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02 始まりは終わりの始まり...


序章

 これは、講師でありながら教職1年目から小学校一年生の担任を持ち、その高い評価から隣接する小学校に切望され、また六年生についでクラス運営が難しい、一年生の担任をしながら本採用を目指していた若者が犯罪者にされるまでの軌跡である。

無邪気なひと言

 1月の終わりの金曜日、Cちゃんは学校から帰ると友達の家に遊びにいく約束があるので、汚れた靴下を履き替えていた。突然楽しそうに「何々先生ね、パンツまで脱がすんだよ。」と言いだした。

 C母は心配になってCちゃんに問いただした。場所は1年1組の教室に隣接する倉庫(納戸)等など。心配になったC母は他のお母さん達にLineでCちゃんから聞いた内容を拡散した。 その中の一人であるA母は娘のAちゃんに聞いたところ自分の娘もその様な事があったらしいとなり、学校に電話や直接行ってみたが、既に教職員は誰もいなかった。

 A母はA父にこの事を伝え、A両親はその日の内に警察に通報(相談)をした。C母は、先生に脱がされたというレギンスを含めた下着や衣類全てを証拠品として警察に預けた。

 その日、1年1組の担任は朝から体調がすぐれなかった。万が一インフルエンザを発症しても同僚に迷惑をかけないように早めに次週の用意をする必要があったので図工の時間を早めて。各自が油粘土で作品を作っている間、次週の課題の準備や印刷をするために児童の様子をみながら教室と印刷室を往復していた。

 教室は全ての壁がガラス張りでドアが無く、廊下との仕切りがないオープン教室だ。 特に担任の教室は廊下に面した自転車置き場や校庭に面していて、教室に入らずとも保護者は授業や子どもの様子を、授業参観の如く随時観ることができる。更に廊下は休み時間や給食の時間などには移動の為に多くの先生・他の学年の児童などが通る。授業中は隣のクラスに学年主任がいて、万が一担任が不在中に喧嘩などの騒ぎやお漏らしがおきても相互に助け合っていた。

美浜打瀬小学校 位置関係

 悪い予感はあたり、次週の課題を教卓の上に用意し終えて気が抜けたのか、立っていることもつらくなりだした。いつもならば、休み時間や給食でも目が離せない児童を無事に家へ送り出すと、職員室で一息ついてから行事や次の授業の準備などの仕事がやっと始められるのだが、今日ばかりは帰宅の徒についた。念のため、学校近くの病院に立ち寄り診察を受けたが検査では陰性ということで、自宅の最寄り駅までなんとか辿りつけたが、あとで駅から連絡があるまで定期券を落としたことにも気づかずにいた。

 翌日、更に悪寒と発熱。かかりつけの医者に診てもらったところ、インフルエンザの陽性反応がでた。今度はゾフルーを処方してもらえたことで体調が急激に改善されていった。土曜日ということもあり、両親や妹と同居なので身の回りの心配もく、そのまま眠りについた。

 警察はA両親からの相談を受け、翌日の土曜日には学校に出向いていた。対応は校長からの指示を受けたK教頭であったが、児童の名前をはじめとする詳細は保護者の承諾がないため知らされず、事案があった倉庫と加害者とされた担任の名前のみを知った。

    警察が学校に来た翌日の日曜日、CとAの両親が学校に出向いた。K教頭とT学年主任が対応した。その時、学校は事件の概要とその児童二人の名前を知ることとなった。

開演を告げるベル

 校長からの携帯電話の着信で久しぶりのまどろみが終わった。 「インフルエンザで休校する予定なので自宅待機」との指示を受けた。それが一転して「保護者からのクレームがあったので、指示があるまで自宅待機」とあり、何の理由説明も無いため、どうの様なことが起こっているのか問い正したが、答えてもらえないまま。次の電話では「火曜日には教育委員会にいって調査に強力すること」「学年主任や他の先生への連絡はしないこと」「必要であれば校長経由で行うこと」等の指示が出された。

 校長自身がインフルエンザだということで、教育委員会にはK教頭と二人が出席した。  具体的な児童名やクレーム内容などは聞かされず、何か心当たりがあることを聞かれた。 男性教諭が女児を着替えさせてしまった事で去年の9月に職員会議があった。その男性教諭が私だとK教頭共々誤認していた。ただ、断片的な内容から、先週の金曜日の図工に担任が隣の倉庫でわいせつ行為をしたという嫌疑をかけられていると推察できたので、それも含めそのようなことは断じてないと答えた。 また、緊急アンケートを行う旨伝えられ、問題はないかと念を押されたので、それも問題無いと答えた。


