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後悔の先に

東京藝術大学の学祭で開催されるアートマーケットは一見の価値がある。
アート作品から日常使いのできるアーティスティックな小物まで様々な模擬店が並んでいて、自分の作品や商品をアピールする学生さんとのやり取りが楽しい。
毎年トーク上級者の友人と一緒だったので、あちこちで会話が弾み、財布の紐は緩んだ。私たちはアクセサリーをたくさん買って満足だった。
コロナ前の話だ。

昨年3年ぶりに開催されることを知り、行ってみた。

有名な東京藝大の神輿がちょうど広場に帰ってきたところでしばらく見学した。
ゼロからあんな巨大な神輿を作り上げるなんてそれだけで感動だ。

アートマーケットはやはりアクセサリーがお目当てだった。
イヤリングを中心に見ていたが、
どの店をのぞいても誰も声をかけてこない。
トーク上級者の友人がいないから余計にそう感じるのか。
コロナの名残りの制限でもあるのだろうか。

いいなと思えるアクセサリーの模擬店があった。
商品台の対面席に二人の女子学生が座っているが黙ったままだ。
沈黙の模擬店。
私も客アピールゼロで、アクセサリーの品定めをしていたら、ふたりの会話が耳に入ってきた。
「神輿見た?」
「全然見てない。作ってるとこ見たかったけど、そっちも全然。」
「だよね。」
そしてパンを食べ始めた。
私は会釈してそのお店から離れた。
この子たちを責めているのではない。
誰も悪くない。

次にのぞいた模擬店はガラスアートの店だった。アクセサリーも並んでいる。
それかわいいですよね、とショップ店員のように話しかけてきた彼女は、他の美大の学生でお客様だった。
私が買おうとしているイヤリングは
「こちらの彼女が作ってるんですよ。」と作者を紹介してくれた。
ガラスアート制作で出るかけらを使っているそうだ。
とても気に入った。
見たこともないような素敵な名刺をくれた。
大学院生とのことだったが立派なアーティスト。
後輩と思しき女子学生が購入したイヤリングを包んでくれた。
「ほかのもご覧ください。」
慣れていない感じがまた微笑ましい。
作品を見せてもらった。
みんな若きアーティスト。
これこれ、この雰囲気を味わいたいと思っておばちゃんはひとりやって来た。

コロナの時は高校でも大学でも行事や文化祭は中止だった。
沈黙の模擬店のあの子たちも学祭は初めてだったのかもしれない。
どう振るまえばいいのかわからない子がいて当然だ。
それまでの経験がない。
沈黙の模擬店で私まで沈黙してしまった。
トーク上級者の友人であれば、あの模擬店の女子学生に、
客として上手に声をかけ、退屈そうにはさせなかったと思うのだ。
私こそあの場面で女子学生に話しかければよかった。
鬱陶しいと思われてもいい。
「今日はこれくらいにしといたるわ」と心の中でつぶやけるほどのおばちゃんマインドは持っているのに。

フルコロナ世代。
大学生では我が家の次男がそう呼ばれる学年だ。
入学式もなく、大学生だけが学校に通えず、家にいてレポートに追われていた。
ずっと自室にいて時々聞こえるのはオンライン授業の声。
でも昼食時にはテーブルに着席していて座敷わらしかと思った。
小中高大、学校に通う子供らはみんな何かの機会を失った。
経験できなかったことが何かしらある。
文化祭や修学旅行、卒業式。
それにまつわるいろいろな青春。
経験させてあげられなかったという先生や親の気持ちを聞くことも多い。

この春進学する人は、やっと失われる行事ゼロの新生活が待っている。
これから先は
どんな時代が来てもフィットできる。
それぞれの歩幅で自由に進みたい。

おばちゃんマインドで応援したい。





















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