Web小説発掘記 その279 市立スパイ学園の生徒会長〜『天使殺し』の英雄が、国家転覆を図るまで〜 作者 かんひこ様

本編URL

https://kakuyomu.jp/works/16818023214001578035

前書き

この記事は作品のネタバレを含みますのでご注意。
こちらの記事はあくまでも筆者の個人的意見です。
評価の基準としては200円~700円前後の書籍を購入し、読んだものとして付けさせていただきます。そのため基本的には厳しめとなります。
※こちらは『第十二話 急襲』までを読んでの感想、レビューとなります。

あらすじ

 ――フェイ先輩、許して下さい

 軍事独裁国家アルトベルゼの治安や秩序を守り、現政権を維持するべく作られた極秘組織『セントラルシティ特別市立特殊工作員養成学園』……通称『学園』。
 その生徒会長フェイ・リーは、数々の達成困難な任務を成功に導き、“五大湖の天使”と呼ばれ学園のみならず国内の工作員全てから信奉されていた。
 一年前、彼女が隣国に亡命し、愛した者の手によって暗殺されるまでは。

 アラタ・L・シラミネ。
 恋し、憧れ、慕っていたフェイを自らの手で殺め、その功によって生徒会長の席に座った青年は、その罪の意識と諦観に苛まれる日々を送っていた。
 そんなある日の任務の最中、彼は一人の少年と邂逅する。

「おれの名前はジェームズ・F・リー。フェイ・リーは、おれの姉です」

 かつて焦がれるほどに恋慕し、この手で自ら殺めた人と瓜二つの顔を持つ少年との出会いが、止まったアラタの時間を否応なしに突き動かす。

 出逢いと別れ、信頼と裏切り、愛と絶望――。 
 独裁国家の政争と時流に翻弄された青年は、やがて総統暗殺に追い込まれていく。

「……大好きです。愛しています、フェイ先輩」

 これは、愛する一人の少女の“意志”を成し遂げる為奔走した、ある青年工作員の物語……。

ストーリーと見所

学園を舞台にしたスパイ小説。
物語は主人公が処刑されるところから始まり、過去に遡っていく……。

世界観や世界情勢がかなり作り込まれており、それらの説明部分がかなり多い。
ただし作者さんの文章が上手いからなのか、そういった部分は上手くまとめられているようにも思える。

大きな流れに翻弄されながらも、散りばめられた『先輩』の謎を読者が主人公と一緒に追いかけていくような形となっている……。

なんかそこはかとないメタルギア味があるので、特にその手の作品が好きな人にはお勧めかも。

……なのだがまぁ、実はこちらの小説、とても優れている尖った部分とちょっと読んでいて厳しい部分があって。

なんと言うか、嫌な言い方をすると設定資料を読んでから3部作ある映画の2部をいきなり見せられているような……。

作者さんと登場人物の中では設定やキャラクター同士の相関図、果ては恐らくキャラクターの過去や詳しい事情までしっかり固まっているのだろう。

それはとてもいいことなのだが、どうにもその辺りに関してあまり説明というか読者が知る間もないまま話がずっと続いていく。

なのでこちらとしては各キャラクターについて、何となくふんわりとしか理解することができない。

『なんかそれっぽいキャラクター』といった解像度のまま話が進んでいくので、どうにも物語に感情移入することが出来ず、何処に焦点を合わせてストーリーを楽しめばいいのかがブレてしまっている。

そういった事情もあってか、物語の中でも重要なファクターとして語られる『先輩』という人物に対しての温度差も、主人公達と読者の間で生まれてしまっているようにも感じる。

とはいえ、物語としては謎を追っていくような形でもある。

実際のところ、その辺りに関しては敢えてやっている可能性も否定できない。

そういった部分を含めて全て伏線であっても不思議ではないような、そういった物語全体の雰囲気作りには成功している。
そういった意味では、今後主人公達を追いかけていき真実が明らかになっていくにつれて、色々とわかっていくこともあるだろう。

なんにせよ現状で全てを判断するのは早計かもしれない。
文章はとても上手く、世界観についてもとても魅力的で他ではあまり見ない良さが確かにある。

ミリタリー風味の作風や、何処か陰のあるストーリーが好みの人などは是非読んでみるといいだろう。

キャラクター

アラタ・L・シラミネ

主人公。
一見クールだが、それなりに冗談も通じる。

任務では冷徹だが、後輩相手には割と砕けた態度を見せることもある。
何やら影のある人物で、『先輩』を殺めた過去を引きずっているようだが……。

総評

評価点

世界観はかなり綿密に作られている。

また文章はとても読みやすく、かなり重厚な雰囲気を出しながらも引っ掛かりは殆どない。

そういったこともあってか、世界観の説明に関してもそれなりの分量はあるのだが、読んでいてそれほど苦もなく受け入れることができる。

各キャラクターの設定に関してもかなり深くまで作り込んでいるであることが読み取れ、その辺りも作品の魅力の一つ。

問題点

大まかなところは上で書いた通り。

主人公達のことも今一つわからないのに、視点が飛びがちなのが厳しい。

最終評価 48点(普通に楽しめるWeb小説)

重厚な世界観と文章が魅力的な小説。

上では色々書いたが、物語としてはまだ途中。今後話が進んでいくにつれて情報が開示されることでまた変わってくる部分もあるだろう。

特に世界観の作り込みと表現、そこから伝わってくる陰のある雰囲気に関しては人によってはかなり魅力的に感じる部分。

そういった優れた点を多数備えた、先が気になるミリタリー小説。

所要時間は『第十二話 急襲』までで凡そ25分ほど。

極めて個人的な感想

あらすじとか、世界観とかはとても魅力的。

なのだけと、少しばかりとっ散らかり感とキャラクターに対する先走り感が否めない。

ただし作中にある様々な謎や、最終的な主人公の行きつく先などその辺りが明らかになることでぐんと良さが増す可能性は充分にあり得る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?