見出し画像

『ときめき女神転生』魔界に落ちたきらめき高校

詩織「始まりがあれば終わりがあるように、出会いがあればまた、別れもあるのです。
永遠に続く二人の関係、それはどんなに幸せなことでしょう。
ここ、きらめき高校には、一つの伝説があります。校庭のはずれにある一本の古木(こぼく)
そのたもとで満月の日に、二身合体で生まれた悪魔は、永遠に幸せになれるという伝説が…

私、如月 未緒(きさらぎ みお)。
私立「きらめき高校」の卒業生で、今も文学好きの夢見る女の子。
40才独身です。やだぁ、言っちゃった!

今日は、きらめき高校の同窓会があるんです。
卒業以来会っていない人もいるから、楽しみだな。

私は、懐かしい校舎に、少し早く到着しました。
そして、校庭のはずれにある伝説の木の下に行ってみました。

如月「懐かしい…ここは、全然変わってないのね」

思えば卒業式のあの日、
私は物陰に隠れて、男性同士のカップルが誕生する瞬間を、今か今かと待ち続けていたのでした。

如月「あれから、20年か~」

私は今、BL同人作家として、夏と冬のコミケだけで稼ぐ生活をしています。

と、その時、
大地が大きく揺れたかと思うと、激しい雷鳴が轟き、空が真っ暗になってしまいました。

如月「何!?何が起こったの?」

見渡すと、きらめき高校全体が禍々しい雰囲気に包まれていました。
私は、おそるおそる校舎に向かって歩き出しました。

悪魔「ウキャキャー!」
如月「何、何なの!?」

突然、見たこともないような恐ろしい魔物が飛び掛かってきました。

如月「た、助けて…!」
ダグザ「下がれ、小娘!」
如月「えっ?」
ダグザ「下等な悪魔よ、散るがいい!マハラギオン!」
悪魔「ギョエエエェ~!」

ダグザ「大丈夫か、小娘」
如月「どなたかは存じませんが、ありがとうございます…」

助けてくれたのはいいけど、どうみてもいい人には見えないなぁ…
しかも、小娘って普通は悪口だけど、年齢よりも若く見られたと思うと、ちょっと嬉しいのがシャクだわ。

ダグザ「よく見ると、娘というほど若くはないようだが、俺は魔人ダグザ。時間がないので、率直に用件を言うぞ。俺と契約して、悪魔人間になってよ」

はぁ?なに言ってんだ、コイツ。

ダグザ「見ての通り、この『きらめき高校』は、何者かの手によって、魔界に落とされてしまったようなのだ。平和な学園を取り戻すため、俺に力を貸してほしい」

如月「確かに元の学校には戻りたいけど、なぜ悪魔人間になる必要があるんです?」

ダグザ「お前たち人間が、悪魔と戦うには力が必要だからだ。悪魔と戦うために悪魔の力を手に入れる。お前たち人間の世界では普通ではないのか?『デビルマン』にそう書いてあった」

如月「ダグザさん、マンガとか読むんですね」

ダグザ「うむ。もちろんタダでとは言わん。悪魔人間になってくれれば、どんな願いもひとつだけ叶えてやろう」

如月「どんな願いでも…?」

ダグザ「そうだ。実際お前のクラスメートでも、すでに願いを叶えて悪魔人間になった者もいるぞ」

如月「マジっすか」

確かにそれは魅力的だけど、悪魔人間になるっていうのは結構なリスクよね…

如月「分かりました。でも、少し時間が欲しいので、学校の様子を見ながら、考えさせて頂けませんか?」

ダグザ「フン、好きにするがいい。だが、悪魔の力無しで、この『きらめき高校』を生き延びるなど、無理な話だ」

私とダグザは、学校を一通り見て回った後、旧校舎の向こう側に怪しげな塔を見付けました。

如月「あんな塔、学校にあったかしら?」

ダグザ「『ときメモ2』に出て来た、伝説の鐘がある時計台ではないのか?」

如月「あれは『ひびきの高校』です!っていうか、ダグザさん、ゲームとかやるんですね」
ダグザ「うむ。確かにあの塔が怪しいな。そこのマンホールから、地下道を通じて中に入れるんじゃないのか」

