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AIのべりすと様による戦争と老人と記者と政治家

世の中に不穏な空気が溢れてきた。
他国では戦争が始まり毎日の様に悲惨なニュースが流れてくる。
国内世論は大いにざわつき、様々な意見がネット上を飛び交う。
政権は軍備増強と増税を閣議で決定し、国会でも議論になった。
その度に野党から「徴兵制の導入」や「憲法9条の改正」など憲法改正の議論が巻き起こる。
しかし、与党も野党も一歩も引かず議論は平行線を辿るばかりだ。
そんな中、私が所属する新聞社に一本の電話が入った。
それは、戦争で家族を亡くしたと言う老人からのものだった。その老人は電話口で言う。

「戦争は二度としてはいけない。大切な人が次々に死ぬのが戦争だ。今の政治家達は戦争の悲惨さを知らないんだよ」

その声に私の胸の中の何かが動いた。直接会って話しを聞きたい。私は新幹線に飛び乗った。◆◆◆
12月の東北は雪に包まれていた。白い息を吐きながら私は老人ホームへと向かう。
私は施設の人に案内され、応接室へと通される。そこには一人の老紳士がいた。

「あなたが電話で話していた記者さん?」

「はい。そうです。はじめまして」

「どうぞ座って下さい」

私は勧められるがまま椅子に腰掛ける。すると、すぐにお茶が出された。
私がお茶を一口飲むと、老紳士も同じようにお茶を口に含んだ。

「このお茶美味しいですね」

「えぇ。良い茶葉を使っています」

何気ない世間話は自然に彼の体験した戦争の話へと移る。彼の一言一句を全て記録しなければ……私はペンを走らせた。
◆◆◆
彼は長男であり徴兵されることはなかったが、弟さんは徴兵され日本から遠くはなれた戦地に送られた。
お弟さんは戦死されたそうだ。戦場での日々はとても辛かったらしい。
日本に残った彼自身も毎日のように空爆を受け、敵兵に追われ命からがら逃げ続けたとか……。そしてついに敵に捕まり捕虜となったのだそうだ。
彼が捕らわれたのは捕虜収容所ではなく敵軍基地だったらしく、敵の兵隊達に拷問を受けたり暴行されたりして酷い扱いを受けたという。
捕らわれた仲間達は次々と殺されていき、自分だけが助かり解放された時には絶望しかなかったと言っていた。

「あの時は本当に地獄の様な場所へ送られましたよ……」

老人はその瞳の奥に強い怒りの色を浮かべているように見えた。まるでテレビに映る政治家達を睨みつけるように……。

「今でも夢に見ます。死んでいった仲間たちの姿を」

彼の話を聞きながら、私の胸にある想いが沸き上がっていた。

「この話を世に伝えなければ」

◆◆◆
老人の戦争体験は平日の夕刊に記事として掲載された。戦争に反対する彼の想いは大きな反響を巻き起こした。
SNSでも話題となり、戦争反対と肯定の意見が飛び交い、考えの異なる人同士が醜い言葉で争うことも度々あった。
そんな中で、1人の政治家のSNS上での発言に日本中の注目が集まった。

「お国を守るためなら戦争も辞さない覚悟だ」

反響は大きく、この政治家の発言はすぐに拡散されていった。その発言に対し多くの人から非難の声が上がった。当然だ。
政治家は自分の息子や孫まで犠牲にするのか?そんな事を言っておきながらも、自分の娘や息子の結婚相手には甘いのではないか?
結局は何を犠牲にしても政治を優先したいという事ではないか。国民のためにと言いつつ国民のことなど何も考えてはいない。ただ権力を振りかざしたいだけだろ! 
批判する人の数はどんどん増えていく一方だ。そんな中、新聞社に1通の手紙が届いた。差出人はあの老人だった。
手紙の中で政治家の発言に対する想いを次のように綴っていた。

「私は平和を愛しています。愛する人といつまでも一緒に暮らして行きたいと思っていましたが、今は叶わぬ願いになってしまいました。だからこそ、私は戦争を憎むのです。
しかし、今の日本には私のような思いをしている人が沢山いるはずです。
どうかお願いします。戦争だけは止めてください」

私はこの手紙を編集長に渡した。手紙を読んだ編集長の動きは早く、その日のうちに全国紙に掲載が決まった。
そして、次の日。朝刊には一面にこの記事が掲載された。
その日から連日の様に、各地でデモ行進が行われるようになった。戦争法案反対と書かれたプラカードを掲げた人々が国会前に集結し、その人数は日に日に増えていった。
しかし、彼らの主張に耳を傾ける者は少なく、マスコミの報道もほとんどされない。野党議員ですら聞く耳を持たない状態だ。

