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キャッツアイCE400

 よくFのコードが弾けなくて、ギターを断念したという人がいる。私の場合、そんなことは許されない環境だったのだ。
 中学に入学し、音楽の授業。男子校だったため女っ気なし。合唱しても、男の声変わりする「だみ声」ばかり。そんな中、うちは中高6年間の一貫教育で、尚且つカトリックの学校だったので賛美歌なんかを歌っているから更に妙な授業になる。だから音楽の教師もそれなりに考えたんだろう・・・なんと学校にはギターが40本くらいあり、ギターの授業があったのだ。そのギターで歌を歌う。なんとレベルの高い・・・つまり弾き語りをしろという。そう、何でもいいから弾き語りだ。
 一応音楽の教科書には「ドナドナ」や「花はどこへ行ったの」なんてアメリカンフォークソングも掲載していたが、誰もそんな歌は歌わない。しかし歌おうにもその前にコードが押さえられない。だから、当時流行していたアリス、千春、さだまさしがみんなのお気に入りだったが、その歌を歌いたいがために授業は白熱していったわけ。Fのコードだけ・・・そりゃあみんな練習の鬼になる。私も例に漏れず、練習。

 限られた授業の時間だけでは当然できないので、親に訴えギターを購入。
 12,000円のモーリスのクラシックギターが私の初めてのギターだ。そう、学校のギターがクラシックギターだったので自然にクラシックギターを選んでいただけ。しかも、家から一番近いレコード屋さんの壁に掛かっていた一番安いギターだったと思う。二子玉川の高島屋にあったスミヤというレコード屋だった。

 私は意外にもFのコードはすぐに出来たのね。エレクトーンをやっていたから指もそこそこ長くてね。でも長い分どちらかというとB7のコードの方が指がこんがらがって難しかったかな。
でも、そんなに真剣にギターは弾かなかったんだよね。友達に教えてもらったドラムの方が好きだったし。
 そうこうしているうちに、みんなギターが弾けるようになると、学校のクラシックギターじゃ満足できなくなるんだよね。それで、フォークギターに移るわけ。みんなヤマハ、モーリスなんかを買ってきては教室に持ってきて休み時間なんかに弾いていた。そんな友達を見ながら私は少し焦っていた。

 私のクラシックギターはというと、ネックが反りはじめていたこともあってそんなに弾かなくなり、ギターから遠ざかっていた。しかし、相変わらず音楽の授業でギターは続いていて、自作自演の作品を発表しろなどと言い出す始末。こりゃ、マジでギターをやらねばと思い、一念発起。親にもう一台ギターを買ってくれとも言えず、昼飯代を浮かしながら貯めたお金でフォークギターを購入することにした。
 当時ラジオ深夜番組を聴いていると楽器屋のCMが盛んに流れており、楽器屋は御茶ノ水に密集していることを知った。
 私は4万円を握りしめ石橋楽器に一直線。中学3年の春、ギターを買いにいったのだ(1979年当時の4万円って結構な破壊力はあったと思うよ)。
 友達のギターはヤマハ派とモーリス派に分かれていて、それはつまりさだまさし派かアリス派かみたいなものなんだけど、要は好きなアーティストが使っている楽器を持つということだからそうなるわけ。で、私の場合・・・拓郎はっていうと、ギブソンのJ45かマーチンのD35。“そんなの4万円で買えるわけないじゃん”なんて思いながらぶらぶらフォークギターを見ていた。
すると店員さんが寄ってくる。
「フォークギター?モーリス持てばスーパースターだよ。このW30って定価3万円だけど今なら2万4千円でいいよ。カポとか音叉とか付けちゃうよ」
なんて、軽く接してきた。
 私は心の中で“モーリスはいいんだよ、もう。だいたい持った瞬間アリスになっちゃうじゃん”なんて思いながら口では「はぁ、安くなるんですねぇ」なんて応えていた。
 私の心の中にはマーチンしかなかったんだけど、そんなこと言ったら笑われそうだったから当時マーチンの正規輸入代理店だった東海楽器のキャッツアイを選択肢にしてたわけ。
しかも4万円というのには訳があって、CE400という4万円のモデルからギターの表板が合板ではなく1枚板の単板になるわけ。そのモデルを狙っていたのだ。
 音がいいとか悪いなんてわからないんだから、スペック上で優れているものしかないのだ。
もっと高いモデルになれば、ネックも1本の木からの削り出しになるが、このモデルでは合板だった。しかし、そんなことを言っていたらキリが無い。
 店員に「キャッツアイのCE400は?」と告げると顔色をちょっと変え、「キャッツアイ?ああ、ありますよ。こっちです」なんて奥のほうに連れて行かれた。
ギタースタンドに立てかけられていたCE400。カタログに穴があくほど見たモデルだったが、実際に見ると神々しく見えた。

 ポジションマークはドットではなく戦前のマーチンに見られたスノーフレイク。ネックやヘッドに白いバインディングが施されておりボリュートは無い。ペグはグローバーのコピーモデル。マーチンのD28とD35を合わせた妙なコピーモデルだけど、いい音がしそうなモデルだった。ギターケースを付けてもらって3万5千円くらいだった。
 クラシックギターから持ち替えるとネックが細く、弾きやすく、難なく音が出る。気分も良く、学校に早速持って行った。
放課後、みんなで集まり、ギターを弾く。
キャッツアイを弾く友人は一人もいなかったことに優越感。いや、それより肉体労働のアルバイトで金を作って買ったギブソンJ45DXを弾いていた友達。
私のギターを弾き一言。「俺のより鳴る。なんで~?」
そりゃそうだ。あの頃のギブソンのJ45ってスクエアボディの全然人気の無いギターで本当に酷かった。新品でも波打ってたペラッペラッのマホガニーなんて鳴るわけがない。

 さて、私のキャッツアイのCE400。
まだまだ現役。さすがにフレットはなくなっていて、デッドポイントも2~3箇所あるが、それなりの音をだす。生産から35年超えて、いい意味でエイジングされているのだ。やはり、マーチンのリアルコピーだけあり、胴の厚さから出る音の大きさは年を経る毎に深くなっている。
それから、このギター、家でちょっと鳴らすためにいつも出しっぱなしにしているから弾く頻度は一番高い。これも鳴る要因だ。
弦を張りっぱなしにしてネックも反らず、でかい音がする。これぞ鳴るギターである。
 でも、フレットを打ち換えてまで使おうと思わないんだよね。人前に出すより自分の部屋でがんばっていればいいギター。最初のフォークギターは大事に最後まで弾いてやるのだ。

2014年2月4日
花形

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