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【それでも未来は明るい】映画『デジモン02 THE BEGINNING』ネタバレあり感想

映画『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』完成披露試写会に行ってきました。


⚠️過去作をほぼ知らない人の感想です
(過去作に思い入れの強い方が読んでもあまり参考にならないと思います)
⚠️映画本編の展開やセリフなどガッツリネタバレしてます。未見の方、ネタバレが嫌な方は絶対読まないでください。
⚠️8割くらいはルイくんについての感想で、過去作や過去映画についてはほとんど言及してません。
⚠️肯定8割、気になったところ2割くらい
⚠️試写会で一度観た後に書いた感想なので、ところどころ記憶が曖昧です。

🍜個人的に良かったところ


●全体のテンポがとてもよかった


ルイくんとウッコモンの掘り下げを序盤にやってくれたので、ずっと謎を抱えたまま物語が進む…みたいなフラストレーションがなかったです。
02組がルイくんの過去をヒアリング(回想混じり)しながら、現在の時間軸では予断のならない状況が続く…という構成なので、場面が適度に切り替わり、退屈せずに2時間楽しむことができました。
限られた尺の中でも02組それぞれの良さは描写されていたように感じましたし、初登場のルイくんにフューチャーしつつも、02組も大切にしたい製作陣の配慮が伝わってきました。
作画も演出もクオリティ高かったと思います。
ルイくんの過去周りは特に、怖いほど真に迫った描写で固唾を呑んで見入ってしまいました。(たぶんお子さんが観たら怖くて泣きますね)


●デジモンと人間の描かれ方


・無印・02において、デジモンは少年少女を常に肯定してくれるパートナーであり、自分自身を映す鏡だと思っているのですが、今作でもその辺りが顕著に描かれていたなあと思います。
・生い立ちゆえにいつも自分を守ってくれる友達がたくさん欲しいと望んだルイ、ルイが望むものはなんでも叶えたいと全てを与え続けたウッコモン。お互いが本当に望むものが何なのか、自分自身が本当に欲しいものが何なのかを理解しないまま、2人が一緒にいたことが最終的に最悪の決別に繋がってしまったのかなと思います。
望む者と与える者という、一見正反対な2人でしたが、自分自身の望みが分からない・相手のことを知ろうとしないという部分で未熟な2人は、お互いを映す鏡のように描かれていたと感じます。
パートナーデジモンと向き合うことは自分と向き合うこと、他者と関わることで自分の中に抱えた問題を解決しなければならないというのは、デジモンが今も昔も描きたいテーマなのかなと思いました。

●デジヴァイスが消えるという結末
●消えゆくデジヴァイス・D3を、それぞれがパートナーとともに穏やかに見つめるラストシーン

おそらく今作では歴代ファンからの賛否が一番分かれるシーンだと思うのですが、個人的にはよかったと思います。
子供の頃に遊んだ玩具はいつか壊れるものですが、一緒に遊んだ思い出までなくなるわけじゃない。作中でヒカリちゃんが「私たちとデジモンの絆は作られたものじゃない、築き上げてきたもの」だと言ってましたが、絆の象徴を失っても変わらない関係でいられると全員が自信を持っていると、ラストシーンからは伝わってきました。
デジヴァイスを失った世界でも変わらない絆がある、というのはある意味ではわたしたち大人に向けた前向きなメッセージなのかなと思いました。
玩具で遊ぶ子供からはいつかは卒業しないといけないし、大人になったら常に肯定されて庇護される立場ではなくなる。それでも、玩具を通して培った他者との関係や、成長していった自分自身は消えない。子供時代との訣別は誰にでも訪れるものであり、決して悲しいことでも辛いことでもない。
象徴が消えても共に過ごした思い出は消えないし、自分の中にある思いは変わらない、人は何歳になっても何度でもやり直せるという、大人になった今だからこそ響く前向きなメッセージだと個人的には思いました。
ルイ役の緒方さんが、今作の田口監督は雪の演出がとにかく素晴らしいとおっしゃってましたが、ラストシーンも消えていくデジヴァイスの光が雪のようでとても綺麗でしたね。


🍜個人的なキャラ所感

●京さんってこんなに可愛かったっけ?(失礼すぎる)ってくらい可愛かったです!
見た目はバリキャリメガネ美人なのに、喋ると少女のように無邪気で表情がコロコロ変わるのが可愛らしく、今作で一番観ていて楽しかったです。いつも明るくて周囲にも気配りができて、本当に良い子だなーって改めて思いました。(高校出たら垢抜けて爆モテするタイプですよね…)

