【全年齢版】ケモミミ少女になったのでエンタメで覇権を取りたいと思います②

 あるおっさんが、目覚めたらケモミミ少女だった話。


 それから配信を始める。
 キャノットへの賛辞と、柿をくれたご婦人への感謝、今日、声を掛けてくれた人たちへの祝福。
 それらを述べてから話を始める。

 話すことは秋が深まり、気候がよいことと、今日の突き抜けるような青空のことから始まり、この辺りがまだ湿地と草原だった頃の話をする。
 全く記憶にないことのはず、知らないはずのことがスルスルと出てくる。
 人の暮らし、自然のこと。
 人が田畑を耕し、豊かな暮らしをしていたこと。
 そのような話をした。

 そして、私の歌がリクエストされる。
 昨日とは違う歌を。
 これも平和と豊かさを望む祈りの歌だ。

 再び眼前が懐かしい景色へと変わる。
 身体が軽く、風になったような気持ちで歌い上げる。
 己の歌で己が浄化されているかのような気分になる。

 そして、コメントは喜びと感謝の嵐だった。
 癒やされる。疲れが消える。気持ちが晴れる。
 目に付く限り、視聴者を喜ばしていたようだった。

 そのような反応は嬉しく。自分も嬉しいと言う事を語る。
 それは本心からだ。

 かつての自分がそのような性分の人間だったかと言われれば、確かにそんなことはない。
 でも、明らかにその当時の自分から陸続きの自分も心が躍る。
 嬉しい。楽しい。
 この欲動は自分の今までの人生では得られなかった事だ。

 人を喜ばせたい。幸せにしたい。
 こんな事を正面切って言う人間を、かつての自分は信じなかった。
 そんな人間に自分がなるとは思えなかった。
 でも、今はそれが当然のことに思える。
 それこそが人間のあるべき姿だし、それに真っ直ぐ向いている気がしている。

 自惚れているかも知れない。
 こうあっても、配信者だし投げ銭も貰っている。
 こういうのを偽善と呼ぶ人もいるだろう。
 でも、そうあっても、妾は人の幸せを願わずにいられない。

 妾は、人々の幸せを願い配信を閉じた。

 配信の収益について云々言うのは何か違う気がするが、しかししっかりした金額が入っている。
 それはいきなり一万円を放り込むようなタイプのものではなく、多くの人が、百円、二百円と投げていくものの集合だった。
 あとでその辺りを見返しても、大金を入れて妾の反応を見て喜ぶなんて人はいなかった。

 哀しい話だが、世の中には"労せず稼げる"と言う体験を与え、その後の人生を困難なものにしてやろうと言う人間がいる。そう言う趣味がある。
 若い女性に身体目当てでもなく近付く男性。年若い――むしろ子供とも言える配信者に多額の寄付をするお金持ち。
 金銭感覚を破壊する。
 そんな地の底のような悪意が世の中にはある。
 人間に対する恨みとかではなく、そのような人間が堕ちていく様を見るのが楽しいと言う人間がいる。

 妾の目の前に、そう言う人間が現れていないのは幸いなことだ。
 しかし、そのような人間がこの世の中にいると言うだけで、世の中が豊かであるとは言いがたい。
 戦うつもりはないが、しかしそれを意識せずにはいられない。

 しかし何はともあれ、目の前で手を伸ばし、少しでも幸福であろうとする人に対して、妾は祈らざるを得ない。
 そう、そうしないではいられないのじゃ。

 SNSでも視聴者への謝辞を述べる。
 しかし、これから何をすべきじゃろうか? 何が求められているのじゃろうか?
 妾が配信者として何らかの生計を立てるつもりであるなら、他と同じようにゲームをしたり何かをレビューしたり、そんなことも出来るだろう。
 妾に何か技術や知識があるのならば、それを広めるのも悪くないだろう。
 じゃが、そう言う何かが妾にはあるだろうか?

