見出し画像

水道唱歌 (下水道篇)

「流す」ボタンを押しやりて
出立つ遠きは我が旅路
共に流れしペーパーの
解れし繊維を友として

暗き管路を下り来て
たどり付きたる処理場の
先ずは濾したる金網の
錆びぬ光は金銀か

昼夜問わずに増減す
流れを貯むる原水槽
見渡す姿に比類なき
巨き躯体の頼しさよ

長き鎖を咬み切りて
後に待ちたる仲間等に
後は頼むと未練無く
務めを果たす酸生成

酸素断ちたる其の中に
秘める使命は燃えぬとも
濁りを清き水明に
先鋒鋭き嫌気槽

唸るブロワー高らかに
踊る水面に立つ泡よ
微細な命の営みに
我が身を任す心地よさ

深く湛える水なれば
上澄み清く耀きて
超えるは天下の剣に似て
幾重に尖る越流堤

ここまで辿りし旅なれど
化学の術に捕まりて
深きに沈まん君はまた
何処に行かんいざさらば

中継槽へは乗替と
惜しむ別れも如何にとや
沈まぬ此の身は水なりき
新たな旅路をいざ行かん

槽に満ちたる濾材にて
微々たる塵も濾したれば
心も清く澄み渡り
足取り軽く身も踊り

僅かに呈す色なれど
是より先はそれさえも
否よと厳しき定めとは
慈悲にもあらぬ次亜塩素

炭殻満ちたる塔のなか
残る次亜塩預ければ
闇より抜けし両の目に
眩し光と白雲よ

居並ぶ計器で測りたる
値に十全異議無くば
厳しき定めも守りぬき
放流槽に進みけり

ゲート開きて堰過ぎて
おもへば夢か時のまに
幾多の処理をはしりきて
澄みし我が身に技の恩

抜けなば更に乗りかへて
せせらぎ弾み進ままし
海に注ぎて潮にのり
七つの洋をいざ行かん

愉完

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?