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音楽が分からなくなってきた音楽学の大学院生

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  • 音楽学大学院生の週一アウトプット

    音楽学を学ぶ大学院生がアウトプットのトレーニングとして週一で音楽に関わる何かしらを書いていきます。

  • おうちで楽しむアイリッシュ

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    セッションやケーリーだけがアイリッシュの楽しみ方?本を読んだり、動画を見たり、歴史を知ったり。アイルランドを知る方法は沢山あります。アイルランドをお家で知れるマガジン、はじめました。

最近の記事

1年間の週一アウトプットを振り返って

2024年明けましておめでとうございます。 現在2024年1月1日、フランスでこの記事を書いているのだが、本日日本時間の夕方、つまりこちらでは朝、能登半島で大きな地震があったようで、日本の家族や友人から知らせを受けた時に年初めの朝早くから13年前を思い起こし身の毛のよだつ思いをした。どうか被害が大きくならないことを切に願っている。 それはともあれ、ここではあれよあれよと過ぎ去っていった2023年の年初めにこのnoteで始めた「音楽学大学院生の週一アウトプット」を振り返り今

    • 宮城道雄『春の海』はなぜお正月なのか

      音楽学大学院生の週一アウトプット*432024年、明けましておめでとうございます。今年もよい年になりますように。 (内容に関係ないことではあるが、あえて「よい年にしましょう」よりもこの「よい年になりますように」というフレーズはよく使われるように思う。これは来たる運命を柔軟に受け入れて生きていこうという和な心があらわれているような気がして個人的には気に入っている。) 今回は、お正月シーズンということで、日本人なら誰もが耳にしたことがあるであろう宮城道雄の『春の海』についておさ

      • フランスにおけるJ Popのイメージ

        音楽学大学院生の週一アウトプット*42今回は、少し体験記のような内容を書いておこうと思う。フランスの「ヲタク」たちによるJPOPについての話である。 私は現在フランスでアルバイトをしているのだがその同僚たちはもちろんフランス人である。やはり一緒に仕事をしているともちろんみんな人間なのでコンディションの悪い日もあり口数が少ないことも多々ある。しかし、そんな彼らがタガが外れたかのようによく喋るところを目撃できた。 それは、夜にその同僚のうちの一人の家で数人で飲み会をした時のこ

        • 比較音楽学という領域

          音楽学大学院生の週一アウトプット*41 今週は、私の専門でもある「比較音楽学」についてその基本を文章に起こすアウトプットをしようと思う。(自分の分野である分、下手なこと書くと恥ずかしいので余計緊張する。) 私は、便宜上「民族音楽学(=ethnomusicology)」が専門であると言える。民族音楽学とは、その名の通り世界の音楽を社会学や民族学、人類学などの隣接領域の学問の方法を使って視点を定めて明らかにしていく学問である。この名前は、20世紀中旬以降の民族学を基調としたア

        1年間の週一アウトプットを振り返って

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        記事

          音楽が世界の共通言語ではないということについて⑥

          音楽学大学院生の週一アウトプット*40 このタイトルの記事も今回で締めようと思う。うまくまとめられる気がしないのだが、試みるだけはしてみようと思う。 前回の記事がこちら↓ 前回は、音楽が世界の共通言語であるという言説はどのような要素に起因しているのかということを音楽の受容スタイルに注目して展開してみた。それでは、今回はそれに対して、このシリーズ全体の主張である音楽が世界の共通言語ではないという主張を確認していこうと思う。 音楽は人々の作り出した文化の一つと言える。すでに

          音楽が世界の共通言語ではないということについて⑥

          音楽が世界の共通言語ではないということについて⑤

          音楽学大学院生の週一アウトプット*39今回はかなり前のアウトプットの続きを書いていこうと思う。 前回のものはこちらから↓ 前回のアウトプット(といってもかなり前の回になるのだが。)では最後に「音楽文化において受容者と供給者が異なり遠く離れてもその需要に答えている場合がある」と書いた。このように言い表すと周りくどくてわかりにくいかもしれない。しかし、このような場合というのは、現代の大衆音楽に当てはまる。 例えば、K-POPは世界的に人気を博している。現代において、音楽の市場

          音楽が世界の共通言語ではないということについて⑤

          フランスのダイアトニック・ボタン・アコーディオンの配列

          音楽学大学院生の週一アウトプット*38*前回のアウトプットは筆者が度重なる試験にノックアウトしていたためスキップさせてもらった。たかが週に一度と言っても私のような豆腐メンタルの持ち主には完璧な継続というのは難しいものだ。 フランスで使用されているアコーディオンはG C配列が圧倒的に多い。これは、私自身が身をもって体験したことである。 「配列」というのは、どのボタンを押してどの音が鳴るか、の順番である。ダイアトニックアコーディオンは、基本的に蛇腹を縮めた時と引き伸ばした時は

          フランスのダイアトニック・ボタン・アコーディオンの配列

          クラシック音楽でのエキゾチックへの関心とフォークへの関心②

          音楽学大学院生の週一アウトプット*37今回は、前回の続きを書いていこうと思う。 こちらが先週のアウトプットだ。 先週は民俗音楽と民族音楽が別物でありながら、共有領域があるという話をした。私は、クラシック音楽での歴史的な音楽理論以外への関心はすべてをエキゾチックへの関心としてくくるよりも、もう一つフォークへの関心というものがあるように思った。今週は、その感覚を少し展開して書いていこうと思う。 エキゾチックexoticとは、つまり異国風ということであり、フォークfolkはフォ

