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#49 絶望

家に帰ったらもうかなり遅い時間だったのですぐにシャワーを浴びた。酔った体が熱くて、いつもより少しぬるめのお湯にした。

シャワーを終えると高梨さんからメッセージが届いていた。1枚の写真がつけられている。空になったカップヌードルの容器にお箸がつっこまれている写真。さっきあんなに食べて飲んだのにカップヌードルを食べたんだ。高梨さんがまた食べてる姿を想像したら思わず笑ってしまった。

「よく食べますね。太りますよ」

「食べても食べても営業で歩くんで、平気です。明日も10万歩ですからね」

「まさかそんなに歩かないでしょ」

「バレました? そんなに歩かないですよ。車ですから」

「とりあえず、ゆっくり寝てくださいね」

「はい、結城さんもね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

そんなちょっとしたやりとりをしながら私は自然と笑っていた。何も考えなくていい関係。ただ楽しい話をして笑える関係。なんて楽なんだろう。中山さんのことばかり考えて疲れ切っている心を洗い流してくれるような澄んだ水が流れてきた気分だ。気持ちが軽い。ベッドに入って目を瞑ったらあっという間に眠りに落ちた。

翌朝、すっきり目が覚めたからまた早めに家を出て1本早い電車に乗ることにした。中山さんのことを完全に考えていないわけじゃないけど、それでも無意味な憶測とか不安とかの感情を切り離せている気がする。もしかしたら、もう少し良い距離を持てるかもしれない。

そう思いながらオフィスのロビーに入った瞬間にまた後ろから声をかけられた。

「結城さん」

中山さんだ。中山さんが今日もまた少し早い時間に来たらしい。私は一瞬目を閉じ、一呼吸置いて、いつも通りの自分を意識しながら中山さんを振り返った。中山さんは穏やかな笑顔で私をまっすぐに見つめている。

昨日高梨さんと過ごしたから、たくさん笑ったから、月がすごくきれいだったから、すぐ眠りにつけたから、気持ちリフレッシュしたから。そんな言葉が頭を一気に駆け巡った。でもその言葉全てが一瞬で過去のものになる。

大好きな瞳、大好きな笑顔、大好きな声、大好きな中山さん。

圧倒的すぎて、絶望的だ。


875文字

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どの回も短めです。よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を最初から追ってみてください。さやかの切ない思いがたくさんあふれています。

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