 悶々としながら眠りに就く。
 今日より明日が良くなるように願いながら。

 翌日、母上は仕事へと出掛けた。
 妾は夜の配信まで暇だった。
 朝配信と言うのもあるのかと思いつつ、完全に出遅れたし、さりとてそれで何をするとも決めていなかった。

 今日は考えよう。今日何をするか、明日から何をするか。

 部屋にいるのも違うと思い、稲荷神社へと出掛ける。
 今日は母上の代わりに掃除をしよう。

 稲荷神社は小さな社務所があるが、常駐の人がいるわけではない。
 特にこれと言ったお祭りがあるわけではない。
 精々大晦日に近所の人が集まって初詣の対応をするか、三ヶ月に一回ぐらい町内会の草刈りで集まるだけである。
 これでも積立金で修繕をしているので、社務所にせよ祠にせよ、荒れる事もなく、雑草が深く生い茂る事もない。
 じゃが、それでもお参りをする人がどれほどいるかと言えば微妙な案配である。

 母上が出掛けてからすぐに神社へと出向いたが、散歩している老人が立ち寄るぐらいじゃ。
 もっと早い時間――出勤前や朝のジョギングでお参りする人はいそうじゃが、明らかに時間を逸している。

 なので一言で言えば暇じゃった。
 立ち寄る老人が妾の仕事を労うぐらいじゃ。
 深く立ち入った話はしない。
 じゃが、妾が長寿と健康を願うと、素直に感謝してくれる。

 妾はこの神社のこの状況を憂えている訳ではない。
 ただ、もう少しぐらい賑わっても良いだろうと思うのじゃ。

 寺や神社はもっと人が集まる場所じゃったし、もっと普通に立ち寄って良いところじゃ。
 なんなら暇な老人が、コンビニで買った発泡酒を飲んで駄弁っていてもよい。
 それぐらいの自由さが欲しい。
 じゃが、今日日はお堅いことを喜んで口にする者も多い。
 なかなか難しい事じゃ。

 差し当たり、掃除自体は楽しかった。
 社務所の中に入る事は出来ないが、しかし水道は生きているので、掃き掃除拭き掃除がやれる。
 家から持って来た袋はすぐにいっぱいになる。
 ゴミを放り投げる不埒な人間もおるのでな。

 神社の前でゆっくりしている。
 暇そうと言えば暇そうだろう。
 昼ご飯は母上がお弁当をこしらえてくれた。
 それを食べてひと段落。

 何をするでもないのじゃが、こうしてゆっくり腰を落ち着けて考え事をするのも悪くない。
 何をしたら視聴者は喜んでくれるじゃろうか?
 やっぱりゲームじゃろうか? 人気のあるものを探してやるのも悪くない。
 じゃが、本当にそれは求められているのじゃろうか?
 考えても答えは出ない。

 掃除は神社の周辺にも及ぶ。
 神社は本当に小さな神社だから、周囲と言ってもそんなに広くない。
 一つのブロックを突き抜けて表と裏に道路がある。
 正面側は片側一車線で狭い歩道が片側にある道路。もう片方は路地じゃ
 落葉やゴミを拾う。
 竹箒で掃いていく。

 その姿にカメラを向ける人がいた。
 尤も、いきなり人にカメラを向ける無礼者ではない。
 年若い女性が、その体格に見合わぬ大きなカメラを持ち、「お写真撮ってもいいですか?」と尋ねる。
 何も悪い事はない。
「好きに撮るとよいぞ」
 そう言って、妾は掃除に戻る。
 その姿を彼女は丹念に撮影する。

 カメラの音が何となくカメラっぽくない。
 否、カメラらしい音ではあるのじゃけど、世間で聞く如何にもカメラっぽい音とは違った。
 レンズも大きいし、上から覗いて撮影している。
「変わったカメラじゃのぉ」
 妾が話掛けると、「そうなんですよぉ。古いカメラでお気に入りなんですぅ!」と喜んでいる。

 彼女と色々な話をした。
 街角の風景をこのカメラで収めているのじゃという。
 カメラマンとして食べていきたいそうじゃが、そのような学校を出たわけでもないし特にコネもない。
「本当なら……何処かのプロに師事するとか、スタジオで仕事をするとかが正しい道なんでしょうね? でも、そういう風に完全に飛び込んでいく勇気もないんですよね。
 自分が天才だと思えるほどでもないですし」
「少しずつでも前を向いて歩むのは悪い事ではない。
 最短距離が最善の道とは限るまい。
 お主はお主の歩みで夢へと向かえばよい」
 妾はそのように良い、彼女の行く末を祈る。
「現像したらプリントしてお渡ししますね!」
 彼女は笑顔で帰っていった。

 彼女が立ち去った後、小学生の一団が通りかかる。
「おぉ、すげぇ!」
 小さな男の子が妾を見つめる。
「こら! やめなさい!」
 そのお姉ちゃんとおぼしき女の子が手を引っ張って行く。
「お主、妾の耳が気になるのか?」
 そのように問いかけると「さわっていい?」と尋ねてくる。
「勿論じゃ! じゃが、引っ張るではないぞ」
 妾はしゃがむと、男の子は妾の耳に優しく触れる。
 女の子はもじもじとしているので「お主も触るとよかろう」と促すと、恐る恐る手を伸ばした。