そんなに都合よく行くかしら…?
と思っていたのだけれど、マンホールを抜けると、そこは塔の中でした。

如月「学校の外とはまた違って、不気味な雰囲気…」

ダグザ「油断するな、小娘!」

悪魔「なぜ人間がここにいる?ちょうどいい、魔神皇(まじんのう)さまの手土産にしてくれるわ!」

如月「キャーッ!」

優美「危なーい、死んじゃうよ~!」

悪魔「なにっ!」

優美「危ないなぁ~、もう少しで本当に死んじゃうところだったよ~」

如月「え、あなた、早乙女君の妹さん…優美ちゃん…?」

優美「えへへっ、そうだよ~。優美ねぇ、悪魔と合体して、悪魔の力を手に入れたんだ」

えっ?悪魔と合体?
そういえば、何だか優美ちゃんの顔色が悪い。そして、私とあまり変わらない年齢なのに、フリフリのドレスを着ている。

ダグザ「フッフッフ、見たか小娘。これが悪魔人間だ。さぁ、名乗りを上げるがいい」

優美「早乙女優美改め、魔人アリス優美だよぉ~。ウォーウォー」

悪魔「小賢しい!まとめて葬ってくれる!」

優美「うぇ~ん、優美、死んじゃうよぉ。だから、優美が死なないように、アンタ死んでくれる?」

悪魔「グゲェェェ~」

如月「優美ちゃん、すごい…」
優美「如月さんも、早く悪魔人間になったらいいのに。どんな願いも叶えて貰えるよ!」
如月「ちなみに優美ちゃんは、どんな願いを叶えたの?」
優美「優美ねぇ、古今東西の全部のゲームハードとソフトをもらったんだ!あとね、藤波辰巳の『マッチョ・ドラゴン』のCD!プロレスファンとしては、これは外せないよね!」

ダメだ、まるで成長していない…

ダグザ「さぁ、先を急ぐぞ」

魔人アリス優美を仲魔にした私たちは、どこまでも続く塔を上って行きました。

優美「優美、もう疲れたよぉ~、死んじゃうよぉ~」
如月「死なない、死なない。悪魔なんだから」
ダグザ「悪魔が死んだら、専用の墓場に行くのかな?超人は、超人墓場に行くじゃん?」
如月「ダグザさん、私たちと世代近くないですか?」

そうこうしているうちに、いかにもボスっぽい悪魔が、私たちの前に立ち塞がりました。

悪魔「よくぞ、ここまできた。だが、魔神皇(まじんのう)様の元に行かせるわけにはいかん」
如月「魔神皇…?」
ダグザ「それが、黒幕の名前か?」

優美「いいから、とっとと殺っちゃおうよ~!アンタ、死んでくれる?」
悪魔「効かぬわ!」
ダグザ「呪殺無効か!」
悪魔「死ねい!」

優美「やばい、これはホントに優美…死んじゃう…かも…」

悪魔「あとは人間の女と、古き魔人だけだな…」

如月「ダグザさん、何とかしてください!」
ダグザ「やばい、どうしよう」
如月「ちょっと~!」

悪魔「仲良くあの世へ行くがいい!

古式「あらあら~?」
悪魔「なにっ!?物理反射だと!」

如月「えっ?古式さん?」

古式「はい、古式ゆかりでございます~」

ダグザ「おお、もうひとりの悪魔人間が来たか」

えっ、古式さんも悪魔合体したの?
っていうか、確かに古式さんなんだけど、全体的にゾウさんっぽいような…

ダグザ「さあ、お前も名乗りを上げるがいい」

古式「はい~、古式ゆかり改め、こしギリメカラゆかり、でございます~」

えっ、えっ、いいの?古式さん、こんなゾウさんみたいなかんじでいいの?

