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『ときめきメモリアル40(forty)』あれから20数年後…

私、如月 未緒(きさらぎ みお)。
私立「きらめき高校」の卒業生で、今も文学好きの夢見る女の子。
40才独身です。やだぁ、言っちゃった!

今日は、きらめき高校の同窓会があるんです。
卒業以来会っていない人もいるから、楽しみだな。

私は、同窓会の会場のお店に、5分前くらいに到着しました。
至って普通の居酒屋です。

居酒屋の個室に通されると、予想通り一番乗り。
まぁ、メンバー的に、そうなると思いました。

私はあまりお酒を飲めないので、ウーロン茶を注文して、みんなを待つことにしました。
しばらくすると、誰かがやってきました。

片桐「Too long time~、お久しぶりね!」

これは間違えようがありません。片桐(かたぎり)さんです。

如月「片桐さん、お久しぶりです~。
先に飲み物だけ頂いちゃってますけど、何、飲みます?」

片桐「そうね~、アイムソータイアードだから、
ファーストドリンクは、バブリーなエクスプロージョンをがっつり決めたいわね!」

昔よりルー大柴化していて、一体何のことだか良く分かりません。

如月「えっと、とりあえずビールでいいですか?」
片桐「ザッツライト!それよ!」

どうやら、合っていたようです。
ビールが来ると、2人で先に乾杯して、近況を語り合いました。

如月「片桐さんは、今は何をされてるんですか?」
片桐「聞いちゃう?早速それ聞いちゃう?カモンベイビー、チェケラ!」

もはや、何だか良く分からない人になっています。

片桐「あたしはね~『ボカロP、なう』よ!」
如月「ボカロ…?ボーカロイドで曲を作ってるんですか!スゴイですね~!」
片桐「それほどでもナッシングよ~」
如月「そういえば、高校時代も、カラオケでオリジナル曲歌ってましたよね。『恋はほどほどに』でしたっけ?」
片桐「ちょ、ストップ!それはマイ・ダークヒストリア、黒歴史なのよ」
如月「えっ、そうなんですか?」

片桐さんの話を聞いてみると、作詞・作曲はさておき、自分で歌うのには限界を感じて、
それで、ボーカロイドに歌わせることにしたのだという。
そうなんだ~。『彩(いろどり)のラブソング』のエンディング曲とか、文化祭で歌ってたのにねぇ。
と私は思った。

片桐「で、如月さん。あなたは何してるの?ユー、答えちゃいなよ!」
如月「えっと、私は…」

私が答えかけた時、また誰かがやって来た。

美樹原「ごめんなさい!私、お店間違えて、遅れちゃって…。あぁ…恥ずかしい…」

如月「もしかして、美樹原(みきはら)さん?」

美樹原「はい、そうですぅ。お久しぶりですぅ。すみません、遅れちゃって」

そういいながら、ペコペコ頭を下げている。
高校時代と変わらず、ヘルメットみたいな髪型だ。もう40になるのに。

如月「みんなまだ来てないから、そんなに気にしないで下さい。美樹原さんも、何か飲みます?」

美樹原「あ…じゃぁ、何かもらおうかな。えっと…その…ホッピーセット黒、中多めで」
片桐「オー、ワンダフル」
流石の片桐さんも、ちょっと驚いている。

美樹原「あれ、一杯目からホッピー、ダメですか…?あの…すみません!」
如月「いや、ダメじゃないんですけど、何て言うか、美樹原さんのイメージと合わないって言うか…」
片桐「そうね。ユー、ビールが飲めないから、カシスウーロンとか、そういうのを頼むと思ったわ」
美樹原「す、すみません!私、恥ずかしい…」

などと言いつつも、美樹原さんは出てきたホッピーをグビグビ飲んで、早速、中をおかわりしていた。
どうやら、かなり行ける口のようだ。
タイミングを見て、私は美樹原さんに聞いてみた。

如月「美樹原さんは、今は何をされてるんですか?」
美樹原「私ですか?私は今、あの、その…ネット声優…をやっています…」
片桐「声優?オー、ワンダフル!ユー、深夜アニメとか、ニチアサとかに出ちゃってるの!?」
美樹原「いえ、その、そういうのには出てないんですけど…」
如月「それでも声優なんてスゴいですよ」
片桐「ミートゥー。私もそう思うわ。最近の声優さんは歌ったり、ダンスしたりするんでしょう?
ほら、あれ、えーっと、『ライブ・ア・ライブ』とか『シンデマスガール』とか」

片桐さんに言われて、美樹原さんはブンブンと激しく首を振って否定した。
美樹原「違うんです!そういう人前に出るのが、ちょっとムリなので、ネットだけの活動にしてるんです、恥ずかしいから…」
片桐「オー、そうなの。まぁでも、それはそれでステキなサムシングよね~」
美樹原「ホントですか!ありがとうございます!…ところで、如月さんは、今は何をしてるんですか?」

大丈夫。ボカロPとネット声優なら、まだ私も対抗できる。
それに、ここまで家庭の話が出てないところを見ると、二人ともまだ独身のはず。
よし、このタイミングなら私の近況も報告できるわ。

如月「えっと、私は…」

と言いかけた時、バタバタと廊下を走ってくる音がして、個室の戸が勢い良く開いた。

朝日奈「ごっめ~ん!電車がモロ混みで!」

如月「朝日奈(あさひな)さん!」
片桐「ユー、電車が混んでても遅れないでしょ。相変わらず下手な言い訳ね」
美樹原「わぁ、朝日奈さん!お久しぶりで、私ちょっと恥ずかしいです…」