●ヒカリちゃんは今も昔も清楚な美人さんで変わらずって感じでした。子供の頃は他の子とは違う神秘性に憧れて一番好きなキャラクターだったのですが、大人になってから観ると、良くも悪くもどこか変わった感性の子だよなーと。
ルイくんの過去を聞いて、真っ先に「ウッコモンがかわいそう…」って言ったところとか。ルイくんの視点で過去を見ていた自分にはすぐには出てこない言葉だったので、子どもの頃から彼女の自分にはない感性に憧れていたのかな…と感慨深くなりました。浮世離れした雰囲気と、控えめで優しいけれど根っこには芯の強さもそなえているところが彼女の魅力だと思います。

●大輔さんの猪突猛進に強気に突っ走るところ、子供の頃はクラスの苦手なタイプの男の子とダブってちょっと苦手だったのですが、今見ると裏表なく情に厚いというのは代え難い長所だなあと思いました。ルイくんの過去を見て、息子を虐待するルイくんの母親に対して「あれでも親かよ!!」と乱入しそうな勢いで激昂するシーンなどはとっても良かったです。

02組が決して一枚岩ではないというか、窮地に立つとチームの中でも意見が割れることが肯定的に描かれていたのも個人的に良かったです。
京さんが「思考することを止めちゃだめ!」と言っていたように、メンバー全員が思考停止せず、思ったことを遠慮なく発言出来るのが彼らの良さなのかなあと改めて思いました。

🎂ルイくん
緒方恵美さんがキャスティングされた理由が大変よくわかるという感じでした。叫ぶシーンや苦悩するシーンが大変多く、緒方さんの熱演があってこそのキャラクターだと思いました。
彼は閏年生まれということなので、作中で5回目の誕生日を迎え、ちょうど20歳になるということですね。登場時から全てに諦めているような、物分かりの良さを演じているような大人びた雰囲気を漂わせつつも、内面はとても繊細で純粋。
「子供時代からの卒業」というのが本作では描きたかったテーマの一つなのかなあと個人的には思っているのですが、「大人」と「子供」のちょうど中間に位置しているのが上手く表現されたキャラクターだなあと思いました。作中での描かれ方がとても丁寧でしたので、映画を観た人はきっと皆彼の心に寄り添えるのではないかなと思います。


🍜びっくりしたところ


●結構怖い
●ウッコモンがコワかわいい枠
●戦闘シーンが少なめな印象

前述した通り、ルイくんの過去周り、特にウッコモンとの出会いシーンからはずっと不気味さが漂っていてびっくりしました。こんなにホラー演出に力を入れるとは。ウッコモン、声や動きは可愛いのですが、隠しきれない不穏さというか得体の知れなさがずっと怖くて見事な描かれ方でした。

ルイくんの過去周りを丁寧に描写したためか、戦闘シーンはそこまで多くなかった印象です(個人的な体感です)。
でもまあ、デジモン02といえばジョグレス進化というイメージが強いので、ハイクオリティ作画のジョグレス進化を見せてもらったので特に不満はないです。(むしろ、戦闘シーンばかりで誤魔化さずに脚本で見せたい部分をしっかり描いてくれたことが好印象でした)


🍜気になったところ


・ルイくんの過去と解決方法
・終盤に向けての展開がやや駆け足
・あまりにも真っ当に終わるのでそこまで意外性や驚きがない

●ルイくんの過去が悲惨すぎる
そもそも衣食住が満足に与えられておらず、母親から虐待を(おそらく日常的に)受けている4歳児に全知全能の力を与えたらなんでも望むに決まってるし、彼の場合は情緒不安定な母親と2人で暮らしてたわけだから、友達(自分を全肯定してくれる存在)ができるだけたくさん欲しいと願ってもなんら不思議ではない。あの当時の彼の環境を考えたら、「世界中の人と友達になりたい」という彼の願いは責められることではないと思うんですよ。

今まで誰も与えてくれなかった最低限の幸せを初めてくれたのがウッコモンなわけで、与えられるものが正しいものなのかという判断や責任の所在を当時幼かったルイくんに求めるのはなんか違くない?って個人的には思いましたね。
もっとウッコモンと会話をして自分のことを理解してもらって、同様に相手のことを理解すべきというのは本当にその通りなんですが…。
あの状況下だとルイくんにとってのウッコモンは友達というよりは親に近い存在だから、4歳の子供に与えられるものを疑えというのはやっぱり酷な話だと思いました。(全ての子供は衣食住が保証されて親又はそれに対応する存在から無償の愛を与えられるのが当たり前だと私は思っているので)

