見出し画像

1999年から2003年までの阪神タイガース その㉜

色んな人がいた。
そりゃ、色んな人がいたよ。

野球場に偏見や差別は無い。

誰もが千円札を二枚用意すれば夢の中へ行け、
お釣りが返ってきた。

阪神タイガース。
夏場に最下位が確定している球団を応援しに来るなんてただの変態だ。
土日はともかく、平日でも毎試合来ている連中は普段何をしているんだろうといつも思っていた。

巨人戦や大型連休を除き、
当日券でフラっと入れたあの時代。

そりゃ、色んな人がいた。

まず、自宅が差し押さえられ甲子園に住んでいる人がいた。
通称「主」。
有名なおっさんでね。
本人曰く「事業に失敗した」なんて言ってたけどただのフータローだ。
甲子園の常連宅や銭湯に通い、
球場の近くにテントを張って生活していた。

このおっさんは阪神の知識が半端なく、
一部のコアなファンに尊敬の眼差しで見られていた。
チケットは常連から貰っていた。
金が無くても生活できるという事は信用があるという事だ。

「いやあ、シーズンオフは寒いね!」
意味深な名言を残した。

お前の方が寒いやろ。


次に「犬ジイ」
ビビるぐらい汚い犬を連れて鳴尾浜に全試合通うおっさんだ。
近所の団地に住んでおり、
タダである事をいい事に散歩がてらやってくる。

とにかく野次を飛ばしまくる。

お前ら!やる気あるんか!!
万年鳴尾浜!!
ブクブク太りやがって!!!
安月給共!球拾いしとけ!!!
ビジターチームに謝れ!!

犬が見る物全てにワンワン吠える。
しつけもクソも無い。
とにかく汚くて黒くて不細工だ。

またあのおっさんか。。。
選手もタジタジだった。

一軍から降りてきた選手への野次は半端ない。
犬と共に金を貸せやと言う始末。
あまりに集中攻撃する為職員が注意するも全く聞かない。

このおっさんも2003年のフィーバーで消えた。
おっさんは死に、犬が残ったという噂もあった。

消えた時は安心したと言う声、
それよりもいなくなったら寂しいという声が大きかった。

そんな事よりも「おすわり」も「お手」も出来ない犬を見たのは生まれて初めてだった。
名前を聞いたが頑なに教えてくれなかった。

元祖保護犬だ。きっと。


通路に座り、眠るおっちゃん。
いつもいた。
甲子園には来るんだけど、
試合を観ている姿を見た事は無い。
いつもライトスタンドの通路の壁にもたれかかり居眠りをしている。
試合開始から試合終了までだ。
全身黒い服装で応援グッズも持って来ない。

暗黒時代はもちろん、
2003年のフィーバーもほぼ全試合来ていた。
あの人は何しに来てるんだろうと疑問に思った事があった。

きっと甲子園の空気や香り、雰囲気、喧騒、絶叫、歓び。

目を閉じて楽しんでいるんだろう。
試合を観なくても分かるんだ。きっと。
それも野球観戦かもしれない。

因みに年中長袖を着ている。
「話しかけられる人」ではない。


野球場の常連。
まだまだこんなもんじゃない。
語りきれない程色んな人がいた。

断言する。
こういった人達と同じ空間にいるのは野球場しか無かった。

野球場。一人一人のバックグラウンド。
それは暗く、厳しく、決して裕福では無い。
しかし人生を歩んでいるだけで美しい。

来るだけでほんの少し傷ついた心が癒える。
それが野球場なのかもしれない。


続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?