突然の来訪者

 第一回目の教育委員会の聞き取り後、校長からの聞き取りやクレームについての内容説明も無く自宅待機をしながら、最後の保護者会の準備をしていた。 その週の週末の夜、珍しく担任の父親から気晴らしに飲みに行くとの誘いを受け外出した。 母親とは良く会話をしていた。始発電車で出勤し、終電で帰る息子の体調管理と悩みを聞いてくれていた。ただ、講師とは言え家族に対しても守秘義務がある。 当たり障りのない話。例えば学校で飼っているウサギの名前や漠然とした児童への対応などに限られるが、クレームがあって自宅待機と教育委員会にいかなければならないと伝えただけで、一人ふさぎ込んでいたのを見かねたからだろう。

    たわいない父親の経験(失敗談ばかりだが)を肴に呑んでいると、突然、父親の携帯電話が鳴った。 母親は妹と恐怖に震える声で「<担任のフルネーム>を言いながら玄関先で近所にも響く大声で「このままでは大変なことになるぞー」と叫ぶ二人組の男が来たが、しばらくしたら、帰ったようだ」とのこと。 無論アポイメントなどはなく、父親はトラブルを言い出した保護者の父親ではないかと想定。「もし今度来たら警察に即座に電話するよう」に指示をだした後、その足で守秘義務の内容でも話せる弁護士に相談しにいく事になった。

  弁護士への紹介を終え父親が一旦離席したあと、担任は弁護士に相談を始めた。しばらくすると母親から父親の携帯に電話があった。I校長と名乗る男性から先ほど固定電話に電話があったとの連絡。突然の来訪者はI校長とK教頭だったと判明した。母親は「夕方から気晴らしに父親とでかけていて不在である」旨伝えた。 弁護士は父親からの電話の内容を踏まえ「教育委員会の調査には弁護士といえども同席はできないが、身に覚えがないことでも、解決の手がかりになることもあるので積極的に対応するように」と。 但し、「あまり考えたくないが、理不尽な要求や指示があるようであれば、再度相談して欲しい」となった。

 翌日の土曜日の朝、担任の父親がI校長に電話をいれた。 トラブルの内容と調査の方針などを確認をしたいとの申し入れをして、すぐにI校長とK教頭はやってきた。 開口一番、I校長が「昨晩、K教頭が玄関先で大声をだした」と陳謝した。防犯カメラの記録ではK教頭では無かったのは確認済みであった。初対面で失礼は承知の上で、あえて、双方で記録(音声記録)をとる事を父親は提案した。 

 I校長からは担任が今回の件で早まった行動をしないよう、両親に自宅で見守るように伝えに来たとのこと。 その後直ぐに教育委員会の第一回聞き取り調査に同席していたK教頭がいるにもかかわらず、その内容について担任の口から話させようとしだした。この場で校長が明示的に許可をしていないのに職務上知り得た情報・特に児童に関する内容について、家族とは言え両親がいる場で話すことはできないはずだ。 更にI校長から身に覚えがあるだろうと言われても、教育委員会でた内容では漠然としすぎていて、解決に向けた話し会いをするならば、クレームの内容を開示して部外者を交えず三者で聞き取りの場でなければこれ以上答えようが無いと伝えた。

  o 校長はわいせつ事案ということでこれ以上の詳細はいえない
       o 校長は教育委員会の指示で動いている
       o そのため調査方針などについては教育委員会へ直接問合せ
       o 教育委員会の調査で疑いが晴れるまで担任をはずす
  o 無論、調査で疑いが晴れれば、即時復帰ともに、来年度も
   約束通り担任を継続させる
       o 人として正しく生きて欲しい。両親の愛があれば大丈夫

   昨晩、相談した弁護士が可能性のひとつとして話していたが、意味のある聞き取りなどもせずに、トラブルの早期収束をするためにしっぽ切りとその口実を本人や両親から確保をする事により、児童の保護者に対して穏便にすませる為の両親の説得と後押しが始まったとの確信をした。

 父親は教育委員会 Y課長に調査方針の提示とI校長の言動に関して電子メールを送り、追って返事するとの返事が来たが、結局、それ以降Y課長からは何も返事がなかった。

 翌日、日曜日だったが弁護士にこの事をつげ、教育委員会宛てに弁護士から調査に全面的に協力する事や校長らの先般言動について書面を送った後、2回目の教育委員会の調査に望んだが、アンケートに別の児童についてもあったという事のみが伝えられた。また、保護者が会いたいと要求された場合には会うことができるかと言う確認に対して、「誤解を解くために必要であれば是非会いたい」と強く希望した。

 その後、調査が済むまで随時対応ができるよう、過去の教材学習の研究をテーマとして研修センタで勤務したがその希望--教育委員会が間に入った追加調査や本件の解決はもとより保護者に会う--ことさえも叶うことはなかった。

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