 二人に耳をもふもふとされていると、後続の小学生が現れる。
「あー、ずるい!」
 一人の男の子が叫んだ。
 妾は言う。
「ずるくない!」
 その子は妾の言葉にしゅんとする。
「お主、これはずるではないぞ。
 お主はどう思っておるのだ? 羨ましいと思っているなら素直に羨ましいと言うがよろしい」
 そう問いかけると、「尻尾に触っていい?」と言うので、優しく返事をする。
「妾の身体なのだから優しくするのじゃぞ?
 それと、人に容易にずるとか言うではない。
 言いたい事を素直に言うだけで、お主はもっと上手くやれるのじゃから」

 同級生とおぼしき他の子も誘い、三人が妾の尻尾に抱きつく。
「あったかーい」
「もふもふ」
 と喜んでいた。

 妾と子供たちが戯れていると、通りすがりのパトカーが止まった。
 巡査の一人が「大変ですね」と笑いかける。
「子供は国の宝じゃからな。大切にせねばならぬ」
 そう言うと、もう一人の巡査が子供たちに言う「あんまり困らせてはいけないよ」と。
 子供たちは「はーい」と素直に立ち去った。
 そして妾が掃除に戻ると、「ご苦労様」と言ってパトカーも去っていった。

 中学生や高校生も通り過ぎる。
 悪い子達ではなさそうじゃ。
 妾が声を掛けると、恥ずかしそうに立ち去る子や、元気に「すっごーい! 尻尾もふもふじゃん!」と喜ぶ子もおる。

 私の尻尾や耳を触って帰っていく子もいるし、二三言葉を交わす子もおる。
「妾は幸せを願っておるからな」
 そう言うと「ありがとー!」と喜んでくれる。
 素直な子が多い。
 いいことじゃ。

 夕方になって母上が帰ってくる。
 妾は家に戻り、今日一日の事を話す。
 すると母上は言うのじゃ。
「今日話すことが決まったね」
 と。

 その日の配信は、母上の言ったとおり、今日の出来事を話した。
 自分でもこんなに饒舌に話せるものかと驚くばかりじゃ。
 コメント欄には「ほっこりする!」とか「守りたい日常だ」とか言う話が流れていく。
「皆の一つ一つの小さな努力が、世の中を良くしていくのだからな。
 皆の幸を祈らざるを得ない」
 そして、リクエスト通りに歌を歌う。

 どれほどの人が聞いているのだろう?
 同時接続数を見ると信じられない数になっておった。
 コメントは嵐のように流れながらも、決して諍いの起こる雰囲気ではない。

 そして最後に皆のこと世の中の事を祈り、配信を閉じた。

 遅い夕餉に母上と話す。
 母上は会社で若返ったんじゃないか? と言われたらしく上機嫌じゃ。
 妾から見ても、確かに妾がこの姿になったあの時よりも、ずっとずっと溌剌として若さが滲み出ていた。

 妾が母上を褒めると、母上も喜ぶ。
 そして、「絢香ちゃんの可愛さには負けるけど」と言って笑った。

 翌日、とあるニュースサイトの記者と言う人から連絡を貰う。
 個人勢で、開始初日に収益化なんて偉業だと言うのじゃ。

 悪い人に思えなかったので話をすることにした。
 第一報はネットでのやり取りで申し訳ないが、継続して取り上げたいので、後日取材したいと言う話までしてくれた。
 そこまで熱心なら大丈夫だろう。

 妾は素直に質問に答える。
 母上を楽させてあげたいことや、人々の幸せを願っていること。
 そして、今後どうしていくか悩んでいること。

 記者はそれを素直に聞くし、むしろこちらの悩みの相談にも乗ってくれる。
 彼は職業柄、様々なストリーマーと話をするようで、そのお陰で、有意義なやり取りが出来た。

 夕方は子供と戯れ、そしてそれらのことを夜の配信で話していく。
 視聴者は記事を楽しみにしていると言ってくれるし、記事が発表されればすぐに伝えると約束した。

 母上は今日も上機嫌じゃ。
 今日は記者のことと、家事のことだけで手一杯だったので、神社の掃除は満足に出来なかった。
 母上と一緒に神社に行く。
 大切なことじゃからな。

