見出し画像

フランスのダイアトニック・ボタン・アコーディオンの配列

音楽学大学院生の週一アウトプット*38

*前回のアウトプットは筆者が度重なる試験にノックアウトしていたためスキップさせてもらった。たかが週に一度と言っても私のような豆腐メンタルの持ち主には完璧な継続というのは難しいものだ。

フランスで使用されているアコーディオンはG C配列が圧倒的に多い。これは、私自身が身をもって体験したことである。

「配列」というのは、どのボタンを押してどの音が鳴るか、の順番である。ダイアトニックアコーディオンは、基本的に蛇腹を縮めた時と引き伸ばした時は別の音が鳴り、普通はその差は全音である。その配列を表すのがこの「G C」だとか「C#D」だとかである。例えば、GDだと、G=ソの列とC=ドの列が二列配置されていることになる。ソの列は、つまりソから始まる音階が鳴るように、ドの列はハから始まる音階が鳴るようになっているのである。

私は普段はBC配列のアコーディオンをメインで演奏するのだが、自分の楽器をもってこなかった今回の渡仏ではフランス国内で楽器を借りようかと思っていた。そこで、フランス国内の中古楽器屋やアコーディオンショップに問い合わせたり、実際に赴いたりしてBCアコーディオンまたはそれに近い配列のアコーディオン、調整可能なアコーディオンがないか聞いて回った。

結果、返ってきた返答はこちら。

アコーディオンショップ店主「大体フランス国内ではsol-doの配列が80%ほどを占めると思いますよ。」
アコーディオニスト
「これまでフランスでsi-doアコーディオンを弾いている人を見たことは人生で2回だけだよ。」
「do-reアコーディオンだったらフランス産のものもあるけど、大半はsol-doだね。」
「最初は大概sol-doの配列のものから始めて、特殊な音楽を弾くとなった時に別の配列を注文する、という感じかな。でもsi-doは弾いたことないな。」

2023年10月調べ by Fall

と言った具合。ちなみに、フランスでは CDEFといった英語の音名はあまり使わずdo re mi fa sol ra si とイタリア音名を当てはめて呼ぶ。

話を戻すと、つまりフランスにはBCアコーディオンはほぼ存在しないと言っても良いくらいだということだったのである。ここで、そもそもなぜ配列にいくつも種類があるのかという疑問を抱く人もいるだろう。これはダイアトニック・アコーディオンならではの重要ポイントなのである。隣り合っている音が半音差ではなく全音、となると全音階(いわゆるピアノの音階)を鳴らす際のボタンの順番は少なからず複雑になる。ポイントはつまり二種類の全音音階をいかに並べるかということである。

もう察しの良い方はお分かりだと思うが、どんな音楽(どんな旋法、どんな奏法、どんな調性が多い音楽なのか)を演奏するかによってそれぞれの配置で演奏しやすさが変わってくるのだ。例えば、C#Dアコーディオンはアイルランド伝統音楽でよく使われる配置である。そして、アイルランド音楽には、DメジャーやGメジャー、Aドリアン、eマイナーの曲が多い。C#Dが多用されるのは、Dの列が基本となって、ほぼ全ての隣り合う半音がその近くに配置されるようにC#列をもっているこの配置でそれらの曲が弾きやすいからである。

私の使っているBC配列は、ピアノの最も近いダイアトニック・アコーディオンの配列と言えるだろう。なぜならC列が基本となってその半音隣り合ったB列が横に配置されているからである。ピアノの鍵盤と似ている。これは、半音音階を奏でられる、つまり出ない音がほぼないので様々な音楽に対応可能なのだ。それが私がこの配列を選んだ最大の理由だった。なので、フランスでも使われているのではないかと思っていた。しかし。

ここで、最初の題に戻る。フランスでは、GCが多いというのだ。私は、この配列のものをもっている知り合いに日本で2、3人あったことがあるが、GCという特殊な配列を施しているということは何か特殊な曲を演奏したいのだろう、くらいに思っていた。しかし、フランス国内シェア80%となればまた話は変わってくる。

フランスで演奏されるアコーディオン音楽にはどのような特徴があるのか。GC配列との関係性は如何なものなのか。

このことは、どの配列がどの割合で使われているかなどといった事実統計を調べるよりもはるかに複合的社会的要素が絡み合っていて断言するのは難しい。だが、同時に非常に面白い内容である。私はGC配列とフランス国内でのアコーディオンレパートリーは何かしらの関係性があると思っている。

今後、楽器探しとは別に演奏レパートリーにも着目していけば何かわかるかもしれない。今日はここまで。

FALL


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?