ルイくんが自らの過去と向き合うシーン
過去に戻ったルイくんが自分から母親に声をかけ虐待を止め、再び出会えたウッコモンに「僕は何もいらない」と静かに答えるシーンは、演出やセリフはとても良かったのですが。やっぱりあのシーンだけで解決してしまうには4歳のルイくんを取り巻く状況があまりにも過酷すぎる気がしてしまいます。
被虐待児が虐待加害者である母親と向き合うことを正しい判断として描いて良いのか?とも思ったし、そもそも寝たきりの父親と精神的な疲弊から我が子への虐待に走る母親って、ルイくん1人の力ではどうにもならない状況すぎるんですよね。ルイくんがウッコモンに頼るのをやめたところで幼い彼を取り巻く環境は果たして改善するのか…?という疑問は残るし、ウッコモンと出会わず、なにも望まなかった世界でルイくんが果たしてちゃんと大人になれるのか?どうなってもそれが自分の本来の運命だから…とルイくんがそこまで受け入れた上で何も望まないことを選んだのならそれはそれで現実の残酷さもあっていいのですが、映画ではそこまでは示唆されていなかったのでやっぱりもう少し解決パートの尺が欲しかった気がしてきます。
ルイくんやウッコモンのキャラクターが序盤で丁寧に掘り下げされていただけに勿体無さを感じました。
ただまあ、このシーンで本当に描きたかったのは母親との対峙ではなく、『20歳という大人になったルイくんが自らの子供時代と向き合って成長すること』だったのではないかなと思います。
誰かに頼り守られる存在ではなく、誰かを救い守ることができる存在となることを『大人から子供への成長』として描きたかったのではないでしょうか。大人になったルイくんが守ったのは子供時代の自分…というのはエモくもあり切なくもありますね。(重ねて言いますが、子供時代の彼は間違いなく守ってくれる他者を必要としていて、ウッコモンの能力が規格外でやり方が間違っていただけで、他者に助けてもらわなければ彼は死んでいのは事実なので…)
肯定的に捉えるのなら、(やり方はともかく)ウッコモンによって助けてもらい成人まで生きることができたルイくんが、今度はウッコモンに出会う前の幼い自分を助ける…とすることによって、ウッコモンのした事は間違ってはいたかもしれないけど無駄ではなかった(少なくともウッコモンのおかげでルイくんは大人になれて、昔の自分を助けることができた)という希望の描写だったのかな?とも思います。

「その子は、あなたのことが大好きだから」という見知らぬ人間の言葉を受けて虐待をやめる母親といい、映画全体に良くも悪くも希望的観測で描かれている部分があるんですよね。(でも、その希望的観測で描かれている部分があるからこそ全体の雰囲気が暗くなりすぎていないと思うので…決して悪いことではないと思います)
このシーンのルイくんのセリフは個人的にはとても好きです。(環境的に致し方ないとはいえ)4歳の頃は自分の気持ちを他者へ上手く伝えることができなかったルイくんが、(息子と認識されていないとしても)子ども時代の自分の気持ちを母親に伝えることができた。他者に自分の気持ちをうまく伝えられるようになったというのは、彼にとって大きな成長だと言えると思います。
虐待されていた苦い経験は確かにルイくんの中に残っているはずで、過去に戻って当時の自分の痛ましい姿を見せられてもなお、母親に「あなたのことが大好き」と言えるルイくんは、とても優しくて愛情深い子だな…と切なくなりました。

全てが終わった後のルイくんは片目を失っており、デジヴァイスも消えてしまった。
彼自身はもう、守られて与えられてばかりの子供に戻ることはできない。それでも、手元に唯一残ったウッコモンのデジタマを見つめるルイくんの表情がどこか晴れやかなのが印象的でした。
デジモンはデリートされたらデジタマとして転生し、生まれ変わることができますが、人間も、たとえ大人になっても、過去には戻れなくても、何度でもやり直すことができるということをこのシーンで伝えたかったのかなと思いました。


🍜作品の裏テーマと込められたメッセージ

●今作の裏テーマは「卒業」
子供時代からの卒業、「自分を無条件に肯定してくれる存在」からの卒業、そして作品においてはキーアイテムであるデジヴァイス・D3からの卒業

おもちゃで遊んでいた子供時代からはいつか卒業しないといけない。でもそれは終わりではない。
子供には戻れなくても、大人になれば自分自身に出来ることも選択肢も増える。
大人になった未来は、決して恐ろしいものでも暗いものでもない。そんなことを感じさせてくれる作品でした。「子ども時代からの卒業と、未来への希望」というのが、今作で描きたかったものなのかなと思います。
無印のキャラ達が名前しか出てこない!とか、もっと02組の活躍が見たかった!このキャラの解釈が違う!とか、きっと人によっていろんな感想があるとは思いますが、少なくとも、『デジモン』である必要性がちゃんとある、ファンに対して真摯な作品だったなと思います。

本作のタイトル「beginning」の意味は「始まり、起源」
おそらく世界で初めてデジモンのパートナーとなったルイくんを表しているのだと思いますが、彼の『選ばれし子供』としての本当の始まりは、ウッコモンと再会した時なのかもしれません。

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