マガジンのカバー画像

「World Is Myself」

18
連載中のWorld Is Myselfの投稿を纏めました。
運営しているクリエイター

記事一覧

「World Is Myself」第17話(第5章)

「World Is Myself」第17話(第5章)

**第4幕**

 空を仰ぐと、薄い雲と青く染まった晴天。

 仮想空間での天気は、事前に半年分の予定情報と1ヶ月分の確定情報が公開されているのでスケジュールを立てやすくなっている。

 その為、この天気は偶然ではなく決められたものだ。未来がわからないドキドキがなく、決まった天気になるのは嬉しくも悲しくもある。

「でも、今日は晴れてよかった」

 待ち人のことを思いながら、わたしはつぶやいた。今

もっとみる
「World Is Myself」第16話(第5章)

「World Is Myself」第16話(第5章)

**第3幕**
2038年4月11日

「ひゃっほー!!」

 コウが楽しそうに、バイクを爆速で乗り回している。速度は200km近く出ていて、暴れるように揺れる本体を見事に乗り回している。

 今いる場所は、後に娯楽エリアと呼ばれるようになる最も人が集まる予定の場所だ。様々な施設や山や川など、現実世界で娯楽として利用されている
オブジェクトを設置して、楽しむことに特化したエリアとなっている。

 

もっとみる
「World Is Myself」第15話(第5章)

「World Is Myself」第15話(第5章)

**第2幕**
2035年1月10日

「こらアライくん!どこに行くの!」

 スピーカーから、女性の声が鳴り響いた。
 そこは、さまざまなPCや測定用の機械やヘッドギアが並んだ研究室の様相をした部屋だった。中央にMRIのような大きな機械が2台あり、片方にだけ女性が横になっている。大型モニターに先ほど、大声で叫んだ女性のピンクの髪にラフな格好をしたアバターが写っており、怒りで眉間に皺が酔っている。

もっとみる
「World Is Myself」第14話(第5章)

「World Is Myself」第14話(第5章)

**1幕**

「わたしは、貴方だよ」

 目の前の女性の言葉に、わたしは顔をしかめた。

「意味がわかりません」

 当然だ。わたしは、1人しかいない。
 同じ顔をしているからといって、同意するつもりはない。

「もう一度聞きます。貴方はどこのどなたですか?」

 女性は、ふふふ、とわたしの言葉を一笑した。そのタイミングでわたしたちの様子に気づいたスノウちゃんが割って入ってきた。

「さち様、下

もっとみる
「World Is Myself」第13話(第4章)

「World Is Myself」第13話(第4章)

**第5幕**

 風を切る音、水を弾く音が入り混じった音が耳に届いた。雑音とは違って、自然の音は耳障りがいいので心地よく聞こえる。

 左右を見渡すと、並んでいる木々が残像を残して視界から消えていて、自然と遠くに見える景色に視線を送ってみるが、特に目的もなければ思うこともない。

 視線をバイクに戻すとモニターに目的地まではあと90分はかかる想定となっている。このまま、黙ってバイクの動きに身を任

もっとみる
「World Is Myself」第12話(第4章)

「World Is Myself」第12話(第4章)

**第4幕**

「私は、自分のことを名前以外覚えていないの」

 女性はそう確かにそう口にした。
 女性の申し訳なさそうな表情を目にしながらも、わたしの胸中が荒れるのを感じる。

 足元から力が抜けて一歩後ろに下がった。

 母本人だからと言って、何か話をできると思っていたわけでもない。それでも、何も覚えていないと言われるのはきつかった。

「わたしのこと、全く身に覚えがないですか?」
「ごめん

もっとみる
「World Is Myself」第11話(第4章)

「World Is Myself」第11話(第4章)

**第3幕**

「せーかいは、せーまいー♪せーかいは、おーなじー♪せーかいは、まーるい♪ただひーとーつー♪」※1

 軽快なリズムで私が大好きな歌を口ずさむ。
 子どもの頃、お母さんに教えてもらった曲だ。

 世界というものを意識していなかった頃の私は、この歌を聞いて思った。

 世界とはなんだろう?
 大好きなお母さんがいる場所?
 この青空が続く果て?