朝日奈「みんな全然変わらないね~!ホント、遅れちゃって、ごめ~ん!」
そういう朝日奈さんも昔と全然変わらない。それに何だかとても幸せそうだ。

如月「朝日奈さんは、何、飲みます?」
朝日奈「うーん、久々の再会だから少しは飲みたいんだけど、つわりが酷くってね~。アルコールはやめとくわ」

独身組から表情が消えた。

私は心の中でつぶやく。
え、朝日奈さん、今なんて?つわり?
待って、ちょっと待って。
この独身組の中で、私がようやくマウントを取れそうな状態で近況を報告しようとしたのに、
あなたは何、言っちゃってくれてるの。
一気に私たちに爆弾が付いたわよ。高校時代に早乙女君が教えてくれてた、アレよ。

朝日奈さんは私たちの気持ちなど気にせずに、幸せそうに語る。

朝日奈「三人目だから、だいぶ慣れてはいるんだけどね~。上の子が、下の子の面倒見てくれるようになったし」
そう言って、お腹をなでた朝日奈さんの左手の薬指に指輪が光った。

独身組が一斉に目をそらす。
まぶしい!直視できない!
なんなの、どうしたらいいの、この状況。
笑えよ、べジータ。
って言われた時のべジータの気持ち、今ならすごく良く分かる気がする!

そんな中、最初に正気に返ったのは美樹原さんだった。
美樹原「…ええっと、ひとまず、おめでとうございます…」

さすがネット声優!あれか、演技はお手の物か!
片桐さんはダメだ。完全に目が死んでいる。
ジョセフに両腕をズタズタにされた、ワムウのようになっている。

美樹原さんは迫真の演技で、笑顔の朝日奈さんと渡り合って行く。
流石だぜ、ネット声優!
だが、美樹原さん、アンタ、ホッピーの中と外、逆さだぜ…!

この状況でさらに、誰かがやって来たようだった。

紐緒「着替えを出すのに手間取って遅くなったわ。そろそろ、実験の季節ね」

如月「紐緒(ひもお)さん!」

キター!マッドサイエンティスト、キター!
紐緒さんならやってくれる!
高校時代、男なんて「知性の低い猿」とか「下等な哺乳類」とか言ってた紐緒さんなら、
きっと朝日奈さんをブチのめしてくれる!

朝日奈「紐緒さん、お久しぶり~!何だか雰囲気変わったね?」
何も知らない朝日奈さんが話しかける。
フハハ、バカめ!次の瞬間、貴様は、紐緒さんの最終兵器「真・世界征服ロボ」の前に屈するのだ!

紐緒「そうかしら?だとしたら、きっと主人のせいね」
と言って、薄く頬を染める紐緒さん。

え?なに、その単語。
主人?紐緒さん、メイドにでもなったの?
わけがわからないよ。
紐緒さんが既婚者であるという事実を、脳と心が全力で否定している。

ふと見ると、片桐さんは、グラスをかき混ぜながら、何やらブツブツ言っていた。

片桐「シュシュを両手につけて、女子力100万パワープラス100万パワーで200万パワー。
いつもの2倍のスカートひらりが加わり、女子力200万×2の400万パワー。
そして、いつもの3倍の補正下着を加えれば、400万×3の女子力1200万パワーだーっ」

その隣で美樹原さんは、日本酒を浴びるように飲んでいた。
あまりの事態に、二人とも脳みそがクソになっているようだ。

独身組3人を放置して、既婚者2人が話しているのが遠くで聞こえた。

朝日奈「そういえば、我らのアイドル、藤崎詩織(ふじさき しおり)はどうしたのよ?」
紐緒「確かにそうね。彼女が遅れるなんて、珍しいわ」

と二人が言った瞬間、

詩織「遅くなっちゃって、ごめんなさい!」

戸を開けた瞬間に神々しいばかりのオーラを漲らせて
「きらめき高校」のアイドル藤崎詩織が、降臨した。

詩織「本当にごめんなさい。韓国にレンタルする土地の買収に手間取って」

藤崎さん、何を言っているの、もう全然わからないわ。
だって、オラ、人間だから…。

朝日奈「土地の買収?」
紐緒「藤崎さん。あなた、一体何をやっているの?」

詩織「そっか~。みんなには話してなかったんだっけ。私ね、今、東京都知事の第一秘書をやってるの」

なん…だと?

朝日奈「すっごーい!」
紐緒「フフフ、まさかあなたに世界征服の先を越されるとはね」

詩織「二人とも大げさね。そうだ!みんなでもう1軒、一緒に行かない?
経費で落とせる料亭があるの。私は公用車で移動するから、みんなはタクシーで来てくれる?」

朝日奈「公用車だって、すっごーい!」
紐緒「私たちも、それに乗せて行きなさいよ」

それを聞いて、藤崎さんは少し困ったように言った。

詩織「うーん、みんなを乗せて行きたいのはやまやまなんだけど、
一緒に行って、週刊誌に噂とか書かれると恥ずかしいし…」

その瞬間、片桐さんが飛び上がって叫んだ。
片桐「週刊誌!センテンス・スプリング!文春!」

こうして、藤崎さんは公用車で、
独身組三人は、既婚者二人に介抱されながらタクシーに乗り込み、料亭へと向かった。
その後のことは、あまり覚えていない。

そういえば、結局、私の近況を話す機会がなかったのだけど、
私は今、BL同人作家として、夏と冬のコミケだけで稼ぐ生活をしています。

最初の二人にはまだ勝てると思ったんだけど、
後の三人と比べたら、あぁ、めまいが…

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