見出し画像

動機付けの面接 チェンジトーク


「動機付けの面接」またはMotivational Interviewing (MI)は、行動変容を促進するための対話型のアプローチで、特に行動の変更が必要ながらも、その変更を難しく感じている人々を助けるのに有用です。MIの核となる概念は「チェンジトーク」(変化に向けた発言)と「維持トーク」(現状維持に向けた発言)です。

  1. チェンジトーク (Change Talk): これは、クライアントが自分の生活における変化について話すことを指します。具体的には、自分の行動、考え、感情の変化に対する欲求、能力、理由、必要性、そしてその変化に対する具体的な計画についての話です。これらの発言は、クライアントが自分自身に対して説得力のある理由を提供し、自分の行動を変えることへのモチベーションを高めるのに役立ちます。

  2. 維持トーク (Sustain Talk): これは、現状の行動、考え、感情の維持についてクライアントが話すことを指します。具体的には、変化に対する欲求の欠如、変化への恐れや不安、または変化が困難であるという感覚などについての話です。これらの発言は、クライアントが自己変革を遅らせたり、抵抗したりする傾向を示すことがあります。


動機付けの面接では、専門家の役割はチェンジトークを促進し、維持トークを理解し、それに対応することです。その方法は、問いかけ、聞き返し、要約、そして確認を通じて、クライアントが自己変革のモチベーションを見つけ、維持するのを助けることです。
変化ステージモデルと動機付けの面接は共に、行動変容のプロセスに関する理論であり、クライアントがどのステージにいるかによって、動機付けの面接の介入の方法が変わります。以下に、各ステージでの介入の例を示します:


  1. 前熟考期(Precontemplation): クライアントはこの段階では行動変更の必要性に気づいていないか、または考えたくないかもしれません。動機付けの面接では、クライアントの維持トーク(現状維持の話)を尊重し、同時に優しく現状とその結果についての認識を高めるよう促すことが重要です。また、両価性(変わりたいけど変われない)を伴うトークがないかも注意を払います。

  2. 熟考期Contemplation): この段階では、クライアントは行動変更の必要性を認識し始めていますが、まだ行動を起こす準備が整っていません。動機付けの面接では、維持トークとチェンジトーク(変化に向けた話)の両方が見られます。介入は、クライアントが自分自身の価値観と現状の行動との間にどのような不一致があるかを認識するよう助けることを目指します。

  3. 準備ステージ(Preparation): クライアントは行動変更を真剣に考え、近いうちに行動を起こす意思があると感じています。動機付けの面接では、この意志を支持し、クライアントが行動変更の具体的な計画を立てるのを支援します。特にチェンジトークの確認と強化が重要です。

  4. 実行期(Action): クライアントはこの段階で行動変更を実施しています。動機付けの面接では、クライアントの努力と達成を認め、進歩を強化します。また、遭遇する可能性のある障害について話し合い、それらに対処するための戦略を検討するのも重要です。

  5. 維持期(Maintenance): クライアントは新しい行動を維持し、古い習慣を戻らないように努力しています。動機付けの面接では、行動の維持を支持し、クライアントがこれまでの進歩を評価し、必要な調整をするのを助けます。再発(relapse)の可能性とそれを克服するための戦略について話し合うことも重要です。

  1. 再発ステージ(Relapse): この段階は変化ステージモデルの一部ではありませんが、行動変容のプロセスにおいて一般的に見られるフェーズです。クライアントが古い習慣に戻ってしまった場合、動機付けの面接では、再発を学習の一部として位置づけ、クライアントが挫折感や自己非難から立ち直り、再度行動変容のプロセスにコミットするのを助けます。

以上のように、動機付けの面接は、クライアントが行動変容の各ステージで直面する特定の問題や課題に対応するのに役立ちます。介入の具体的な内容や方法は、クライアントの特定のニーズと変化のステージによって異なることを覚えておくことが重要です。


動機付けの面接(Motivational Interviewing: MI)におけるチェンジトークは、クライアントが自身の行動を変えたいという欲求を表現する方法を指します。MIにおけるチェンジトークは一般的に6つの異なるカテゴリー(願望、能力、理由、必要性、活性化、コミットメント)に分けられます。 これらのチェンジトークのカテゴリーは、クライアントが行動変更の準備と実行へ進むためのステップを表しています。

**準備チェンジトーク(Preparatory Change Talk)**は、願望、能力、理由、必要性の4つのカテゴリーに該当します。これらはクライアントが行動変更を考えるための準備段階を反映しています。

一方、**実行チェンジトーク(Mobilizing Change Talk)**は、活性化とコミットメントの2つのカテゴリーに該当します。これらはクライアントが行動変更を実際に行う意向があることを示しています


「MIの山」とは、動機付けの面接(Motivational Interviewing:MI)の理論で用いられるメタファーです。この「山」は、クライアントが準備チェンジトークから実行チェンジトークへ移行する際に経験する心理的な障壁を象徴しています。
準備チェンジトークは、行動の変更を望んだり、可能だと感じたり、その理由を述べたり、必要だと感じたりするクライアントの表現を指します。これらは行動変更に対する考えや感情の初期の段階を示しています。
一方、実行チェンジトークは行動変更を実行する意思が明確になる段階で、クライアントが行動変更に向けた具体的な準備を始め(活性化)たり、明確な約束をしたり(コミットメント)します。
この二つの間の「MIの山」は、準備から実行への移行が容易でないことを示しています。山を登るのは困難で、準備から実行への過程も同様に困難を伴います。特に恐怖、不確実性、自己疑念などが「山」を形成し、クライアントが行動変更へと進むのを妨げる可能性があります。
MIの専門家の役割は、クライアントがこの「山」(図)を越える手助けをすることです。それは、クライアントが自身の恐怖や不確実性を認識し、それに対処する戦略を探すのを支援することを含みます。また、クライアントが自己効力感を育て、実行チェンジトークを増やすことを促すことも含みます


動機付けの面接(Motivational Interviewing: MI)におけるチェンジトークは、実際には水面に浮いている葉のようなものと考えることができます(下図)。この葉はクライアントの行動変更に向けた欲求や思考を象徴しています。

MIの専門家として、私たちの目標はその葉をゆっくりと、しかし確実に自分の方へと引き寄せることです。しかし、これは繊細な作業で、力任せに水を掻いたり、急ぎすぎたりすると、葉は逆に遠ざかってしまう可能性があります。つまり、クライアントが行動変更を望むチェンジトークは、無理に引き出そうとすると逃げてしまう、つかみどころのないものであるというわけです。

これと同じように、クライアントが自発的にチェンジトークを表現するためには、その人が自分自身で考え、感じ、話す空間を尊重し、安全で開放的な対話の場を提供することが重要です。
なお、このメタファーは完全に一致するものではなく、あくまで一部の視点を示すものであることを理解しておいてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?