギー原理、感情などの関係を考えています。例えば「自由エネルギーと感情熱力学」などの記事を書いてきました。  ところで、今、2023年2月21日ですが、BingAIあるいはBingChatあるいはBingSearch(以下BingAIとします)が驚くべきことになっていますので、ご報告したいと思います。ここで試しているのは、現在のBingAIで、リリース1週間後のパッチ?がかかり、利用制限が5ターンまでになったものです。  最初にタ

      • 期待自由エネルギーと万有引力による位置エネルギーは圏同型-高校生でもわかる期待自由エネルギー

         結論から最初に言います。Fristonの自由エネルギー原理(FEP)の自由エネルギーとは、力学における位置エネルギーと「同じ」です。(この「同じ」は、多分圏論の言葉で言う所の圏同値なのだと思いますが、圏論には詳しくないので本稿では「同じ」と呼びます。)そして、期待自由エネルギー(EFE)は、万有引力による位置エネルギーと「同じ」です。  力学による位置エネルギーは、地球の重力によるもの、万有引力によるもの、ばねの弾性力によるものなどいろいろあります。 地球の重力によるものと

        • マルコフ・ブランケットとクラインの壺(自由エネルギー原理解説-研究編-)

           フリストンの知覚-行動ループ(図1)は、自由エネルギー原理において、人間を始めとする自己組織化システム(以下エージェントと呼びます)の生存原理とされているものです。フリストンによれば、エージェントと世界の間は、知覚と行動がマルコフ・ブランケットとなって区切ることができるとされています。つまり、エージェントは、世界からの知覚と、エージェントからの行動があれば、それ以上の追加情報なしに、世界を知ることができるという考え方です。(乾訳 2022 能動的推論p.45-46)  し

        自由エネルギー原理によるBingAIの「奇行」の解釈とシンギュラリティ

        • BingAI,BingChat,BingSearchは結論に基づいて論文を改変する?

        • 期待自由エネルギーと万有引力による位置エネルギーは圏同型-高校生でもわかる期待自由エネルギー

        • マルコフ・ブランケットとクラインの壺(自由エネルギー原理解説-研究編-)

        マガジン

        • 自由エネルギー原理をめぐる冒険
          8本
        • 新しい哲学
          4本
        • 感情熱力学
          9本

        記事

          能動的推論とW型問題解決モデル(自由エネルギー原理解説-展開編-)

           W型問題解決モデル(図1)は、KJ法で有名な川喜田二郎が1966年に著した「発想法」の冒頭に登場する科学のあり方を俯瞰したモデルです。内容については広く紹介されているので割愛しますが、その特徴の一端だけを紹介すると、従来の書斎科学(演繹)、実験科学(帰納)に加えて、野外科学というデータからのアブダクションを体系化したものです。アブダクションによる発想法は、「データをして語らしむ」という、いわば現在注目を集めている「データサイエンス」の魁であります。  一方、フリストンの知

          能動的推論とW型問題解決モデル(自由エネルギー原理解説-展開編-)

          能動的推論の知覚ー行動ループ    (自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -特別編-)

           ”自由エネルギー原理”でWEBを検索すると、だいたい図1のような知覚―行動ループの図が出てきます。私も、「自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -5-」で図2のようなポンチ絵を書きました。これらでわかったような気にはなるのですが、ここでは、もう一歩突っ込んで解説してみたいと思います。  これらの概念図・ポンチ絵は、どれも時計回りのループが1つ書いてあるだけなので、生成モデルの変更と能動的推論を交互に行いながら、自由エネルギーを下げていく過程をわかりにく

          能動的推論の知覚ー行動ループ    (自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -特別編-)

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -5-

           今回は、前回までで導出した4つの式について、その関係を見ていきたいと思います。 前回:自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 - 4 - 10. VFEとEFEの関係  今まで見てきたVFEの変形1(第1回)、変形2(第2回)、EFEの変形1(第3回)、変形2(第4回)を再掲します。 VFE(変形1) Eq(x) [log q(x) – log p(x, s)]  

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -5-

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -4-  

           前回まで3回にわたってFEPの基本を説明してきました。その中で何回か能動的推論について触れてきましたが、今回はこの能動的推論を中心にまとめていきたいと思います。 前回:自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -3- 7.能動的推論 (active inference)の方向  能動的推論はVFEでもEFEでも登場しました。VFEにおける能動的推論は、いわば「泥棒がいるのではないか」という仮説を検証するためのものでした。過去に起因して現在に至る事象の知覚(

