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第3話 年の暮れ

寒さを忘れるような賑わいを見せる露店が並び、
そこにいる全ての人達は、誰もが幸せそうな笑顔でいた。

清乃は海斗と待ち合わせ場所で、心をドキドキとさせながら
俯《うつむ》きながらも、間違いなく最高に幸せな時を、
待ちわびていた。

「清乃! 待たせた?」

彼女は顏を上げて、海斗を見た。

清乃は海斗の初めての同じ模様の浴衣姿に思わず見惚れた。

いつも一緒にいる事の多い彼であったが、
本当の幸せを噛みしめた。それは時間を忘れさせるほどの
自分で見れない顏がそこにはあった。

「清乃、どう? 似合ってるかな?」
彼は彼女の笑みから、恥ずかしそうに清乃に問いかけた。

「うんうん! すごく似合ってるよ!」
「それならいいんだけど、清乃は似合いすぎてるから
見劣りしてんだろうなぁ」

彼は苦笑交じりにそう言った。

海斗は清乃の近くまで行くと軽く頷いた。
そして二人はいつも通り神社に向かって歩き始めた。

神社でお祓いをしてから、おみくじを引き、
ゆっくり露店巡りをするのが毎年の恒例になっていた。

例年にも増して人は多く、人込みの多さから、
一瞬二人の距離が縮まった。

海斗は清乃の、清乃は海斗の鼓動が激しく伝わってきた。
自分自身と同じくらいの張り裂けそうな心音が、気持ちの上で
お互いの心の距離を縮めた。

その最高の幸せを終わらせないように、この一瞬が終わる前に、
海斗は彼女の孤独な手に触れて、優しく握りしめた。

清乃は彼の手を握り返した。そして彼を見上げた。
彼女の顏は幸せそうな顏を見せていた。

海斗は清乃の顏を見て、世界がまるで停止したように、
自然に彼女の唇にキスをした。

その刹那を二人は共有した。唇が離れると、
まるで魔法が解けたように、世界は再び動き出した。

二人は何事も無かったような素振りを見せていたが、
心の中ではこれまでの存在以上に、大切な人へと変わっていた。

その後は毎年の恒例通り、お祓いをした。
今年は二人ともが、お祓い中に思っていた事は違っていた。

例年と同じ内容に加えて、お互いを想い合っていた。

二人は再び手を繋ぎ、露店路を今まで以上に楽しんだ。

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