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クラシック音楽でのエキゾチックへの関心とフォークへの関心②

音楽学大学院生の週一アウトプット*37

今回は、前回の続きを書いていこうと思う。
こちらが先週のアウトプットだ。

先週は民俗音楽と民族音楽が別物でありながら、共有領域があるという話をした。私は、クラシック音楽での歴史的な音楽理論以外への関心はすべてをエキゾチックへの関心としてくくるよりも、もう一つフォークへの関心というものがあるように思った。今週は、その感覚を少し展開して書いていこうと思う。

エキゾチックexoticとは、つまり異国風ということであり、フォークfolkはフォークロアfolklore、民俗、民間伝承を指す。この違いは、音楽に当てはめた場合、前回確認したような違いと認識の難点が出てくる。

クラシック音楽での民族的な要素を取り入れたジャンルというと国民楽派を思い浮かべる人が多いだろう。国民楽派とは、19世紀中旬から20世紀にかけて民族主義的な要素を含んで作曲した作曲家たちを指す。例えば、ムソルグスキー、ボロディン、スメタナ、ドヴォルザークなど。

彼らの音楽は自分たちの民族としての共有財産としての音楽要素を反映させたものなので、フォークへの関心が反映されたもの(最も、多くの民族が国家としての独立を願っていた時代でもあるので「関心」という単語で表せる思いでもないかもしれない。)である。作曲の地点ではそれはフォークへの関心から発している。例えば民謡などの人々の暮らしの中の文化的慣習の一部が「クラシック音楽」という大きなジャンルの中に登用された、ということになる。それでは、この音楽はそのフォーク要素を身体的に懐かしいと感じられる民族としての彼ら自身の間で最も聴かれたのだろうか?

民族的要素が反映された作品はドイツ、フランス、イタリアといったいわゆるクラシック音楽の中心地で人気が出ることが多い。ここでは、それらの民族的要素は「異国」のものであり、「外の」要素である。つまりエキゾチックな要素となる。これらの音楽が受容される地点では、クラシック音楽という枠の中で、「通常」とは逸脱した特徴的なリズムや旋律が使われることで人々の関心をひいているだ。

受容者と作曲者のレベルでは立場が変わってくるために、その関心の内容は変わってくるのである。当たり前だけれど、このポイントは重要であるがゆえ言語化して確認してみた。これは、今日では国民楽派の曲は世界中で演奏され作曲当時のコンテクストもリアリティを欠いてきたため、なおさらわざわざ言語化しないと気にしないことでもある。

ここで、もう一つ別の視点を追加する。国民楽派が行ったような民謡や旋律の登用した音楽が聴衆に届く時にエキゾチックな関心を起こすというふうに書いたばかりだが、これはフォークへの関心でもありうると私は考える。いきなり矛盾していることを書いているようだが、このことは前回の説明ともつながる。彼らが登用したのは民俗音楽であり民族音楽である。クラシック音楽の古い要素と遠く離れてはいないヨーロッパの民俗音楽に対するクラシック音楽の聴衆の関心は、単に「異国」や「外」への関心を掻き立てられると同時に、音階、リズム体系など近しい音楽システムの概念を持っていながら「書かれた音楽」ではない音楽へと向かっているとも言える。

そして、重要なのは次の点。ヨーロッパの民俗音楽はクラシック音楽にとって100%のエキゾチックにはなり難いということ。例えば、日本の雅楽はクラシックに取り入れた場合(近衛 秀麿、カウエル、メシアンなどが有名。)、音程、拍の取り方などはクラシック音楽ではそれまで登用したことのない要素ばかりである。結果、これらはクラシック音楽のジャンルとしては現代音楽に振り分けられるのだが、これはクラシック音楽の聴衆にとって完全に「異国」の要素であり、共有された文化的要素が少ない音楽を登用するということは、作曲のレベルでも聴衆のレベルでもその異物感への関心が強いのだと思われる。

しかし、まだまだ他にも様々な例がある。例えば、アフリカに住んでいたわけではないヨーロッパの作曲家がアフリカ音楽への憧憬をもとにアフリカの音楽を取り入れた曲を作った場合はどうだろうか。また、フランツ・リストのように自身はハンガリーの民謡の民俗的経験がないけれど、そのような要素を取り入れて曲を作るというケースはどうなるだろうか。現代音楽作曲家とも言えるベラ・バルトーク、ゾルタン・コダーイのような作曲家による作品は?民謡収集家が大作曲家に自身が集めた民謡と報酬と引き換えに作曲を依頼する場合は?ガムラン音楽の要素を登用したドビュッシーの作品は?

などなど。この紙一枚分の物事の認識のずれを説明しているような感覚が非常に歯痒く感じられる。まだまだ書くことはたくさんありそう。また来週。

FALL


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