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -4-  

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -3-

           フリストン (K. J. Friston) の変分自由エネルギー原理(FEP)はどんな原理で、どんなご利益があるのかについて順次解説しています。 前回:自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -2- 4. 搾取と探索のトレードオフ  前回の問いは、「本当に自由エネルギーは減らすだけでよいのでしょうか。逆説的ですが、もし減らし切ってしまったら、もう減らす自由エネルギーは残っておらず、減らすことはできなくなります。」でした。  (A) まず言えることは、神

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -3-

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -2- 

           フリストン (K. J. Friston) の変分自由エネルギー原理(FEP)はどんな原理で、どんなご利益があるのかについて順次解説しています。 前回:自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -1-   3.変形2  前回は、変分自由エネルギー(VFE)の定義式からはじめて、変形1まで説明しました。今回はもう1つの変形に基づいて説明します。まず定義式は、  VFE(変分自由エネルギー) = DKL [q(x) || p(x, s)]          

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -2- 

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -1-

           フリストン (K. J. Friston) の変分自由エネルギー原理(Free energy principle以下FEPと略します)はどんな原理で、どんなご利益があるのかについて順次解説していきます。 1.変分自由エネルギーの定義  フリストンは、自由エネルギー原理について、「自由エネルギー原理とは、環境と平衡状態にある自己組織化システムは、その自由エネルギーを最小にしなければならない、というものである。この原理は、基本的に適応システム(動物や脳などの生物学的要素)が

          自由エネルギー原理について誰でもわかる、明快かつ深い解説 -1-

          時間と因果

           我々の宇宙では、エントロピーの流れが存在している。エントロピー 低から高である。高温側から低音側に熱が流れると言っても良い。しかし我々生命はこの流れを遡上する存在である。Eさんのように前を向いて遡上すれば、未来に原因があり、過去に結果があることになる。  しかし、Wさんのように後ろを向いて遡上すれば、過去に原因があり、未来に結果があると錯覚する。Wさんの場合、時間の流れ感覚はエントロピーの流れと一致する。しかしこれは決定論である。Eさんのように前を向いて遡上すれば、エント

          時間と因果

          過去は変えられる。予測と自由。主観(ミクロ)と客観(マクロ)

           今あなたが、全くの等確率で表か裏が出るコインを投げるとする。表と裏どちらが出るだろうか。それは予測不可能である。表と裏がそれぞれ1/2の確率で出るとしか言いようがない。逆に言えばあなたは、1/2の確率で自由とも言える。 1.因果はマクロに宿る。 次に、あなたが、一度に100枚のコインを投げるとする。あるいは、1枚のコインを100回連続で投げるとする。すると、その結果は、経験上、概ね、表:裏=50:50となる。つまり、全くの等確率で表か裏が出るコインならば、その結果は、概

          過去は変えられる。予測と自由。主観(ミクロ)と客観(マクロ)

          新しい哲学−2

          今回は、新しい哲学−1の内容を、数式で説明していきたいと思います。 まず、これまでの多くの経験と実験により裏付けられ、いまだに反証されていない、つまり客観性が非常に高い熱力学第一法則(エネルギー保存則)からスタートします。この法則は、高校物理から登場し、そこでは簡単に、 ΔU = W + Q ・・・(1) と書きます。ΔUは注目した系の内部エネルギーの変化、Wは外界が系にした仕事、Qは外界から系が受け取る熱です。言葉で言えば、熱力学第一法則は、「物質の出入りのない系の内

          新しい哲学−2

          夏目漱石の草枕からの熱力学第二法則の導出

          原文:山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。 分解してみます。 1. 智に働けば角が立つ。 2. 情に棹させば流される。 3. 意地を通せば窮屈だ 4. とかくに人の世は住みにくい。 熱力学におけるカルノーサイクルを考え、智を温度、情をエントロピーと対応付けます。 1 はB→C→Dの過程で、温度が下がり、エントロピーが減少し、排熱が行われることを意味するのではないかと思います。 漱石の

          夏目漱石の草枕からの熱力学第二法則の導出

          新しい哲学−1

          新しい哲学の第1歩として、まず、「空間」「時間」「志向性」を所与とし、これに加えて、ある程度合意が形成されていて比較的わかりやすい言葉「知覚」「認識」「行動」だけを用いて 『意識』、『意志』を語る。 志向性の別名は焦点化。いままで焦点化といっていたものをより一般化したのが志向性。 定義1:意志とは、空間への志向性である。 定義2:意識とは、時間への志向性である。 空間においては、志向性は行動につながる(空間移動の自由がある)。 時間においては、志向性は行動につながらない

          新しい哲学−1