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淫魔屋敷・拾参話

〜淫魔屋敷〜

吉原より送り込まれた三人の遊女。
彼女達を屋敷で抱けるという噂はすぐに広まった。
通常、遊廓においては「ヤる」まで面倒なプロセスがあり、初会(初顔合せ)、裏返し(また来たよ〜)、の後に馴染み(そろそろ…)のような仕来たりに従わなければならない。

良い女に相手してもらうとなると、相当な金額を使わなければならなかった。

だが、この屋敷においてはフリーでの花代(相手の掲示するチップ)のみでやれると聞いて、常連はおろか新規の客まで遊女達になびいていった。

「あら〜また来たの〜」紀美

「会いたくて(ヤりたくて)、また来ちゃった!」男1

紀美

「アンタも好きね〜」葵

「お前も好き物だろ〜」男2


  

「どうぞ、お好きになさって…」紫緒

「ぐへへ…んじゃ、遠慮なく」男3

紫緒

遊女達の男の扱いは、流石というべきか連戦錬磨の卓越した行為へのいざないは見事だった。
色恋のイロハを教え込まれ、いかに自分の価値を最大限に発揮し高めていくか、客に自分を評価させどれだけ金をむしり取れるか…

気づけば手持ちの金など空っぽ、借りてきてでも遊びに来る始末。
遊廓では、そんな男たちがあとを経たなかっただろう。


「あ〜疲れた。ちょっと誰か肩揉んでよ!」紀美

「純さ〜ん、お茶持ってきて欲しいんだけど〜」葵

「……」純

「あっ、私がお持ちしますから。どうぞ、純ちゃんはお店の方を…」梅

「大丈夫、アタシがお目付け役だから」純

「あと、葉煙草ね〜」紀美
 
「私達のキセルも持って来といて〜」葵

「はいはい…」純

遊女達は店に金も入れずに、我が物顔で屋敷の住人をこき使っていた。

「ちょっと、あの態度ヒドくないですか!」お蜜

「音子と莉々の手前、示しがつかないね!」久美

「は〜…でも、今は堪えて。麗子の考えあってのことだからさ…」純

「あの…もしよければ、私と新人ちゃんの三人で世話させて貰えないでしょうか?」梅

「えっ?平気なの?」久美

「平気かどうかはわからないけど、何か勉強になることもあるかも知れないし…」梅

「そう…梅達がそれでいいなら頼めるかな…」純

「はい、演奏の練習してる二人にも伝えてきますね」梅

「後ろ盾は私がちゃんとするから」純

「はい、お願い致します」梅

私は出過ぎたまねと分かっていたが、彼女達の世話を自ら引き受けた。

一人二人と仲間が減って、それでも屋敷を守ろうとお客さんを呼んで、せっかく新しい仲間が入ったというのに問題勃発なんてゴメンだからだ。

一人一人が自分の役割を全うする。
そうすれば、必ず困難な局面でも打開できると信じているから…
この面子なら、きっと大丈夫。

 
「ちょっと〜!茶と煙草まだ〜?!」紀美

「はいー!ただいま〜!」梅

この時、紫緒は一人でとある物を台所にて確認していた。

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〜大部屋〜

麗子が音子と莉々に、琴の弾き方を見せている。

「ここの弦をもってね…こう弾くの」麗子

「凄い…綺麗な音ですね〜」音子

「ちょっと練習してみて」麗子

「はい!」音子
(ビヨ〜ン〜)

「莉々は…お着物変えようか?」麗子

「虚無僧のままじゃマズいですよね…」莉々

「若いから、もう少し明るいのをね…」麗子

「でも、これしか持ってきてなくて…」莉々

「お店の貸してあげるから、着替えな」麗子

「ありがとうございます!」莉々

少しずつ屋敷に馴染ませようと、麗子は二人に色々と手ほどきをしていた。

自分が過去にそうされてきたように、先輩女形に優しくも時に厳しく躾けられてきたように…

若い子は導き方によっては飛躍的に伸びる。
だが、教示する側が自らの保身の為に歪んだ伝え方をしたり、自分を誇示するような表現の仕方をしてしまうと彼らは瞬時にそれを見透かし、冷め、そして腐り、その場にとって何も役目をはたさない、殻に閉じこもった存在になってしまうであろう。

年長者や先輩は、「年下を守る」という覚悟を持って接することが出来れば、きっと彼ら彼女らも期待に答えてくれる事だろう。

はたして、梅にそれが出来るのだろうか…

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〜陰間茶屋〜

淫魔屋敷の姉妹店。
若衆歌舞伎の女形が多数在籍し、朝から晩まで男や女の相手をする。

女形をするうえで、大切な女としての仕草や心持を実体験として身体に刻み込ませる修行の場ともされている。

年の頃は殆ど十代の少年たちで構成されており、中途半端な花魁よりも高額の料金が設定されている。

この店でナンバーワンの小丸は、千両役者と称され、まさに一ヵ月でそれ程稼いでしまうほどのカリスマ陰者だった。

太客の太チンを受け入れる
小丸

一人で1日貸し切りにしてしまうような太客も多数かかえ、陰間茶屋と淫魔屋敷を一人で支えるような大看板的存在の小丸。

しかし、彼もまだ十代の男であることは変わりない。

そう、小丸は普通に恋をしていた。

吉原遊女の紀美に…

「はぁ〜紀美に逢いたいな…」小丸

恋の悩みに困る小丸であった。

続く…





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