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1999年から2003年までの阪神タイガース その㉞

9月15日のチケット。
それは前日に僕の手元にやってきた。

僕はこの日のチケットを持っていなかった。
タイガースにマジックが点灯し約二ヶ月。
胴上げは名古屋だろうと誰もが予想していた。

しかしまさかのタイガースは連敗。
マジック2のまま本拠地甲子園に帰ってきたんだ。

2003年。
思い出すと目頭が熱くなる。
毎日のように球場にいた人もいるだろう。
僕もその一人だ。

既に甲子園での前売り券は完売。
9月のチケットはプレミア化していた。
今のようにチケット売買サイトやメルカリの無い時代だ。

胴上げは半ば、
見るのを諦めていた。





前日の9月14日。
カナヤン先輩から電話がかかってきた。

今でもやり取りを鮮明に覚えている。

「やんやん、明日のチケットがある。
 見よう。みんなで!!」

優勝や胴上げというワードは無かった。
見よう!という一言だけで分かった。

タイガースが優勝する。
僕らの目の前で。

僕は甲子園に向かった。
ここから僕の夢のような『9月15日』が始まった。

試合内容は割愛する。
勝利後のタイガースファンは甲子園で横浜スタジアムでの結果を何時間も待った。

ここから何度涙したか分からない。
この日は何かが違った。

92年を除き、
ずっとBクラスだったタイガース。

サヨナラ負けを目の前にし、
悔しさいっぱいで総武線に乗ったあの日。

名古屋まで遠征し二安打完封負けを喰らった2000年。

和田さんの引退試合。

あれだけガラガラだった甲子園。
でも、この日は空席などない。
試合を見れない球場外までタイガースファンは溢れていた。



溢れていたよ。

でも。
ここからが本題だ。

『タイガー』
この日、彼の姿は無かった。
暗黒時代にその存在感を放ったタイガー。
一瞬でファンの心を掴む見事な二次会の指揮を執った。

タイガーは2001年にその姿を消した。

『こだま』
手作りのイラスト入り歌詞カードを無料配布する優しき巨漢。
暗黒時代に巨人に勝利しただけで道頓堀に飛び込んだ。
彼の姿も無かった。

そして、この男を忘れてはならない。

『アイパー』
絶対に胴上げを見なければならない奴だ。
ホームの二次会の帝王。アイパー。

この日、アイパーの姿は無かった。



隠さず話そう。
アイパーはフィーバーであるこの年、
二次会のリーダーの座を失っていた。

2003年8月に二次会跡目争いによる抗争に遭い療養。
命からがら日々を生きていた。

そして。
9月の観戦を自粛していた。



9月15日。
この日僕の元に降りてきたチケット。
これは実はアイパーのものだ。

アイパーは長い間入院し、
もがき苦しんでいた。


「やんやん。後は頼んだで」


そう聞こえた。僕には。


アイパーの想いを背に、
僕は甲子園で胴上げを見た。

アイパーと会えていなかったら
甲子園で胴上げを目の前にする事も出来ていなかった。

アイパーがクーデター、
抗争に巻き込まれていなかったら
甲子園で胴上げを見る事は出来なかった。

星野さんが宙を舞う。
走馬灯のように
暗黒時代の思い出がよぎった。

タイガースは弱者の心の支えだ。
僕たちは誰よりもタイガースを愛していた。

カナヤン先輩、大渕先輩。
フジ君、ハマ君、そしてやんやん。

この日はこのメンバーで胴上げを見た。

みんなと甲子園で会わなければ
優勝を味わう事は出来なかった。

これは偶然?必然?
いや、違うな。

好きなものを諦めずに全力で追いかける。
自ずと道は開け、心が揺さぶられもう死んでも後悔は無いと思える位の素敵な出来事が待っているという事をタイガースは教えてくれた。




アイパー。
ありがとう。
この日の恩は忘れない。



プロ、素人問わない。
全てのタイガースを愛する方へ。

古参?ニワカ?
国籍?
職業?年齢?性別?
無職だって?
家庭の事情?
障害がある?
金がない?
水商売?
社会不適合?
過去の辛かった出来事?

全く関係無い。

あの頃とどれだけ環境が違えど、
2023年の胴上げは見るべきだ。

今、あなたがこの世の中で毎日呼吸をし過ごせているのなら。



2003年9月15日。
19歳の僕が手にした一枚のチケット。

そこには僕だけでは支えきれない、
暗黒時代を共に闘ったタイガースファンの想いがあった。



続く

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