ダグザ「さあ行け、こしギリメカラゆかりよ!」

古式「はい~、行きますよぉ~!」

悪魔「うわあぁぁ~、来るな!来るな~!」

古式「お命、頂戴します~」

如月「古式さん、なんていうか、スゴイ…」
古式「恐れ入ります~」

こしギリメカラゆかりを仲魔にした私たちは、ついに塔の最上階にたどり着きました。

如月「ここが最上階みたいね…」

好雄「よくここまで来たな」

如月「あなたが魔神皇、っていうか、早乙女君!?」
優美「お兄ちゃん!」
古式「あらあら~?」

ダグザ「なぜ、『きらめき高校』を魔界に落とすようなマネをした?」

好雄「貴様らには分からんだろうな。
プレイヤーはまだいい。卒業式の日に誰からも告白されなかったとしても自業自得だ。
自分の意志でプレイをやり直すこともできる。だが、俺は…
せいぜい主人公の好感度が、上から6番目のキャラとくっつくだけだ!自分の意志とは関係なしにな!」

如月「なんてことなの…」
優美「お兄ちゃん、かわいそう…」

好雄「だから、きらめき高校の伝説など、この俺が変えてやる。魔界の力を使って、この俺が好きなように変えてやるんだ!」

ダグザ「やばい、勝てる気がしない」
如月「ちょっと、簡単に諦めないでよ!」

好雄「フハハハハ、消し飛べ!スペシャル好雄パーンチ!」

如月「キャーッ!」

魔神皇ヨシオの攻撃で、私以外はみんなやられてしまったようだ。

如月「早乙女…君…」
好雄「ドラマCDでカップルになったよしみで、お前だけは手加減してやった。だが、これで終わりだ!」

もうダメ…
そう思った瞬間、

詩織「待ちなさい、早乙女君…」

好雄「貴様は、藤崎…詩織…?」

詩織「いいえ、私は藤崎詩織改め、ふじサキエル しおルシファー。神と悪魔の全てを統括するもの」

大天使と、悪魔王、そしてきらめき高校のアイドル、まさかの三身合体…
さすが、藤崎さん…!

詩織「あなたの無念はよく分かるわ。でも、そのために復讐なんて悲しいでしょう。
いつか、あなたが主役のスピンオフ作品が誕生することを願って、あなたのために歌いましょう、旅立ちの詩(うた)を…!」

好雄「うおぉぉぉぉぉぉぉぉー!」

如月「藤崎さん、ありがとう。何だかもう、何回転生しても、あなたにだけは勝てないと思ったわ」
詩織「そんなことないわよ、如月さん。初代ときメモには、メガネっ子はひとりしかいないんだから、その誇りを持って」
如月「ありがとう。それにしても、藤崎さんこれからどうするの?やっぱり、唯一神YHVHを倒しに行くの?」
詩織「うーん、それもいいんだけど、唯一神を倒して、友達に『神殺し』とか噂されたら、恥ずかしいし」
如月「あっ、はい」

その瞬間、大きな光に包まれて、私は意識を失っていた。

如月「うーん…」

気が付くと、私は伝説の木の下に倒れていた。
誰かが、私のことを揺さぶっている。

好雄「大丈夫?君、如月美緒さん、だよね?」
如月「えっ、あなた、もしかして、早乙女好雄君?」
好雄「おっ、覚えててくれたんだ!そうだよ、俺、早乙女好雄。大分年取ったから、分からないかと思ったよ」

確かに、早乙女君は年相応の貫禄が付いている。
でも、十分に素敵だ。
そうだ、私はきらめき高校の同窓会に来たんだっけ。

好雄「立てる?」
そう言って、手を貸してくれた早乙女君。
捕まった手は、とても温かかった。

好雄「じゃあ、行こうか。同窓会、始まっちゃうぜ!」
如月「うん!」

手をつないで駆け出しながら、私は、久々の恋の予感に胸がときめいていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?