「やはり無理なのか?」

私の言葉に先輩が答える。

「そりゃあ、あんな奴らの話を誰が真面目に聞こうと思うかっての。」

「でも、このままじゃ戦争が始まるんですよね」

あの政治家に会って話をしたい。
私に迷いはなかった。
◆◆◆
国会議員会館入口で入館手続きを済ませ、指定された部屋に到着したのは約束時間の30分前。少し早く着いてしまった。心なしか膝が震えている。心臓がドクンドクンと激しく脈打つ。
深呼吸をして気持ちを整えようと試みるも、緊張のせいでうまくいかない。
落ち着け、大丈夫、私はできる。自分に言い聞かせるように呟く。
しばらくして、扉の向こう側からノック音が聞こえてきた。私は慌てて立ち上がり、背筋を伸ばす。
失礼しまーす、と間延びした声と共にドアが開く。そこには白髪の男性の姿があった。
彼は戦争も辞さない政治家。

「はじめまして。今日はよろしくお願い致します」

私は頭を下げる。すると彼は微笑んで言った。

「こちらこそよろしく」

私は政治家に、あの老人の話をした。頷きながら話を聞き終えた彼は私にこう答えた。

「ありがとうございます。よくわかりました。その方は大変なご苦労をしてこられましたね。でも、それは無駄な努力ですよ。何故なら今現在進行形で戦争の準備が進められているからです」

私は言葉を失う。どういうことだ?
政治家は続ける。

「我が国は隣国から攻め込まれる恐れのある状況なんです。だから、万が一に備えて準備を進めているところなのですが、残念ながら皆さんはそれをご理解されていない。私は、日本を守るために仕方なく戦争をするしかないと考えている。そのためにも憲法を変えなければならない。国民にきちんと説明して納得してもらう必要があるのです。
もちろん、国民の皆様の安全を守ることは第一優先事項であると考えてます。そのために自衛隊を強化しているのです。」

「ふざけないでください!」

思わず叫んでしまった。

「何が国民の安全ですか!戦争が始まれば人が死ぬんです。家族が、友達が、恋人が、貴方は何も知らない!
爆風で飛び散った自分の内臓をかき集めながら愛する人が目の前で死ぬんです!銃で目を撃ち抜かれた兵士が母親の名前を呼びながら死ぬんです!冷たくなった我が子を抱き締めながら親が銃に撃たれるんです!政治家ら上級国民が安全で裕福な暮らしを保証されている間にな!」

「君は戦争を知らないじゃないか」

「そうですね。俺は戦争を知らないし体験もしていない。でも、知っている人がいるんだ。俺よりずっと年上の、その人のおかげで戦争反対の想いを持つことができた。その想いを伝えなければ、この国は変わらない。もう二度と過ちを繰り返すわけには行かないんです!」

再び秘書が小声で政治家に耳打ちする。軽く頷いて彼は腰を上げる。
私は叫ぶ様な声で彼にすがり付く。

「待って下さい、貴方は政治家ですよね、一番大切なことを聞かせて下さい!貴方は国民のための政治家ですよね!」

政治家は微笑みながら答えた。

「特別に良いことを教えてあげましょう、国民なんてものはね、所詮、国の道具にすぎないんだよ。国と政治家のために働くのが国民の役目であり、それが幸せな人生なんだ。私は自分のためだけに生きているわけではないよ。国と政治家が平和であればそれでいい。平和になれば私は幸せになれる。君だってそうだろ、平和な世の中が好きだよな。」

私は無言のまま彼を見つめた。
彼の笑顔が跳ね返ってくる。
秘書が告げる。

「先生、お時間です」

「では、また」

政治家は私に背を向けたまま手を振り、部屋から出て行った。
残された私は呆然と立ち尽くすしかなかった。◆◆◆
後日、私は編集長に呼び出され、編集長の部屋を訪れた。

「お前、この前の記事のことだけど、どうなった?」

「反響がどうであっても思いは変わりません。私は知り得た真実を正しく伝えようと思います。編集長にはご迷惑をお掛けする事になると思います」

軽く頷いて編集長が笑う。

「ははは!新聞屋ってのはな、昔から変わらねえのよ。小説家を目指すお前なら知ってるよな?立松和博大先輩をよ!自分に嘘はつくなよ」

編集長、知っていたのか……
ありがとうございます。
それから私は毎日のように国会前に通い詰めるようになった。
そして、戦争法案が衆議院を通過した日の夜、私の足は自然と国会前に向かっていた。
◆◆◆
数日後、あの老人から手紙が届いた。便箋には次のように綴ってあった。

「前略
先日は突然のお電話申し訳ありませんでした。あなたから頂いた言葉を噛みしめ、私なりに考えさせていただきました。
結論から言えば、私はあなたの望むような行動を取ることはできないでしょう。しかし、私は私の意思を貫こうと考えています。たとえその結果、私が命を落とす事になろうとも、先の戦争で命を落とした大切な人達を思えば後悔するものではございません。
あなた様もどうかご自身の信じる道を歩まれてください。
草々 

追伸
もしよろしければ、次の日曜日、国会議事堂前でお会いできませんか。そこで、もう一度だけ、私と話をしていただくことは可能でしょうか。ご返事は直接会っていただいた際にお願いできれば幸いに存じます。」
◆◆◆
迷いはなかった。
日曜日のスケジュールを確認してから手紙に書かれたあの人の名前に向かってお辞儀をした。

おわり

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