 分かんない分かんない分かんなーい♪

もっとみる
「World Is Myself」第10話(第4章)

「World Is Myself」第10話(第4章)

**第2幕**
 建物の外に出ると建物の前は広場になっていて、広場を囲むように茶色の煉瓦造りの建物が並んでいた。見える建物は概ねお店が並んでいて、多くの人が行き交い活気が溢れている。

 顔をあげると、どこまでも続く雲と真っ青に
彩られた空が広がっていた。

 遠くには、青々と木々が生い茂る4、500mほどの高さの山や遠目にも4階建てはある大きくて綺麗な学校、その他にも色んな施設も視認できる。基本

もっとみる
「World Is Myself」第9話(第4章)

「World Is Myself」第9話(第4章)

**第1幕**

 母親との思い出の中でもっとも記憶に残っているのは、小さな頃に風邪をひいたときだ。

 手を握り、「大丈夫だ、ママが付いてるからな」と声をかけてくれる姿は母親然としていた。

 それが何歳だったのかは記憶が定かではないけれど、心臓病に侵されてからは会うのが週に1回程度になったかと思ったら気づいたら両親が離婚して母親は姉と何処かに行ってしまった。

 父親は仕事に没頭し、使用人の沙

もっとみる
【#創作大賞2023】「World Is Myself」第1話(第1章)

【#創作大賞2023】「World Is Myself」第1話(第1章)

***第1幕***
吹き抜ける風が心地よい。
坂道を自転車で一気に駆け下りている。
スピードの出しすぎても気にしない。
坂道の終わり直前でブレーキをかけて急カーブ、車道に飛びだしつつ走り続ける。
目的地である賑わいのある港町には海沿いの道を走ると到着する。
街には学校があり、わたしはそこに通う女学生だ。
10分ほど走って着いたその町では、道行く人が声をかけてくれた。

「よお、さーちゃん今日も元気

もっとみる
「World Is Myself」第2話(第2章)

「World Is Myself」第2話(第2章)

**新和20年8月10日**

これから、何かある度にこうして日記を書く事にしました。
気持ちの整理とわたしの希望である未来のわたしに向けて、
想いを綴りたいと思います。

 昨日はワンダーランドというワールドへ初めて行ってきました。
 そこは、わたしの学校がある港町のアイランドから北に向かったところにあって、なんと現実と繋がっているワールドでびっくりしました。

 そこで、ワンダーランドを作った

もっとみる
「World Is Myself」第3話(第2章)

「World Is Myself」第3話(第2章)

**第2幕**

 カノンさんのことを知ったのは、わたしが7歳のときだった。
 病気の発症後で部屋にこもって、徐々に思うように動かなくなっていく身体に気持ちが負けそうになっていた時期だった。

 そんなわたしの支えの1つとなっていたのが、音楽、特にカノンさんの元気で楽しい気持ちが溢れるような曲が大好きだった。
 ひまわりが咲いたように弾ける笑顔が素敵で、仮想空間で行われる過去のライブを追体験できる

もっとみる
「World Is Myself」第4話(第2章)

「World Is Myself」第4話(第2章)

**第3幕**

 仮想空間での痛覚について、正確な数字はあくまで仮説だが、約5分の1と言われていて死んでしまうような痛みは発生しないように上限が調整されていると聞いたことがある。

 その分、衝撃が強くかかるようになっていて、派手な見た目ほどの痛みはないので仮に数メートル近く人の体が飛んだとしても、身体的なダメージはそれほどではないはずだ。

 どうしてそんなことをわざわざ思い出しているかといえ

もっとみる
「World Is Myself」第5話(第3章)

「World Is Myself」第5話(第3章)

**第1幕**

夢を見ていた。
それは、過去の記憶。

私がまだ病気になっておらず、外で遊んでいた時の光景。
当時感じていた夏の暑さや草木の匂いが懐かしい。

あれから10年も経つのに、今でも思い出せる自分はすごいなと素直に感心する。

それは彼、浅田 雪(せつ)君との思い出。
彼の名前から、ゆきちゃんと私が呼ぶことを凄く嫌がっていたけれど、そんな彼の様子を見るのが凄く好きだった。

 笑顔を見

もっとみる