 それほど特別なことはないまま日々は過ぎていく。
 少しして、記事が掲載された。
 話を脚色することもねじ曲げる事もなく伝えてくれる。
 妾の宣伝もあって、記事のPVが凄く伸びたらしい。

 週末になり、母上と一緒でいられる時間が出来た。
 嬉しい。母上の幸せな顔が見られるだけで嬉しい。

 大須へと出掛け、パソコンショップへと顔を出す。
 店長はあれから商売が上向きだと笑う。
 全ては妾のお陰だと言ってくれる。
 祝福の言葉を継げ、街を楽しむ。
 行く先々で歓迎された。
 キャノットのことが噂になっているのかも知れない。

 妾が店に立ち寄ると繁盛する。
 それは確実な事なのかもしれない。
 どの店に入るのか。それは何となく分かる。
 人がいい店は、その入り口の時点で分かるのじゃ。

 良い人、良い店、良い商売。
 全ては自然に引き寄せられる。
 ご飯に服に雑貨に。商店街を歩いて目に付いた店は、それが趣味とはかけ離れていようと立ち寄った。
 そして、それは必ず正解じゃった。

 SNSでは妾の話で持ちきりじゃ。
 商店街の人波も増えたような気がする。
 妾を見た。声を掛けられた。写真を撮った。
 みんな喜んでくれているようだった。
 祝福の言葉を掛けて喜ばない人はいない。

 母上はどんどん元気になっている。
 実際の年齢よりずっと老けて見えていたのに、今や年相応の。否、それ以上の容姿にまでなっておる。
 母上は「絢香ちゃんと一緒にいるのが、しょぼくれたオバサンじゃ嫌じゃない?」と笑う。
 綺麗になっていると伝えると、母上は喜んで抱きついてくる。
 そう言うのも含めて全部が嬉しく楽しい。

 配信でもお世話になったお店はもれなく宣伝し、何が良かったのかを述べていく。
 素直に良かった。楽しかった。それを口にするだけで、人々は喜んでくれる。

 夜は約束した洋食屋さんに出掛ける。
 店主が話しかけてきたので、昔のことを話す。
 親父様は引退して、今は老人ホームにいるそうじゃ。
 妾は、先代と遜色ない味だから胸を張って言いし、先代にはお主が立派に成長したのを先代に誇ったっていいと伝える。
 先代の味、今の店主の味。どちらも妾の心を解きほぐしてくれるし、どちらも心躍る味なのじゃ。

 妾が舌鼓を打っている間に、店にはどんどんお客が入ってくる。
 一気に大忙しになる。
 妾と母上が退店するとき、忙しいだろうに店主は顔を出し、深々と頭を下げてくれた。

 配信でこのお店の話をしないではいられまい。

 翌週から妾は近所のお店を巡ることにした。
 午前中に家事を済ませ、昼は良い店に顔を出す。
 午後から神社の掃除をして、飲食ではないお店で頑張っているところを励ましにいく。

 歓迎される店、歓迎されない店、入り口の時点でその区別はついていた。
 でも、兎に角入ってみる。
 言ってみれば、コスプレしたガキンチョみたいなものじゃ。冷やかしなら帰れと言われるのも仕方がない。
 ただ、それでも妾のことを可愛いと喜んでくれるお店もあれば、話し相手になってくれるお店もあるのじゃ。

 配信では今日の散歩の話、神社の話、出会った人、話した事。
 そう言うのを拾っていく。
 単調な日常で話す事なんかないと思っていたのに、意外に楽しくお話しが出来る。

 ある日、神社の掃除をしていると、この前のカメラの女の子がやってきた。
「引き伸ばしましたよ」
 彼女が持って来たのはA4より少し大きなサイズの写真じゃった。
 その写真は空気感まで写し込んでいるような素晴らしい写真で、ひと目で釘付けになってしまう。
 妾は「凄い! こんな素晴らしい写真、戴いちゃっていいのか?」と驚くと、「その代わり、個展に来てくれますか?」と聞き返した。
「勿論、絶対に行くぞ!」

 彼女は一枚のフライヤーを手渡した。
 場所は市内の市民ギャラリーじゃ。
 一日単位で展示室が借りられる。市内在住ならば誰でも借りられる。
 彼女は「抽選がやっと当たったんです!」と喜んでおる。
「夢が一歩進んだな」
 妾が褒めると、「まだまだこれからです!」と照れた顔をしていた。

