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人生、7の倍数でハマったモンは一生擦るらしい

 ロリババァがわちゃわちゃ会話するだけ。

※当記事、及び関連する私の著作物を転載した場合、1記事につき500万円を著作者であるFakeZarathustraに支払うと同意したものとします。

※本作品に於ける描写は、現実的な観点での法的な問題、衛生的な問題をフィクションとして描いており、実際にこれを真似る行為に私は推奨も許可も与えません。当然、その事態に対して責任も負いません。

※フィクションと現実の区別の出来ない人は、本作品に影響を受ける立場であっても、本作品の影響を考慮する立場に於いても、一切の閲覧を禁止します。

※挿絵はDALL·Eを用いています。


「よし、初動で五十万再生超えた!」

 先輩の茅さんが喜んでいる。
 今年七百六十二歳の大先輩の狐さんだ。
 こう見えてボカロPとしてちょっとばかり有名人だったりする。

 と言っても、私はイマイチその辺がよく分からない。
 何かインターネットで凄い事らしいけど、やっぱり分からない。
 パソコンとか怖くて触れない。

「お、茅、皐月、何してるの?」
「あ、ほのさん。今、茅さんが五十万再生超えたって」
 ほのさんはもはや紀元前の古狐。2092歳で雲の上のような存在だけど、気さくに話しかけてくれる。
「茅、私も聞いたよ。敢えて七十年代のロックっぽくしたのいいよね」
「あー、そうなんだよねぇ。最近、ロックって感じじゃないみたいに言われてムカって来たんだよね」
「割と懐かしいビートって感じなのに、程よく今風なラップ曲の感じも入ってて好きだよ」

 二人が何を言っているのかイマイチぱっとしない。と言うか、全く分からない。

 私が生まれたのは1919年。"板垣死すとも自由は死せず"の年だ。
 戦争中、"稲荷山"に掘った防空壕に焼夷弾が落ちて、みんなして蒸し焼きになる中、必死で祈ったら狐の子となっていた。
 山と言っても古い古墳だ。
 狐となって初めて見た世界は、焼け落ちていく帝都の姿だ。
 国が漸く終わるのだなと思った。

 全てに無情を感じて、私は稲荷社に籠もって祈りの日々を過ごしていた。
 先輩達はそれをそっとしておいてくれたのだ。

 そして近頃漸く外に出る気が起きたのだ。
 あの日から八十年近く経ち、漸く気持ちに整理がついたのだ。
 ほのさんと茅さんは特に私を目に掛けてくれる。

「ほのもなんか嬉しそうじゃん」
「いやぁ新しく買ったレンズがもうじき届きそうでさぁ」
 ほのさんがニコニコしている。
「ほのってカメラ凄いよねぇ」
「そうでもないよ」

 カメラならなんとか分かりそうかも。
「撮ったら自分で現像するんですか?」
 勇気を出して質問してみた。
「あっ、あ、うん……ROWで撮る派だからね」
「ろ、ろぅ?」
 やっぱり何も分からなかった。
「ほのぉ、多分皐月、フィルムカメラの話してるよぉ?」
「えっ!? えぇ? 私、何か間違っちゃいましたか?」
 焦る私に、「そうかぁ、皐月分からないかもねぇ。今は全部デジタルなんだよ……デジタルって、うーん、電気で記録するって感じかな」と説明してくれる。

「皐月、ほの、いくよー」
 振り返ると茅さんがスマホってヤツを私達に向けた。
 カシャ!

 カメラの音がしたらすぐに画面を見せてくれた。
「ほら、こうやっていきなり見られるんだよ」
「へー、便利なんですねぇ」

「皐月もスマホぐらい持ちなよ。教えるからさぁ」
 ほのさんもスマホを持ち出して見せてくる。
「なんか難しそうで」
 戸惑う私に二人は迫ってくる。
「そんなことないよ、ちっちゃい子供でも使いこなしてるし」
「最近のことを知るなら、これが一番だよ」
 そう言って、文字だらけの画面が出てくる。
「こうやってー、色んな人が、自分の事を話すんだよ。それを皆が見て、面白いなって思ったり、為になるなって思ったりしてね」
 ほのさんが画面を動かしていく。
 そしてふとした所で止めた。

「へー、人生、七の倍数の歳にハマったものを一生擦るんだって?」
「ふーん。そうかぁ」
 お二人が納得しているけど、ハマる? 擦る? よく分からない。
 また勇気を出して聞いてみる。
「ハマるって言うのは、無茶苦茶好きになるってことかな? 擦るってのは、同じ事を何度も繰り返すみたいなことだよ」
 ほのさんに言われて、私も使ってみる。
「えっと、境内の掃除にハマって、毎日箒で擦る?」
「うーん……なんか違う……」
「そ、そうなんですね……」
 気落ちしてしまう。
「こういうのは慣れだから。
 皐月も何かハマるものが出てくるよ」
「そう言うものでしょうか?」

 私とほのさんが会話している間、茅さんは何か考え事をしていた。
「あのさ、ミクちゃんの発売って2007年じゃん? その歳、私749歳なんだよね……」
 恐ろしい事実を知ったみたいな顔をしてる。
「おー、凄いじゃん」
「ほのもそうなんじゃない?」
 そう言われて、ほのさんはスマホをいじり始めていた。

「あっ! そうだ、カメラ入ってきた歳からハマってるけど、その歳って1911歳だったんだよね」
「うわーっ! こわ!」
 えっ!? えっ!? 怖いことなの?
 戸惑う私を余所に二人は盛り上がる。
 私はまた置いてけぼりだ。
「そうだ、皐月、皐月って今年105歳じゃん?」
「じゃん?」
「そうそう、七の倍数じゃん!」
「は、はぁ」
「絶対何かハマるものあるって!」

 何があるだろう……
 考えてみても思いつきそうもない。

「あっ! そう言えば、文ちゃんの誕生日って来週だよね? って言うか、三度目の還暦じゃない?」
 私の少し上の先輩だ。私も一応、髪飾りを買っている。
「あーん、茅はおっちょこちょいだなぁ。私はしっかり買ったよ! 真っ赤なランジェリー」
 ほのさんが大笑いする。
「それ、セクハラじゃない?」
 茅さんが険しい顔で尋ねる。
「私は偉いからいいの!」
「パワハラまで加わったわ」
 そう言って二人大笑いしている。
「それは業腹ですね?」
 よく分からないけど話を合わせると。
「皐月、いいこと言うねぇ!」

 そうして三人で笑った。
 そこに配達屋さんがやってきた。
「お届け物でーす!」
「お、届いたな?」
 ほのさんがほくほくしている。
 いいなぁ。ハマるものあるなんて……

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