          クラシック音楽でのエキゾチックへの関心とフォークへの関心②

          クラシック音楽でのエキゾチックへの関心とフォークへの関心①

          音楽学大学院生の週一アウトプット*36クラシック音楽でも民俗舞踊の要素を取り入れることがある。その取り入れ方はさまざまである。例えば、ある地域で用いられている旋法を抽出したものを用いてみたり、あるいは民謡のメロディーをそのまま一部分または全体を反映させてみたり、など。 これは、異国に対する「エキゾチック」な要素を求める感覚と似たものを感じるが少し違う気がする。これは、民族音楽ではなく民俗音楽への関心である。民族音楽と民俗音楽は発音が同じだが指し示す内容は異なる。この違いは1

          クラシック音楽でのエキゾチックへの関心とフォークへの関心①

          フランスのアイリッシュパブセッションに参加してみた

          音楽学大学院生の週一アウトプット*35先日、私はフランスで初めてアイリッシュ音楽のセッションに参加してみた。私は渡仏前からアイルランドの伝統音楽が好きで、東京でのセッションは大学学部時代によく行っていた。2019年には、夏に行われるFleadh Cheoilというアイルランド伝統音楽とダンスのフェスティバルのコンペティションにも参加しにいった。毎年開催都市が変わるのだが、2019年はドロヘダ(Drogheda)だった。ボタン・アコーディオンで参加したのだが日本での予選から本国

          フランスのアイリッシュパブセッションに参加してみた

          Berliner Philharmonieでのコンサートで感じたこと 2023年9月10日

          音楽学大学院生の週一アウトプット*34 今日は、軽くコンサートに行った所感を書いておこうかと思う。私は、音楽学を勉強している手前、一般よりもクラシック音楽についての知識はあるはずだし、好きな作品も多いのでよくクラシック音楽のコンサートに行く方ではあるものの、実際のところその周辺情報はよく知らない。一般的な知識どまりで特に語れるほどの知識はないのだ。そんな私がベルリンの滞在でコンサートを選ぶ基準はとにかくBerliner Philharmonieのコンサートホールで開催されると

          Berliner Philharmonieでのコンサートで感じたこと 2023年9月10日

          ベルリンの楽器博物館にて悪魔の楽器に出会う

          音楽学大学院生の週一アウトプット*33 先日、同じ研究室の先輩に会いに、ベルリンへ訪れた。短い滞在期間だったけれど、たくさんの刺激があり、やはり気になったところには行ってみるべきだと改めて感じることのできた良い訪問だった。 さて、私がベルリンに行ったのは先輩がいたからということと同じくらいもう一つ大きな理由があった。楽器博物館である。 ベルリンは博物館が充実していて、私が大学学部時代に学芸員の資格を取るために博物館学というものを勉強した際にも、博物館における分類法の特徴

          ベルリンの楽器博物館にて悪魔の楽器に出会う

          La Folle Journée2024に行こうと思った

          音楽学大学院生の週一アウトプット*32 今日のトピックはほぼ日記のようになってしまう気がする。先日ふとフランスのナントで開催されるLa Folle Journée 2024に行こうと思ったのだが、私はよく考えたらこの祭典のことをよく知らなかった。もちろんクラシック音楽の大きな祭典であり、ラフォルジュルネ東京の影響もあり、その存在は知っているつもりだった。 しかし、あまり現地に行くチャンスは日本にいたときはなかったので、ナントなく遠い地の話として細かい情報は知ってもすぐに記憶

          La Folle Journée2024に行こうと思った

          音楽が世界の共通言語ではないということについて④

          音楽学大学院生の週一アウトプット*31 先週は少し違う話題を挟んだが、今週のアウトプットは再びこのテーマに戻る。前回のアウトプットはこちら↓ 少し前回から時間が空いてしまったので、前回の内容をまとめると、音楽の理解を言語の理解と同じように定義して考えてみたところ、演奏者が音で表したものを聴き手が演奏者と同じように認識するということが音楽の理解ということになった。 それでは、とある国の音楽が言語も違う異国で聞かれた場合を考えてみる。この場合、例えその国でその音楽(曲)が多

          音楽が世界の共通言語ではないということについて④

          フランスのラップ le rap、日本のラップ

          音楽学大学院生の週一アウトプット*31今週は、フランスのラップ音楽について少し綴っておこうと思う。最近、ネット上でとても興味深い記事を見つけた。この記事の中では、アメリカのヒップホップとの違いがわかりやすく説明されている。 「フランスのヒップホップ/ラップは、如何に「移民」というアイデンティティと向き合ってきたのか? その30年以上の歴史を俯瞰する」© mediagene Inc. フランスは移民の国。人種のサラダボウルと呼ばれるアメリカに引けを取らない程にたくさんの人種

          フランスのラップ le rap、日本のラップ

          音楽が世界の共通言語ではないということについて③

          音楽学大学院生の週一アウトプット*30今回も前回の続き。前回はこちら↓ 今日は、音楽の理解を言語の理解と同じように定義して考えてみる。まず、言語は、言語学的に言って[意味するもの]と[意味されるもの]の関係となる。つまり、「犬(inu)」という単語(さらにいうとその音)とその犬自体があり、前者が[意味するもの]、後者が[意味されるもの]。前者と後者が日本語話者の中で共通の結びつきを認識することでこの単語は成り立っている。前者は、英語話者の間では、概ね "dog" となる。す

          音楽が世界の共通言語ではないということについて③