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第八話 始祖の血を引く長老会

コウモリの群れが古城近くの大地に注ぎ込まれるようにして形を成していった。姿を現したヴラドにアリアは問いかけた。
「閣下。いかがでございましたか?」男は静かな声でため息交じりに答えた。「あの程度の人間に我らは振り回されているのか? 正直弱すぎて言葉も無い」美しい女の眼は真っすぐ乱れもせずにヴラドを見ていた。

「その者たちはおそらく偵察隊です。人間は神をも恐れぬ実験を繰り返し、ヴァンパイアの身体能力のみを得る実験に成功しました。しかし、我らの力を容易に得る事は難しく、多くの人間は失敗し、死ぬ事は我々の仲間である潜入者より報告を受けています。当然、閣下の敵になる者はおりません。純々血種のヴァンパイア、つまり50%の力を持つ者は生かしたまま数名囚われたと報告は来ていますが、監禁場所は未だ不明です」ヴラドの腹心のヨハン・ヴェニスターは報告をした。

ヴラドは目を細めて眉間にしわを寄せて、何かを考えているようにアリアには見えたが、「まあ、よい。それについても話し合う事になるだろう。ここに入ればいいのか?」アリアは車のドアを開けて手を差し伸べた。「はい。そのまま椅子に座るようにお座りください」
主はアリアの言う通りに中に入った。「座り心地は椅子の比にはならない程座り心地は良いな」男は数世紀ぶりに軽い笑みを見せていた。
皆、ホッとしたように優しい目になっていた。イオン・ヴィゼアは前の運転席に座ると、アリアは後部座席の車のドアをゆっくり閉め、車を華麗に飛び越えて、反対方向から後ろ座席に入った。「失礼致します」間を開けてアリアは後部座席に座った。

「では長老会を行う屋敷へと向かいます」ヨハンはそう告げると、そのまま真上に上昇していくと、「少し圧力を感じますが、問題ありませんので。それでは参ります」ヴラドでさえGを感じるほど圧が一気に来たが、すぐに慣れて窓から外を見渡した。「眠っている間に、時代は時代を遥かに越えたんだな」彼は視線を遠くまで飛ばしていた。
「この速さはこれが限界か?」ヨハンは無意識に笑みを生んだ。
「いいえ。まだまだ速くできます。ただ、乗り心地が多少悪くなります」
アリアは彼が珍しく興味を示している事に対して、喜びに近い感情を深々と感じた。それは永遠の眠りにつく前に愛していたアリスの事を一言も言わないのは、ヴラドの中では過去として終わりを告げたような気がしたからだった。

「では最大まで加速していきます」ヴラドは別段何も感じなかったが、隣のアリアの硬い表情を見て、加速からくる重力が増しているのだと感づいた。彼はまだ何も感じていなかった。それは声に出さずとも、アリスとの別れを違う時代に置いてきた事を実感していたからだった。彼女へのその想いが強すぎて、彼は心の中は隙間なくその想い出が埋め尽くしていた。そして速度を増す事に、空にちりばめられた星のように空に流れていっていた。彼のアリスとの想い出が消えれば消えるほど、彼も加速重力を感じ始めていた。隣のアリアに目を向けると窓から外を見て、何やら不信感に煽られている様子を見せていた。

「ヨハン。こんなものか? アリアが不安な様子を見せているのは、お前の腕が悪いせいなのか?」ヨハンは隣にいるイオンに目をやると、彼はグッと引き締まった顔つきで見せてやれとばかりに頷いて見せた。
「徐々に上げていこうかと思っていましたが、それでは一気に行きますね。恐らく、長老会の屋敷は過ぎますが、すぐに戻れますのでご安心ください」ヨハンは主であるヴラドを驚かせるつもりで一気に加速した。それは非常にマズい事態を招く事になるのをいち早く感づいたのはアリアだった。
すぐに止めようとしたが、ライカンとの境界線を超光速で突入してから自分自身にも重力を感じてからようやくその事態に気づいた。「どうかしたのか?」ヨハンは焦りから口にした。

「やられました。アリア、説明は任せる」それまではヴラドにこの最高速度を感じて欲しかっただけであったが、今日は特に不味い事になると実感し、スピードを落としながら空中で回転してライカンの支配地から抜け出す為、再び最高速度まで持っていった。
「これは一種の幻覚装置です。我々もこの手の装置で多数の隠れ家を作っています。見ただけでは分からないほど精巧な幻覚を作り出します。何者かによって我々は禁断の領域であるライカンの領土に侵入させられた模様です」三人の様子から非常事態だと理解したヴラドは、事はここで終わらせるべきだと思い、「お前たちは屋敷には行かずに、我が古城に戻っていろ。私が話をつけてくる」そう言うと出口らしき場所まで行くと「私が出たらすぐに閉めて、古城で待て。争わずに事を終わらせる事が出来るのは私だけだ」思い詰めた表情に対して、銀髪の男は容易に事を終わらせるような軽い笑みを見せて飛び出した。

元々は知性的では無かったライカンであったが、ヴァンパイアのように統率する者が現れてからは意味の無い殺しは止めて、人間やヴァンパイアの眼の届かない地下へと巣を作っていた。ライカンとヴァンパイアは古から因縁があり、境界線を越えた事は戦争を始める気か? とライカンを統率するギデオンは思った。
元々、攻撃的な一族であったせいもあり、彼らはギデオンの指揮の元、戦いの準備を始めていた。後手に回れば厄介極まりない事だけは知っていた。ライカンとヴァンパイアに潜入者を送る事は不可能であった。ライカンはウェアウルフへと獣人化でき、出来ない者はすぐにスパイだとバレる。ヴァンパイアは殺意を抱くと瞳孔が青くなり、そしてそこから広がるように白い結膜は薄い水色に染まる為、スパイはすぐにバレて殺された。

ウェアウルフとなったライカンの力と体力はヴァンパイアよりも高みにあり、ヴァンパイアは知性と素早さ、そして超人的な生命力と回復力で戦い続けてきた。

しかし、今から七百年程前に、世界にライカンやヴァンパイアの存在が明るみに出てからは暫くは人間との争いに転じていたが、それでもライカンとヴァンパイアが休戦する事は無かった。怨恨あるこの両種族の争いを一時的に止めたのは、滅びたと思われていた種族だった。
ヴァンパイアやライカンよりも少数ではあるが、その比類なき強さを知る者は多くは無かった。戦いにより多数の死者が出たからだ——鬼の一族。彼らの特徴は角が生えていて、大きくて立派な角や数などから位を意味していた。肉体は鋼を以てしてもかすり傷程度しか付けられず、戦いは長期間に及んだ。当初はライカンかヴァンパイアが復活させたのでは? と疑心暗鬼に囚われたが、一番その強さを知っている者たちが復活させる訳が無いと議論付けた。そして、いずれかの長老を復活させるべきでは? と言う議論が開かれ、異例ではあるがウォーカー・バルトと言う五人の長老のうち、強さに最も秀でた長老を復活させ、鬼の一族と戦うべき象徴として指揮を執って貰う事を管理人である腹心たちに嘆願した。ブレイク・バネルは最長老の腹心の一人であった為、疑いを持たずにヴァンパイアの存続の危機に立ち上がった。


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