 その日の放送では、写真を見せたり、個展の宣伝をした。
 彼女のSNSには沢山の美しい写真があったけれど、日常風景故に見過ごされていたのじゃろう。
 宣伝する前は、いいねがせいぜい百五十程度だった。じゃが、放送後に見に行くと既に千を超えておる。

 翌日、彼女は焦ったようにやってきた。
「凄いことになってますよ!」
 彼女は妾が配信をしている事を知らなかったようで、昨日のコメントでそれを知ったのじゃ。

 彼女は恐縮して謝るけれど、妾はその姿が面白く見えてしまう。
 悪いと断りつつ笑うと、彼女は素早く写真を撮影した。
「これも個展に出しますからね」
 彼女はかわいくむくれた。

 その辺りからだろうか。
 妾が祝福した店は繁盛すると感じられるようになったのは。

 例えば例の洋食屋さんは、口コミで評判が広がるし、近所の天ぷら屋さんはもともと人気のある店だったが、更に知名度を上げた。
 妾とあれこれ楽しい話をしてくれた可愛い雑貨屋さんも、お客さんの姿をよく見るようになった。

 繁盛ばかりが幸せではないじゃろう。
 じゃが、それでもいい方向に向くことはある。
 実際、おじいちゃんのやっている小さな本屋さんは、最近孫が手伝うようになって、店の雰囲気が随分と良くなった。
 体調不良でお店を締めがちだったお好み焼きのお店は、近頃具合が良くて、毎日でもお店を開けるのだと喜んでいた。

 皆がそれを妾のおかげだと言ってくれる。
 妾がしたことは祈ることだけじゃ。
 本当にそれぐらいしかできぬし、してきていない。

 お店に訪れるお客さんが、皆、妾の配信の視聴者とも限らないようじゃった。
 とは言え、妾をひと目見ようと神社に訪れるリスナーも出てきた。

 こういう時、行儀の悪い連中が訪れると言うのが、世の常ではあるのじゃ。じゃが妾が何か言うまでもなく、善良な者が注意喚起をしてくれる。
 それも独りよがりなルールではなく、人として、それも良き行いを知る者としての意識の話であった。

 神社を訪れた人々は、妾の手伝いをしてくれるし、差し入れも持ってきてくれる。
 神社も活気が出てくるようになったのじゃった。

 季節は過ぎていき、冬も近いある日曜、約束通り、カメラの女の子の個展にやってきた。
 しばしば宣伝してたのも功を奏して、人の入りはとても良い。
 妾の写真が大きくプリントされていて、とても恥ずかしい気持ちになる。
 母上は「素敵な写真ね」と喜んでいた。

 勿論、妾の写真だけが素晴らしいだけではない。
 街中のちょっとした風景が、哀愁や旅愁を感じさせる。
 特別な被写体ではなく、その風景、その人物、建物や小物。そうした一つ一つが美しく写し撮られているのじゃ。

 彼女は照れつつも、妾のおかげで大成功だと喜んでいた。
「お主の写真が良いからじゃよ」
 そう言うと私の手を握り、泣き出してしまった。
「まだまだこれからじゃろう?」
 妾が言うと、涙を拭いつつ「そうですね」と笑った。

 彼女がその後、写真に於いて大成するのじゃが、それはまた別の話ではある。
 しかし、それでもこの街を大切にしてくれるし、妾との付き合いも大事にしてくれる。

 この個展のときのオリジナルプリントが、後に凄いことになっているが、それで手放したと言う話も聞かない。

 なんにせよ、妾が写真で感動したこと、彼女との縁について、あれこれ思い出を語った配信は、彼女の飛躍の一助になったのは確かではあった。
 じゃが、その手柄をどうにかして主張したい訳ではない。
 妾でも人の役に立てるのだと言う、その小さな事実の方が妾には重大で重要なことじゃった。

 勿論、それを意識したからと言って、妾が人々の幸福や平和や豊かさを願う気持ちに変わりはない。それは本当に自然に湧き出てくる感情じゃった。

 妾の中の知っている自分と知らない自分の二つはじっくりと融合していく。
 しかし、それは不幸なこととは思えぬし、それじゃからと言って、母上との記憶が薄れることもない。
 今じゃって、母上と昔話で盛り上がったぐらいじゃから。


えっちな完全版(有料&R18)はこちら
https://note.com/fakezarathustra/n/nfe0c1900774b

全年齢版とR18版の違い
https://note.com/fakezarathustra/n/n8a1f872357e9

その他有料作品たち
https://note.com/fakezarathustra/m/m389a3dfe4580

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